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「ええッ!?」
「低ッ」
非情な評価にメグロとカタギリの顔が滑稽なほど引きつった。メグロがこの201X年でも有名な、男性向けファッション雑誌を取り出しながらうろたえる。
「バ、バカな。こーしてちゃんと201X年版『メンズ ミンミ』でイチオシのコーディネートを実践したはずなのにっ」
「おまえ、これ本当に201X年当時の分なんだろうな!?間違えて五十年くらい前のやつ持ってきたんじゃねーの」
「違わいっ。見ろ、ちゃんと年代は合っている。この写真と同じような服を着れば、女の子みんながときめくビシッとしたファッションになるはずで」
「甘い。甘いですよ、メグロさん。いいですか、そこに載ってる洋服はぜーんぶ、そのへんの男子どもが簡単に着られる服じゃないんです!」
「え、あの、英麻ちゃん…?」
「そうね、英麻ちゃんの言う通りだわ」
香都がメグロの手からサッと『メンズ ミンミ』を取ってみせた。
「いいこと?この手のスタイリッシュな服は聖組の布施くんも含めたこのモデルの男の子たちみたいに、常に人に見られることを意識して見た目も中身も磨き抜いた人だからこそ着こなせるの。安易にセンスのいい服を着たからって自動的にかっこよくなるわけじゃあないのよ。よく覚えておくことね、二人とも」
メグロとカタギリが撃沈したのは言うまでもない。
香都が行ってしまった後、二人はがっくり肩を落とし、隣ではニコが「ブヒヒ」と笑っていた。
「あの、ところで今回の回収任務のサポート役ってもう決まってるんですか?」
英麻はできるだけさりげなさを装って、その件を口にしてみた。新たな宿主が見つかったと知らせを受けてからずっと気にしていたことだった。
「くそお、二十一点……あ?サポート役?サノ先輩とハザマだけど」
英麻と香都による辛口ファッションチェックの痛手から立ち直っていないカタギリが気のない返事をした。鉛をため込んだように英麻の心が重くなる。あの空色の鋭い目が蘇った。投げつけられた攻撃的な言葉も。
「そうですか。やっぱり、今回もいるんですね。ハザマ」
「何、何、英麻ちゃん。ハザマとケンカでもしたの?」
メグロが軽口をたたく。
「えっ…それは」
「何かあったんなら話しちゃった方がすっきりするよー?一つ、俺たちが聞いてあげようじゃん」
その時、どうしてそうしたのかは英麻自身にもわからない。メグロが言ったように単純にすっきりした気分になりたかったのかもしれない。いずれにせよ、英麻は前回のハザマとの衝突について(それにまつわる中学受験挫折の過去の件は抜かして)メグロとカタギリに打ち明けたのであった。