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英麻はごくりと唾を飲む。

「…これ、弥生時代の時と同じだわ!でも、何で急に」

「俺らがそーさせたからに決まってんだろ、おチビタイムアテンダント!我らがメビウスの新兵器、その名も」

「踊り狂い香…」

パイとローがそろって懐から小瓶を突き出した。朱色と黄色のまだらになった液体が小瓶の中でボコボコ泡を立てている。

「こいつをひと嗅ぎした奴はみーんなわけもなく踊りたくなる。そして、踊りのテンションがマックスになった後、一気に凶暴化してターゲットに襲いかかるようになってるのさっ」

「ターゲットは江姫…それとおまえたち……邪魔が入った時のため…我々が前もって…ここの現地人に嗅がせておいた…」

「なっ…てめえら!」

カタギリがパイとローをにらむ。

「さあさあ、お楽しみの第二ラウンドと行こうじゃないか?」

イプシロンがパチンと指を鳴らした瞬間、現地人ダンサーズは豹変した。

赤い目をぎらつかせ、獰猛な肉食獣のごとく彼らは突進してきた。もはや踊ることはなく、家臣から乳母や侍女にいたるまで刀を手に次々と襲撃してくる。

「あっち、行ってってば!…うそ、やだ、こっちからも来たあっ」

イプシロン、パイ、ローにナルシス兵。そして、操られ凶暴化した多数の現地人たち。敵の数は圧倒的に多く、英麻たちは防戦一方に傾いていく。

「…きっともうすぐ特別部隊が来る。それまでの辛抱だ!」

メグロがサーベルを手に声を張り上げた。

「来やしないよ」

イプシロンが笑いを噛み殺しながら言った。

「どういう意味だ?」

サノがイプシロンを見た。イプシロンはしたり顔で再び指を鳴らす。

空中に巨大な逆三角形のスクリーンらしきものが現れた。

「何、あれっ」

「おそらく、メビウスが造ったテレホンスクリーンだと…あっ!?」

タカツカが愕然とした表情になる。

スクリーンにはある映像が映し出されていた。

無限に広がる青い異空間。その中に伸びるクロノロジーランウェイ。

時空だった。白い滑走路のはるか上で、二つののタイムマシンが息もつかせぬチェイスを繰り広げている。

赤い機体と黒い機体。猛スピードで逃走するメビウスの改造タイムマシン、ミダスとそれを追う特別部隊のスコーピオンだった。スコーピオンの操縦席にはオオツジを始め、特別部隊の隊員何人かの顔が小さく見えた。対するミダスは、操縦席の様子はわからなかったが、機体から下方に向かってロープが伸び、男が一人、宙吊りにされていた。顔も粗末な着物も泥で汚れ、浅黒く日焼けしたその男は甲高い声でひーひー泣き叫んでいる。目と眉は細長く、顎はとがっていて狐に似た顔だった。

「あれ?あの人。どっかで見たような」

英麻が呟いた直後、カタギリとハザマが上ずった声を出した。

「おい、あいつまさかっ」

「とっ、豊臣秀吉です!それもまだ農民だった頃の」

「メビウス!おまえら、どういうつもりだッ」

イプシロンがほくそ笑む。

「アハハッ、見ての通りさあ。我々の仲間が農民時代の秀吉を時空まで誘拐し、ああして連れ回してるってわけだ。豊臣秀吉は歴史上の超重要人物。誘拐事件が起こった戦国時代はもちろん、お隣、安土·桃山時代のおまわりどももてんてこ舞い。特別部隊も死力を尽くして救出しようとするに違いない。当然、こっちに来る暇はなくなる。国宝の強奪もそろそろ飽きてきたからねえ、特別部隊を追い払うための新しい囮さあ」

「ふざけんな、過去の時代から秀吉が消えたことで歴史の流れが狂ったらどうするッ!」

ハザマが怒鳴った。

「クク、花びらを奪う時間稼ぎの分だけ連れ回した後、すぐ元に戻せば、歴史への影響も大して出やしないさあ。現に奴が誘拐された以降に存在する、この時代にもまだ目立った変化はないだろう?あったとしてもせいぜいちょっとの間、秀吉の姿が見えなくなるくらいだ」

英麻は少し前に、通りすがりの家来たちが「秀吉が行方不明」といっていたことを思い出した。あれはこの誘拐事件のせいだったのだ。

『―――ひいいいいーッ!おいらには脱農民して将来、ビッグになる夢があんだよお、頼むから命だけは助けてくれえっ!』

ミダスが急旋回する度、秀吉の体は右へ左へ振り回されていた。

「さあ、哀れな秀吉を救うためにも」

イプシロンの目がなめるように江姫を見た。メビウスのスクリーンが消え去る。

「今度こそいただくよ、時の花びらをッ!」

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