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「スピカッ!」
「そんな、うそだろ!?」
スピカの翼は完全に凍っていた。
左右の主翼、後方の尾翼。三つの翼はすべて厚い氷に覆い尽くされ、氷柱が下がり、亡霊のように不気味な姿にスピカは変わっていた。
「くそおっ…」
みなみが万力込めてペダルを漕ぐが、弱々しい紫の光が機体の周りを揺らめくだけで、スピカはまったく動かなかった。
「ちくしょう!あれじゃ、整備復旧に相当、時間かかるぞ」
カタギリの荒々しい声が耳に入ってくる。
「ねえ、ニコ、どうなっちゃってるの?何だってスピカがあんなことにっ」
「ニコだって知らないヨオ、気がついたらあーなってたんだモンッ」
「アハハハハ、ざまあみろだ!」
イプシロンが第八部隊との臨戦態勢のまま、英麻たちを嘲笑った。
「まだわからないかい?これは私らの仕業さ。そのオモチャみたいなタイムマシンを離陸不能にさせるため、私が出した見事な命令で」
「この俺が標的を凍らせるタイプの光線銃をぶっ放したってわけ!オミクロン組が女海賊の手下を氷漬けにした時と同じ手さ。あまりの早業に見えなかったろー?」
パイがひひひ、と笑って光線銃を振りかざす。
「私のセリフを取るんじゃないよ、パイ。さあて…お空に逃げる手段を奪った所で改めていただこうか。お姫サマの時の花びらをねえッ!」
イプシロン、パイ、ローがナルシス兵を率いて再度、江姫を襲おうとする。
「うわっ」
「伏せて、江姫!」
江姫に迫る無数の攻撃を英麻のプロテクトヨーヨーがはじき返した。操縦席から降りたみなみも素早くプロテクトブーメランで応戦する。ハザマたち第八部隊も加勢しかけた時、さらなる異変が起きた。
「うげっ。何だ、こいつら!?」
メグロ、カタギリ、タカツカが度肝を抜かれた顔になる。
現れたのは、例の現地人ダンサーズたち。岩や木、茂みの陰からわらわら出てきた彼らはいまだ踊り続けていたが、これまで以上にどこかがおかしかった。
赤い目。
彼らの両眼は不吉な赤い光を帯び、焦点が合っていない状態で英麻たちを凝視している。生気のない異様な顔。かつて見たことがある姿だった。