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激怒したイプシロンが英麻たちに放り投げた赤いもの、それは、手を触れずに時の花びらを運ぶための、あの赤い杯だった。

「しまった!?」

赤い杯はゆるやかな弧を描いてから、ガシャンッと地面に落ちて割れた。

同時に中から時の花びらが飛び出す。純白の時の花びらは舞子の足元近くに転がっていく。

「これ、江の…」

舞子が時の花びらが花びらを拾い上げた。その手は確かに時の花びらをつかんでいる。

「ナイス、若田さんっ」

「チッ、簡単に手づかみしやがって。返せ、眼鏡娘!それは私のものさあッ」

舞子に飛びかかろうとしたイプシロンの手から赤いサーベルと光線銃がたたき落とされる。みなみが放ったプロテクトブーメランが命中したのだ。

戻ってきたブーメランを受け止めたみなみはイプシロンの前に立ちはだかった。

「今だ、英麻!江姫に時の花びらを戻すんだっ。卑怯オバサンは私が食い止める」

「誰が卑怯オバサンだ、邪魔すんじゃないよッ。このクソガキの無礼娘…ギャア!?」

イプシロンの顔に子ブタ型のニコが貼りつき、みなみに加勢した。顔面をピンク色の大きな餅で覆われたようになったイプシロンの動きが鈍くなる。

「行こう、若田さん!」

「はいっ」

英麻と舞子は連れ立って走りだした。途中、ナルシス兵の攻撃をよけつつ、どうにか江姫の元へたどりつく。

青白い顔で横たわる江姫を抱き起こし、舞子はかすかに震える手で、小さな胸元に時の花びらを近づける。すうっと白い花びらが吸い込まれた。

「うー」

江姫が二、三度、まばたきした。

「うーん…饅頭ならもう食べられんぞお…」

舞子は安堵のため息をつく。

「江…よかった。ありがとう、足立さん」

「うんっ。よーし、あとは」

英麻はスカイジュエルウォッチをかざし、スピカを出現させた。

「みなみ―!準備できたわ、早くスピカの方にっ」

「わかった!」

みなみがイプシロンのサーベルをかわしながら声を張り上げた。そこにメグロ率いる警護犬二匹が応戦し、イプシロンがたじたじになるのが見えた。

目の前に現れた空色の飛行機型タイムマシンを前に、舞子は例のごとくじっと静止しかけていたが、英麻に促され、慌てて我に返った。二人は大急ぎで、半分寝ぼけた江姫をスピカに搭乗させようとする。

「ほら、江姫様っ。ちゃんと自分の足で歩いて!早くしないとメビウスが」

「つぶあんのやつならもう一個だけ、食べてもいいぞ…」

「しっかりしてったら、もーっ!」

そこへニコを頭にくっつけたみなみが到着、さっと操縦席に飛び乗り、江姫を上から引っ張った。あとちょっとでスピカに乗せられそうだ。

カタギリの怒声が聞こえたのはその時だった。

「四人とも今すぐ伏せろッ!」

「えっ…」

英麻、みなみ、舞子、そして江姫はわけもわからぬまま、反射的にその場に伏せた。

ザアアーッとすさまじい音がした。

正体不明の不穏な音。視界が遮られているので何が起こっているのかわからない。

轟音は唐突に止んだ。

英麻はぎゅっと閉じていた目を開けた。自分の体は何ともなかった。すぐそばで伏せている舞子、江姫、操縦席のみなみ、みなみにしがみついたニコも無事だった。

よかった、大丈夫みたい。

身を起こしかけた英麻は不意にぞっとした。

寒い。

体の芯から凍りそうな冷気が流れてくる。

英麻は両肩をしきりにさすりながら、より強く冷気を感じる方へと視線をずらしていった。

「ああっ…」

みなみがうめき声を出す。

英麻の目に映ったのは、無残に青白く凍りついたタイムマシン、スピカの翼だった。

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