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英麻とみなみは護身具を手に二人がかりでイプシロンを迎え撃つ。ハザマはロー、サノはパイとそれぞれ剣を交える。メグロ、カタギリ、タカツカ、警護犬二匹はナルシス兵たちと接近戦を繰り広げ、子ブタ型のニコも超高速の連続タックル攻撃で英麻たちを援護する。
イプシロンは英麻とみなみに対し、目ばかり狙う、後ろから急襲する、といった攻撃を執拗に仕掛けてきた。
「やり口が卑怯なんだよっ」
苦戦気味のみなみがイプシロンに吠えた。
「時間犯罪者が親切に正々堂々と勝負するわけないだろう?どんな手を使ってでもねじ伏せてやるよ、アハハハハッ」
「見下げ果てた根性だな。小皺増えるぞ、オバサン!」
「…………何だって?」
イプシロンのこめかみに青筋が立った。
「ちょっ、みなみってば、ダメよ、そんな呼び方。あのオバサン、怒るとめっちゃヒステリックになって攻撃の仕方も今以上にえげつなくなるんだから」
「英麻だって呼んじゃん」
「え?」
イプシロンの青筋がさら増えた。
「あんたら、よくも言ったね?この私を本気で怒らせると、後で後悔するよッ」
「ちょっと待ってください!」
そう言ったのは、先ほどまで怯えていたはずの舞子だった。舞子はしかとイプシロンを見すえて続けた。
「今の言い方には文法上の誤りがあります」
一瞬、イプシロンの目と目の間が離れた。
「あの、若田さん?」
「後悔、という熟語は『後で悔いる』と書いて後悔―――つまり、後悔にはすでに『後で』という意味が含まれているんです。そのため、『後で後悔する』とした場合、意味が二重になってしまいます。これは言葉の重複というミスで日本語としては成立せず」
イプシロンはもはや爆発寸前だった。
「わ、若田さんっ。お願い、もうそのへんにして!」
「でも、間違いはちゃんと直さないと」
「そーなんだけどっ、あのオバサン怒らせるのは、あっ…また言っちゃった」
「どいつもこいつも人をコケにしやがって……これでも食らええッ!」