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江姫。

安土·桃山時代から江戸時代を生きた歴史上の人物である。

近江の戦国武将の娘として生まれた彼女は、やがて徳川二代将軍の妻となる。将軍の正室として大奥の創設に関わるなど、彼女は江戸幕府の内部において高い地位にあった。また江姫の子供のうち、長男は三代将軍に、五女は天皇の妃になるなど母としても栄誉ある一生を送った女性とされる。


「―――というのが今回、新たに判明した宿主に関する基本情報だ。おわかりか?」

「はあ」

英麻とみなみはそろって呆けた顔で小さなスクリーンの中のミサキに返事をした。共に歴史が苦手で興味すらない二人にとって、先ほどの説明は大幅に理解の限度を越えていたものとされる。

新学期を迎えた学校帰りの英麻たちがいるのは、みなみの両親が営む音楽喫茶、アランフェスの中だ。席はこの前、来た時と同じ棕櫚に似たシンボルツリー近くのテーブル席。そこで、新たに見つかった時の花びらの宿主について、前回同様、ミサキからスクリーン越しに一通りの説明をしてもらっていた所である。

ミニサイズのスクリーンには、六人目の宿主、江姫の正面写真も表示されていた。髪の長い、上等な着物姿の女性からは貫禄と品性が感じられ、いかにも将軍の妻にふさわしい外見だった。

「ええと」

バラード調でクラシックギターの生演奏が奏でられる中、英麻がどうにか返答する。

「よーするにすごく立派な人だったってことですよねっ。ははは」

「まあ、かなり雑な理解だとそうなるね」

「え」

「まっーたく、ミサキ先輩は毒舌なんだからあ」

シフォンケーキのかけらを刺したフォーク片手にそう言ったのはタイムパトロール第八部隊の一人、メグロだった。

「別にそのくらいの理解でも全然、問題ないさ。今、君らがやってる日本史にも徳川家康、家光なんかは登場しても江姫まではさすがに出てこないし」

「だな。ま、大河ドラマや歴史小説なんかには結構、登場するから歴史ファンの間ではそれなりに有名らしいけどよ…って、コラァ、ニコ坊ッ。おまえ、俺のクレープまで食ってんじゃねえよ!」

メグロの横で人型のニコとバナナクレープの皿を奪い合っているのは、同じく第八部隊隊員のカタギリである。今回、どういうわけかこのメグロとカタギリが201X年に現れ、こうして英麻たちと一緒にミサキとの通信に参加していたのだ。だが、気になるのは彼らがやってきた理由よりもその服装の方だった。

二人はそろってタイムパトロールの青い制服ではなく、パッと目につく若い男の子向けのカジュアルファッションに身を包んでいた。メグロは甘さ強調、カタギリはロックテイスト寄りと嗜好に違いはあったが、見た所、この201X年現在の最新流行モデルで全身を固めた様子である。服はもちろん、帽子や男物のアクセサリーといった小物を見ても二人がかっこつけているのは明らかだった。

「二人ともどうしたんですか、その格好…」

「やっだなあ、みなみちゃん。オシャレに決まってんじゃん。隊員として、過去の中でもこういう洗練された時代に来たからにはやっぱり、実際に当時の服を着て、その頃の文化を感じるべきっしょ。タイムパスポートの衣装設定ばっか使ってても芸ないし、あれだと自分の目には見えないし」

メグロがふふん、と顎に手を当ててみせた。

「もっともむだにとんがってるカタギリのは大してセンスないけどな」

「よく言うぜ。おまえこそ、ただ目立ちたがってる感丸出しだろーが」

「何おう」

「でも、前にタカツカさんがこの時代に来た時は普通にタイムパトロールの制服でしたよ?」

英麻の問いにメグロとこぜり合っていたカタギリが「ああ」とうなずく。

「あいつは洒落っ気ゼロのまじめ野郎だから。たいていの奴は、すでにカジュアルファッションが主流になって日々、進化しまくってる時代に来た時にはそれ相応の服を着るもんさ。この場合も隊員本人をその時代や場所にうまく溶け込ませるっていう、タイムパスポートの機能はちゃんと働くしね」

「そうだっ。ね、英麻ちゃんってヘアスタイルとかファッションに敏感で、タイムパスポートが設定した各時代の服装もファッションチェックしてるんだろ?俺らのもやってよ」

「えー、私がですかあ」

そこへみなみの母にしてこの店の女主人である香都が追加分のスイーツを運んできた。メグロは若干、馴れ馴れしい口調で香都にまで自分たちのファッションチェックをしてほしいと頼んだ。(ちなみにメグロとカタギリはタイムパスポートの作用によって以前のタカツカと同じく、英麻のいとこという設定になっていた)

「あらま、私なんかいいの?おばさん、自信ないわー」

「いや、ほんと簡単な評価でいいんですよ。こいつより俺の方が点数的にイケてるって証明されれば」

「はっ、アホめ。イケてるのは俺の方に決まってんだろ」

肩をぶつけるようにして競り合うメグロとカタギリを前に、英麻と香都は腕組みして束の間、考え込んでいたが、やがて声をそろえて言った。

「二十一点。両方とも」

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