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「おや、見かけによらず知りたがり屋の娘だねえ?いいさあ、教えてやるよ」
赤紫の髪の女はしたり顔で舞子を見下ろした。
「我々メビウスが求める十二の秘宝、時の花びら。こいつには素晴らしい恩恵がある。そいつを手にするためだよ」
「恩恵?」
かすれた声で舞子が繰り返す。女は赤い杯をいちだんと高く掲げた。
「時の花びらの恩恵、すなわち、時間の流れを自在に操る力さあ。まさに秘宝と言っていいだけのものだろう?」
「やいやい、イプシロン!いっくら何でも」
「しゃべりすぎ…」
金髪頭と黒フードの少年が文句を言う。
「そんなことまでこいつにバラしてどーすんだよ?」
「これぐらいはいーだろうよ、パイ。こんな弱々しく縮こまった眼鏡娘、時の花びらの力を知ったって、大した意味ないんだから。アーッハハハア!」
勝どきに似た高笑いを上げ、女は少年たちと立ち去ろうとする。
「そこまでよ、イプシロン!」
英麻の一喝が女の笑い声をかき消した。
赤紫の髪の女ことイプシロンが、降り立ったシリウス328をいまいましそうに振り返る。青い飛行船から英麻たちが飛び出した。
「現れたかい、タイムアテンダントのチビ娘」
「だからあーっ、何でタイムスリップ先でまでチビ呼ばわりされなきゃ」
「けんか買ってる場合じゃないだろ、英麻。変身するぞ!」
英麻とみなみはそろってスカイジュエルウォッチをかざした。空色の宝玉があふれるように輝きだす。巻き起こる白い雲、ピンクと薄紫の花吹雪。舞子は目を見張った。
雲が晴れ、ユニフォームへの変身を完了させた英麻とみなみが現れる。
「時空守護士タイムアテンダント」
「時空操縦士タイムパイロット」
「我らスカイフェアリーズ、ただいま参上!」
「同じくタイムパトロール第八部隊と」
「キュートなアイドル、ニコ777もいるヨー?」
「わやわやっ」
「第八部隊の助っ人三人衆もお忘れなく!」
ハザマの右隣にメグロ、カタギリ、タカツカの三人が並んだ。警護犬のアポロとパタラッシュもいる。
「メグロさんたち!?どうしてここに」
「何てことはない、探チキンを使ってこの時代をさがし当てたのだよ、英麻ちゃん」
メグロの手には、あのコンビニのフライドチキンもどきが握られていた。
「そんでもって、ちょうどタイムマシンで降下してる最中に、馬を追跡してるシリウス328を発見したからそのままついてきた」
カタギリが早口で続けた。
メグロがすぐさま、へたり込んでいた舞子の所へかけ寄った。
「やあ、平気かい?ケガはない?」
「えっ、あの」
「君、タイムアテンダントに選ばれた若田舞子ちゃんだろ?いやー、三人目もキュートかつ清楚な感じじゃん。俺はメグロ·アキヒト、シバ隊長に次ぐ第八部隊の花形ハンドラーさ。俺らが来たからにはもう心配いらないぜ」
「は、はあ…」
実に軽いメグロの口調に舞子は戸惑っていた。
「んなことやってる場合か、このナンパ馬鹿ッ」
「イテテテテ!」
カタギリがメグロの片耳をつかんで舞子から引き離す。サノとタカツカはあきれ顔だ。
「ちえっ、ちえっ、ちえっ!まーた、タイムパトロールかよ、邪魔しやがって。しつこい奴らだねえ?」
赤く光るサーベルをくるくる回しながら、金髪少年ことパイが悪態をつく。
「しつこいのはおまえらの方だろーが!あんな子供までひどい目に遭わせやがって」
「そうよっ、早く江姫の時の花びらを返しなさい!」
ハザマと英麻がそろってメビウスの三人をにらみつけた。赤い杯を持ったイプシロンが両手を上げる。
「ああ、私らもここまでか。わかったよ、降参する。いろいろ悪かったねえ……なあーんて、言うと思ったら大間違いさあッ」
高笑いと共にイプシロンの銃が赤い光線を吐き出した。
「今度ばかりは、花びらは渡しゃしない、出ておいで、我らがメビウスの家来たち!」
イプシロンの合図でのっぺらぼうの兵士たち、ナルシス兵が出現した。
数は十数体ほど。彼らはすぐに分散し、四方から英麻たちに向かってきた。同時にイプシロン、パイ、黒フード少年ことローも襲いかかってくる。
安土城内の草野原を舞台に、メビウス対スカイフェアリーズおよびタイムパトロールの戦いが始まった。