5
引佐に乗ったハザマと英麻は勢いよく一本の獣道をかけていく。
「ぎゃーっ!うそ、やだ、速いっ、こわいっ。何でこんなにドカドカ揺れるのよおー!?」
引佐が走るスピードは想像以上だった。今までせいぜいポニーしか乗ったことがない英麻はハザマの後ろで見境なく叫びまくる。
「ぎゃあーっ!」
「うるっさいんだよ!おとなしくしてろ、このっ」
こちらはこちらで必死なハザマが手綱を手に振り向きかける。
「よそ見するな、ハザマ!ちゃんと馬と同じ方向見て進め!」
上空から拡声されたサノの声が降ってきた。引佐に二人乗りしたハザマと英麻を、サノ、みなみ、ニコがシリウス328に搭乗して少し後方から追いかける、こうした形で彼らは舞子たちの元へ急いでいた。
再び上空からサノの声が聞こえる。
「ノートパソコンの解析結果によれば、この一本道をずっと行った先に江姫と舞子ちゃんはいるはずだ」
「了解です!よかった、それなら二人とも見つかる…っておい、どうした!?」
「きゃああっ」
それまで力強く走っていた引佐ががくんっと失速し始める。みるみるスピードが落ちていき、ついに立ち止まってしまった。ハザマはイライラした様子で引佐から降り、英麻も後に続いた。
「何だよ、ったく。ちゃんと走ってくれないと」
文句を言いかけたハザマが小さくうめいた。引佐の後ろ足付近にかがみ込む。
「こいつ、ケガしてる」
「えっ」
英麻ものぞき込んでみると、右の後ろ足の一部が腫れ上がっており、わずかに血がにじんでいた。
「メビウスの奴らにやられたのかもしれない。これ以上、こいつを走らせるのは無理だ」
「痛そう…大丈夫かな」
「これぐらいならサノ先輩の手当てで治してもらえるはずだ」
ハザマは荒く息をする引佐の頭にそっと手を置いた。
「ごめんな。早くに気づいてやれなくて」
こんな状況にも関わらず、英麻は心の中にじんわり温かさが広がるのを感じた。
ああ、そうだ。こいつ、根は優しいんだよね。最初の任務の時からそうだった。
その温かさは舞子たちを思う不安で重くなっていた英麻の心に、少しだけ安心感を与えてくれた。