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「とにかく、早くこのことをサノさんたちに言わなきゃ」
英麻は必死に踊り集団の中を移動しよう試みた。
ダンスバトルはますます熱を帯び、他方では阿波踊りとサンバカーニバルが入り乱れている。ほんの少し進むだけでも一苦労だった。
「みんな、どこ?こっちじゃないのかな」
どうにか向きを変えようとした途端、額にゴチッと衝撃が走る。後ろにいた誰かとぶつかったのだ。
「いったあー」
「っつう」
あまりの痛さに目の前に火花が散ったようだった。相手も同じく額をぶつけたらしい。
「すみません、大丈夫ですかっ」
慌てて英麻は謝った。自分がこれだけ痛いのだから向こうもかなりの痛さだったはずだ。
「いえ、こっちこそ。つい、よそ見してて…あ」
赤くなった額をさすって顔を上げたのは、ハザマだった。
「うそ」
一気に互いの顔が強張る。
「……気をつけろよな」
「そ、そっちこそ!」
英麻は自分の口から変にとがった声が出てくるのを感じた。まだ、まともにハザマの顔を見られない。再び胸が痛くなってくる。
いつまでこのままなんだろう。
気落ちする英麻の耳にけたたましいアラーム音が入ってきた。
「えっ、えっ、何、何、何?何の音よ、これ!?」
「やかましい、いったん落ち着けっ」
あたふたする英麻をハザマがいさめた。
「おまえのタイムパスポートに誰かから通信があったんだ。見ろ、受信を示すサインが光ってるだろ」
英麻は首に下げたタイムパスポートを注視した。
確かに、桜の花を模したタイムパスポートの中心が何度も赤く光っている。白い桜の真ん中についたボタンが点滅しているのだ。
「でも、誰が」
ハザマの指示で拡声モードにしてから英麻はタイムパスポートに耳を傾けた。
『―――足立さんっ』
「えっ。わ、若田さん?何で」
『助けて、足立さん!』
聞こえてきたのは切迫した舞子の声だった。
『江姫が、江姫が襲われて、時の花びらを奪われたの!』
「えっ!?」
隣のハザマの顔色が変わった。
「うそ、どうして」
『ごめんなさい!勝手な行動して、わ、私のせいで江姫がっ…』
舞子は取り乱していた。
「落ち着いて、若田さんっ」
「おい、若田!おまえ、今、どこにいるんだ?」
『よくわからなくて…安土城からそう離れていないはずなんだけど、ここ、野原みたいな所で目印もほとんどな』
直後、短く息を飲む音がして通信が途絶えた。
「…若田さん?」
英麻にはそれが声にならない舞子の悲鳴に聞こえた気がした。