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突如、背後から艶っぽい声が降ってきた。引佐の耳がピンと立つ。

振り返った舞子と江姫の目に映ったのは、波打つ赤紫の髪の女。美人だが、ひどく意地悪そうにも見えるその長身の女は、高い木の枝に立ち、いやな笑みを浮かべて二人を見下みおろしていた。フードつきの黒いガウンのような服のすそが風になびく。

「ククッ、こおーんな人気ひとけのない所でおしゃべりなんてずいぶんとまあ、のんきだこと」

女はねっとりからみつくような話し方をする。江姫の目に敵意が浮かんだ。

「虫が好かない女だな。さてはおまえ、さっきのの連中が言ってた時間犯罪者とかいう奴らか?」

「えっ…!?」

女の口元がニタリと笑った。

「その通り。なかなか察しがいいじゃないさ、時の花びらを宿したお姫サマ?隣にいる娘は三人目のタイムアテンダントのようだねえ。だったら話は早いさあ」

赤紫の髪の女はザッと木から飛び降りる。女が指を鳴らすと、両脇に同じく黒服の少年二人が音もなく現れた。一人はそばかすが目立つ金髪頭、もう一人は鼻から上がフードに隠れて顔は見えなかったが、どことなく陰気な雰囲気が漂っていた。

真ん中の女が妖しく光る赤い剣を取り出した。

「さあて、さっさと時の花びらを渡してもらおうか。六人目の宿主、江姫サマ?」

警戒したのか、引佐が威嚇するように地面を蹴り、女に突進しようとする。

「クク、畜生は引っ込んでな」

赤い剣の陰に忍ばせてあった女の銃から、真っ赤な衝撃波が放たれる。

容赦なく引佐は吹き飛ばされ、地面にたたきつけられた。苦しげな悲鳴が上がる。

「引佐っ!?…おまえ、よくも!」

江姫は懐から鋭い小刀を取り出した。舞子はぎょっとする。

「ご、江姫様っ!?あの、危な」

「舞子はどいてろ!私の愛馬を傷つける奴は許さない。成敗してやる!」

猛然と江姫は黒服の女に立ち向かおうとする。だが、女は余裕だった。江姫の攻撃をするりとかわし、例のからみつくような声で彼女を笑う。

「いけないねえ?お姫サマがそんなもの振り回して。そうやって野蛮でちっとも可愛くないから、この安土城でもさんざん皆から疎んじられるのさあ」

小刀をよける度、女は江姫の神経を逆撫でする言葉を投げてよこす。わざとそうしているのだ。

「アハハッ、いーぞ、イプシロン。もっとあおっちゃえ」

金髪少年がはやしたてた。

「ククッ、どうやら躾が行き届いてないようだ。あたり前か、きちんと叱ってくれる父親も母親も、もうこの世にはいないんだものねーえ?」

「黙れえッ!」

小刀を握る江姫の手が震えた。

赤い剣と小刀がぶつかり合い、きいんと音が鳴る。

直後、真っ黒な光線が江姫の胸を貫いた。

黒いフードの少年がボーガンの矢に似たものを放ったのだ。少年はいつの間にか江姫の死角に回り込んでいたらしい。

江姫の胸から金色の光に包まれた白い羽根のようなもの―――時の花びらが飛び出す。

舞子は両手で口を覆った。

江姫の瞳の光が消えていく。ぽとりと落ちる小刀。スローモーションのように体が傾き、江姫は地面に倒れた。

「江っ!」

大急ぎで舞子は江姫にかけ寄った。

「江っ。起きて、江っ!」

反応はない。舞子がどんなに大声で呼んでも体をさすっても江姫は目を閉じたまま、ぴくりとも動かなかった。

嘲笑を浮かべた女が、宙を舞った江姫の時の花びらを赤いさかずきに似た器できれいに受け止める。金髪頭の少年が跳びはねた。

「イエーイ、お宝花びらいただきだぜっ。イエーイ、イエーイ、ヤッホッホオー!」

「やった、最速で手に入れたさあ!私らが本気を出せばざっとこんなもの、オミクロンの馬鹿どもなんか目じゃないね。ククク、アハハハハッ!」

ずっと無言の黒フード少年をよそに、赤紫の髪の女と金髪少年はしゃくに障る歓声を上げた。

だが、その耳障りな快哉も、江姫にすがる舞子の耳にはまったく入ってこなかった。

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