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「わっ。びっくりしたあ」
何気なく振り返った背後には、十人ほどの現地人が等間隔に行儀よく並んでいた。彼らは皆、安土城の人間らしかったが、年齢、性別、着ている着物の種類もばらばらだった。
「何だろ、この人たち…あのおー、何かご用でも」
英麻は次の言葉を飲み込んだ。
ダアンッと迫力あるジャンプ。ぴったり息の合った振り付け。
現地人たちが踊りだしたのである。
一瞬、英麻はミュージカル『剣聖華劇』の舞台に引き戻されたのかと思った。歌こそなかったが、今にもバックミュージックが聞こえてきそうな勢いで彼らは踊る、踊る、踊る。勇壮な黒ひげを生やした家臣から日焼けした顔の馬番まで、彼らの両手、両足、そして体全体から次々と、あらゆる種類のダンスが繰り出される。
英麻は大口を開けたまま、彼らの踊りに見とれていた。
乳母や侍女をお姫様だっこで抱きかかえた男たちが華麗にターン、最後は全員、一糸乱れぬ決めポーズでビシッと締める。
一瞬の沈黙の後、始めはぱらぱらと、やがて盛大に拍手の音が響いた。英麻はもちろん、みなみや舞子たち、ハザマさえもが任務を忘れ、熱心に拍手してしまうほど、現地人たちの踊りのクオリティは高かった。
「すごすぎる…」
ハザマが呟いた。英麻はまだ拍手しながら興奮気味にまくしたてる。
「すごいっ!何なの、あの超キレッキレのダンスは。さっきのブレイクダンスなんて聖組のそれに匹敵するくらいよっ。いやー、いいもの見れたわー」
「おお、同感っ!……ん?」
うなずきかけたみなみが英麻の言葉を聞きとがめる。
「ちょっと待った。どうして安土·桃山時代の人たちがブレイクダンスなんて知ってんの?」
「えっ」
「確かに妙だな」
ノートパソコン片手にサノが怪訝な顔になる。
「ブレイクダンスだけじゃない、あの現地人たちが踊った踊りの中には、まだこの時代の日本に存在しないものがかなり混じってる。ヒップホップにジャズダンス、フラメンコにフラダンスにラインダンス、それから、うわっ」
現地人ダンサーの一人にぶつかられ、サノがよろけた。
彼らのダンスは一段とパワーアップしていた。人数が倍以上に増え、動きがダイナミックになっている。いや、ダイナミックどころではない。現地人たちは激しい動きで英麻たちの近くを舞い踊り、ほとんど体当たり同然の形でダンスを繰り広げていく。いつの間にか英麻たちばらばらになりかけていた。
「ヒエエッ。これじゃ、押しつぶされちゃうヨオー!」
「なあ、さすがにちょっとやばくないか?」
子ブタ型のニコを抱えたみなみが叫ぶ。
「くそっ。こんな状況じゃ、落ち着いてパソコンで江姫をさがせやしない。おい、あんたらいつまで踊る気だよ!?」
ハザマが地団駄を踏んで怒鳴った。