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201X年
「あー、もう超よかったあっ。翔ちゃんも『剣聖華劇』もマジ最っ高!」
「コラコラ、純ちゃん。ほーくんと」
「あかねのすばるんを忘れないでよねっ」
「でも、ほんっとその通りの感想だわ。ストーリーも歌とダンスもアクションも文句なし!聖組扮する剣士たちの見せ場もてんこ盛りだったし。ただ、私ら全員そろってマストアイテムの双眼鏡を忘れたのは痛かった」
「それなのよ、理子ー。悔しかったなあ、持ち物リストにはちゃんと書いといたのに。『剣聖華劇』生で観られるって喜びで頭がとろけすぎてたのかも。ね、英麻もそう思う…英麻?」
先ほど堪能した舞台の興奮冷めやらぬまま、夜の観覧車の中ではしゃぐ純、理子、あかねはもう一人の仲間の英麻があさっての方向を見つめていることに気がついた。英麻は外の夜景を見るでもなく、ひどくぼんやりしている。
夏休みも終盤となった八月の末。
この日、英麻たち聖組ファンの四人は、頭からつま先まで入念なおしゃれをした上で、遊園地ファンタジードームの劇場内にて悲願のミュージカル『剣聖華劇』の初観劇を果たしていた。
「ちょっと英麻ってば!」
「へ?…純ちゃん、どうしたの?」
「それはこっちのセリフでしょっ。せっかくチケット争奪戦制して『剣聖華劇』とのご対面が実現したってのに、ぼけーっとしちゃって」
「わかった、生で観た布施くんの竜胆丸がやばすぎて放心状態になっちゃったんじゃない?私もすばるん演じる椿丸が出てきた時、そんな感じだったもん」
あかねが両手を頬に添えて英麻を見る。
「え…そ、そう、そうなのよっ。舞台の布施くん、すごくかっこよかったから。やっぱりいいよね、聖組」
「だよねーっ」
再び『剣聖華劇』の世界に浸りまくる純たち三人にはわからぬよう、英麻はふーっと息をついた。
理子の家で彼女たちにヘアアレンジをしてやった時も、ファンタジードームへの移動中も、お昼ご飯の間も、肝心の『剣聖華劇』を観ている最中も、観終わってこうして観覧車に乗っている今も、英麻の心には二種類の言葉がのしかかっていた。
―――おまえはバカか?/バカ女!/このどうしようもない大バカがッ!
―――あんたなんかいなけりゃいいのよッ!
自分に投げつけられた言葉。逆に投げつけた言葉。普段は平気にしていてもふとした瞬間、それらを思い出してしまう。刺すようなハザマの視線も、荒々しい自分の声も。
奈良時代で起きたハザマとの衝突以来、英麻の気持ちは沈んだままだった。