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時空守護士タイムアテンダント  5 じゃじゃ馬姫と三番目のクルー    作者: 夜湖
第五章 許されざる善意、踊る珍騒動
29/50

煮え切らない気持ちは残っていたが、回収任務は果たさなければならない。

ミサキとの通信を終えた英麻たちは、シリウス328の着陸場所を中心に、互いの姿が見える範囲で手分けして江姫をさがすことにした。

「英麻ちゃん、ちょっと」

英麻が草むらをかき分けているとサノが話しかけてきた。

「ミサキから聞いたよ。ハザマと仲違いがあったって」

「サノさん…」

「いろいろ大変だったみたいだね。タイムパトロール側もまさか、メビウスが宿主やタイムアテンダントをいきなり連れ去って監禁までするとは正直、予想してなかった」

「ごめんなさい」

英麻はうつむいた。

「私のせいで光明子様を危険な目に遭わせちゃって」

「謝らなくていいよ、怖い思いをしたのは英麻ちゃんも同じなんだから。ミサキも言ってたよ。きっとまだ立ち直ってないだろうから、気にかけてやってほしいって」

「ミサキさんが?」

意外だった。前回も、今回のスクリーンでの通信中も、ミサキに英麻を心配する素振りはちっとも見られなかったのに。

「ミサキの奴も顔に出さないからねー。で、問題はハザマなんだけど」

その名前が出た途端、目の前に刺すような空色の両目が見えた気がした。ずきん、と胸が痛む。

「あいつが前回、英麻ちゃんにきついこと言ったのにはそれなりの理由があってね」

「私がバカだからですよね…」

うつむいたまま、英麻は先回りして言った。

「歴史が、っていうか勉強全部だけど、とにかくダメで、飲み込み悪くて、考え方も甘くって、よーするにやっぱり私がバカだから、だから、あいつも邪魔に思って」

「ううん、違う、ハザマは心配だったんだ、英麻ちゃんのことが」

「え…」

英麻はサノの顔を見上げた。

「前回、通信担当として僕がした話、覚えてるかな。メビウスは想像以上に強大な組織で、すでにタイムアテンダントの存在まで把握してる、っていう話」

「あ、はい。一応」

「そのことを知ってからハザマは英麻ちゃんたちの身の安全についてずーっと気を揉んでたんだ。奈良時代の回収任務の時もそうだった。そこへ前回みたいな事件が起きて、心配する気持ちがつい、乱暴な形で表に出てしまった。あれには英麻ちゃんを守りたかったのにできなかった自分への怒りもあったんだと思う」

英麻はその言葉に心底驚く。

「私を…守りたかった?」

「うん。全然、そうは見えなかったかもしれないけどね。だから、決して英麻ちゃんを邪魔者扱いしてたわけじゃないんだよ。ハザマには、いきなり回収任務の大役を託された英麻ちゃんの苦労だってわかるはずだし」

「えっ。あの…どういう意味ですか?」

「もうメグロとカタギリが少ししゃべっちゃったみたいだし、いつかは話すつもりだったから教えるけど―――ハザマには時の花びらの宿主が誰なのか、察知する力があるんだ」

「宿主が誰なのか察知する…えええッ!?」

慌てて英麻は自分の口を覆った。

「何ですか、それ。まさか、超能力?」

「わからない。ただ、これまでの宿主は江姫を含め、すべてハザマのその力で時の花びらの宿主だと判明している。もちろん、なぜ、そんな力があいつにあるのかも不明だ。本人が言うには、宿主に時の花びらが宿る瞬間が、頭の中に断片的に見えるらしいんだけど」

あのハザマにそんな特殊な能力があったなんて。

英麻はすぐには信じられなかった。

「ハザマが持つ力は本当に謎だらけでね。力が発動したのも時の花びら消失事件後のある時、突然だったし…今、わかっているのは、花びらの宿主と接触することがきっかけでその力が強化され、次の宿主発見につながるってことぐらい。現に二人目の宿主が紫式部だとあいつが感知した時も、卑弥呼の花びらを回収して未来に戻った直後だったし、以降も同じようなサイクルでハザマは花びらの宿主を見つけ出している」

それを聞いた英麻はふと、思い当たった。

「ひょっとして、ハザマが毎回、回収任務のサポート役として一緒に来るのって」

サノが軽くうなずく。

「宿主と接触させるためだよ。ハザマの力はタイムパトロールにとって切り札も同然、それがなかったら今も時の花びらは一枚たりとも回収できてないだろう。けれど」

サノが一息、置いた。

「あいつにしてみれば、あの力は重荷同然かもしれない」

「重荷?」

「そんな力があったばっかりに、ハザマは本来なら特別部隊がやるべき極めて重要な任務に関わるはめになった。本人の意思に関係なく。時の花びら回収任務への参加が決定された時は大変だったよ、かなりナーバスな状態になっちゃってね。タイムパトロール関係者からの期待も相当なものだったし」

英麻は何と返せばいいかわからなかった。

「長くなったけど、突然、大きな任務を任された者同士、あいつは不器用ながらも英麻ちゃんを思いやろうとしていた。それだけは知っておいてほしいんだ」

サノの話が終わった。

英麻は自分の中にあった、打倒ハザマへのこだわりが静かに溶け去っていく気がした。

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