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「そういえば、江姫もそんなこと言ってたよな。どういう意味なんだろ?」

「その説明をした方がいいね。江姫がこの城に来たわけと一緒に。元々、ミサキと説明する予定だったから」

サノがシリウス328を操作してテレホンスクリーンを出現させた。

安土城の石垣の前あたりに、宙に浮く巨大スクリーンが現れる。着座した無表情なミサキの顔が映し出された。

「やけに呼び出しが遅かったじゃないか」

「ちょっといろいろあってね」

そう言ってからサノは、舞子をスクリーン越しのミサキに引き合わせた。ミサキはあっさり自己紹介を済ませると、アランフェスではそこまで語らなかった、江姫が安土城で暮らすようになるまでの経緯について話し始めた。

「安土城に連れてこられる前、江姫は北庄城きたのしょうじょうという城で暮らしていた。茶々姫、初姫、そして、戦国武将の柴田勝家と再婚した母、お市の方と共に。父の浅井長政あざいながまさは江姫が生まれた年にすでに戦で亡くなっていたからね。だが、勝家も天下をめぐる戦に敗れ、北庄城は落城、お市の方は勝家と共に自ら命を絶った」

「えっ…」

「うそ」

英麻とみなみは唖然とする。

「賤ヶしずがたけの戦い」

ぽつりと舞子が呟いた。スクリーンの中のミサキがちらりと舞子を見る。

「よく知ってるね。ちなみにこれが記録ボールによる当時の映像」

ミサキの画像が向かって右下に縮小される。スクリーンには、暗い夜空の下で燃え盛る城が大写しになった。城の入口から三人の娘たちが従者に連れられ、走り出てくる。江姫と二人の姉たちだった。江姫は城の中へ戻ろうともがいていた。

英麻は、あっと声を漏らした。

「私、これ見た…」

みなみやサノたち、そして、ハザマも英麻の方を見た。

「さっき江姫に馬跳びされた時、このお城が出てきて…江姫が必死に叫んでたわ。母上、母上って何度も。ミサキさん、これ」

「おそらく君が持ってる時空共感力が見せた江姫の過去だろう。どういうわけで馬跳びされたかは知らないけど、その時、江姫と接触したはずだからね」

「やっぱり…えっ、じゃあ、江姫たちのお母さんはあそこで…」

ミサキが無言でうなずいた。

「この戦いの相手が他でもない羽柴秀吉。だから江姫にとって秀吉は母親や継父けいふの仇にあたるわけだ。戦の後、江姫たち姉妹は秀吉が領有する安土城に引き取られた」

「は?何で?何でそんな奴の城に住まなきゃならないんですか」

みなみが納得いかない、という顔になる。

「この時代は、戦に負けた武将の家族は基本的に勝った方の元に身を寄せることが多かったんだよ。戦の勝者が残された家族の後見人のような存在にもなる。そういう風習が一般的だったんだ」

元の映像に戻ったスクリーン越しにミサキが座り直すのが見えた。

いたずらしたり、憎まれ口をたたいたり。

超生意気な子だと思った。でも、大変な思いもしてたんだ。馬で飛び出していったのも、この安土城に居場所がないからなのかもしれない。

―――もう、持っているものを取られるのはまっぴらだ!

江姫が去り際に投げた言葉を思い出す。彼女がなぜ、あんなふうに言ったのか、わかった気がした。

住んでいた場所。それまでの暮らし。そして、家族。

江姫は持っていた大事なものをいくつも取られてしまったのだ。戦によって。

英麻は何とも言えない気持ちになってきた。

「でもあのっ、江姫ってこの時代ではしんどい状況かもしれないけど、その後は将軍の奥さんになって…幸せになれるんですよね?」

わざと明るい声を出してミサキに聞いてみる。

「確かにそうだね」

静かな表情でミサキが答える。

「みなみちゃんのお店で説明したように、江姫は最後には江戸幕府二代将軍の正室という高い地位に就き、子宝にも恵まれた。世間一般的に考えて幸福な人生を送ったと言える」

「よかったー」

「このままじゃ、あんまりだもんな」

英麻とみなみは安堵の声を漏らした。

「ただし、そこへ至るまでに再度、彼女は辛い別れを経験しないといけない」

「別れって」

英麻は戸惑いがちにスクリーンのミサキを見た。

「この先、時代がさらに進むにつれ、今度は豊臣家と徳川家が天下を争うことになる。秀吉の死後、弱体化した豊臣政権を徳川が攻めた形だ」

サノがその後を引き取った。

「最終的に徳川方が勝利するまでの間、各地の武将を巻き込む大きな戦が複数回、行われたんだ。関ヶ原の戦い、大坂冬の陣、そして、最後の戦が大坂夏の陣」

舞子が何かに気がついた顔になる。気のせいか、その表情は少し暗かった。

一瞬、間を置いてからさらにサノが続けた。

「この戦いによって、江姫は姉の茶々姫を失うことになる」

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