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そう思った瞬間、英麻はうつ伏せの大の字になって地面に伸びていた。そばには黄緑色をした猫じゃらしの穂が落ちていた。毛虫の正体はこれだったらしい。
ピューッと江姫が口笛を吹く。それは英麻に憎まれ口をたたいた、現在の江姫だった。
どこからともなく一頭の馬が走ってくる。
「わあああ!?」
一同びっくり仰天し、英麻はその場に丸まった。
明るい茶色の馬は江姫の前で止まる。江姫は軽々と馬に跨り、手綱を引いた。
「もう、持っているものを取られるのはまっぴらだ!行くぞ、引佐っ」
全速力で馬が走りだす。
「おい、どこ行くんだよ!?」
「待って、江姫様!江姫様ーっ」
サノたちが必死に呼んだが、むだだった。巧みに障害物や家来たちをよけ、馬と江姫はあっという間に姿を消した。
サノが「まいったな」とこめかみを揉んだ。
「あいたたた…ったくもう、何なのよ、あれはっ」
腰をさすりながら英麻は文句を垂れる。
「イヤアー、おもしろかったネエ、英麻チャン。江姫にさんざんコケにされちゃってサ」
「ニコは黙っててっ。あんの生意気娘、人の腰使って馬飛びなんかしてくれて」
ぶっ、と誰かが後ろで吹き出した。
振り向くと、ハザマが変な咳払いをして顔をそらす所だった。
うそ。今、笑った?
一瞬、英麻の心は浮き上がった。だが、すぐ元に戻る。
違うよね。そんなことできる関係じゃないし。
頭を振って英麻は立ち上がった。
「ちょっと、ちょっと。あんたら、江姫を追いかけなくていいのかよ?あれでも一応、お姫様なんだし、ほっといたらまずいんじゃないのか?」
みなみは近くにいた、この城に仕える家来らしき男たちにかけ寄った。その三人の男たちはそろって江姫の逃走を傍観していたのだ。彼らは皆それぞれ、根野菜を連想させる体つきをしていた。
「あんなの無視しときゃいいんだよ。どーせ、またいつものプチ家出だろ」
じゃがいもを二つ組み合わせたような大柄な男が面倒くさそうに鼻を掻いた。
「プ、プチ家出?」
上半身だけがやたら角張っている、人参みたいな体型の男が相槌を打つ。
「そ。あの姫様はこの城に来てからずっとあんな調子さ。最初こそ家来総出で泡食ってさがしたけど、今じゃ、みんな知らん顔。要するに、ここが気に入らないから一人好き放題かけ回ってるだけさね」
「いつも夕飯時にはちゃっかり自分の部屋に戻ってきてるしな」
ごぼうのごとくひょろりとしたのっぽの男が最後に付け加えた。
「三の姫はまた飛び出していったのか」