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養父との面会を終え、第八部隊の詰め所へ戻る間もハザマの心は重かった。頭の中には先ほど養父、羽佐間氏から言われた冷たい言葉の数々がいまだ鳴り響いている。

詰め所の近くまで来た所で、カウンター席のようになった一画に座るサノの後ろ姿が見えた。そこは隊員たちが主に彼らの家族と話をする際に使う、個人用の通信スペースだった。サノも誰かと会話中で、彼の前に浮かんでいるミニサイズのテレホンスクリーンには薄茶色の髪の小さな男の子が映っていた。たまに話に出てくる、年の離れたサノの弟だろう。

「―――じゃ、その相手役はゆいちゃんとは別の子がやるってこと?大丈夫なのか、焼きもち焼かれたりとか」

「問題ないよ。僕ら、そのへんはお互い割り切ってるから。兄ちゃんもこーゆうの参考にして早い所、彼女つくった方がいいんじゃない?」

「余計なお世話だよ。あまり張りきりすぎるなよ、じゃあな」

スクリーンを消し去ったサノがおもむろに立ち上がり、こちらを振り返る。

「ああ、ハザマか」

「先輩。お疲れ様です」

ハザマとサノは並んで詰め所に向かって歩きだす。

「さっきの通信、壮太そうたくんですか?」

「そう。相変わらず自由にやってるって感じだったな。今度の学芸会で『人魚姫』やるらしいんだけど、あいつも出るって」

「えっ。でも、まだ病院じゃ」

「だから、スクリーンでライブ映像送るって形で出演するらしい。あいつが陸の王子役で、スクリーンは人魚姫と王子の…あー、種族の隔たりを表現するのに使えるからとか言ってたな。台本もあいつでほぼ毎日、クラスの子たちと議論重ねてる所だって」

「しっかりしてますね…まだ八才なのに」

サノの弟は現在、病気で入院中とのことだった。だが、サノいわく本人は周囲の心配をよそにすっかり療養生活に順応し、院内の通信システムを使って授業はもちろん、学校行事にも積極的に参加しているのだそうだ。看護師のお姉さんたちに可愛がられるのみならず、すでに将来を約束した(!)同じクラスの女の子が毎週末、見舞いに来てくれるなど、入院生活を謳歌しているらしい。

第八部隊の詰め所が見えてきた。サノに続いてハザマも中に入る。

特別部隊を除く各部隊の詰め所は正直、そこまで広くもなければ立派でもない。隅々まで最上の高級感に包まれた特別部隊の詰め所に比べれば、月とすっぽんもいい所だ。第八部隊の詰め所も例外ではなく、どこか庶民的な雰囲気が漂っていた。

部屋の中は簡単なミーティングなどを行う執務スペースと、休憩スペースに分かれている。執務スペースにはミーティング用の作業机と人数分の椅子が置かれ、壁には日本史と世界史の他、古墳時代をピックアップした液晶パネルタイプの年表が見えた。

休憩スペースの方には小さなテーブルとややくたびれたソファがあり、苔色こけいろや焦げ茶色をした古墳形のクッションがいくつかソファ近くに転がっていた。こちらの壁には201X年に旅立つ前にニコが「アイドルの自分がいなくても淋しくないように」とペタペタ貼り付けていった自身の写真が子ブタ型、ヒト型を問わず、存在を主張している。

今、部屋にいるのはタカツカとメグロ、それにパタラッシュのみで他の者は警護犬のアポロも含めて古墳エリアの巡回中だった。

「おかえりなさい」と作業机から顔を上げたタカツカは彼がもう一ヶ月近く取り組んでいる鎌倉時代の古文書解読の途中だったらしい。メグロはパタラッシュを枕に休憩スペースのソファで爆睡中、胸にはこれまたくたびれた埴輪形の抱き枕を抱えて大鼾をかいていた。

タカツカの古文書に目を留めたサノがややあきれた顔になる。

「休憩中まで歴史漬けにならなくたっていいだろうに。きまじめなんだから」

「好きなんですよ」

タカツカが苦笑しながら答える。彼らの声に反応したのか、パタラッシュがメグロの頭を振り落とし、のそのそ動きだした。長いピンクの舌を伸ばして大あくびした後、むにゃむにゃと口を動かすパタラッシュの姿やサノとタカツカのやり取りを見ながらハザマは強く心に思った。

やっぱり、ここだ。ここが俺の場所なんだ。

たとえ、厄病神と呼ばれても。

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