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時空守護士タイムアテンダント  5 じゃじゃ馬姫と三番目のクルー    作者: 夜湖
第三章 体育館発 安土·桃山行き
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視界が晴れた時、英麻たちの眼下には、とてつもなく広い水面に浮かぶ、うねうねとした形の島らしきものが広がっていた。よく見るとそれは島ではなく、水面にせり出したいくつかの山の集まりだった。かなり大きい。

「わ、海だ」

「違うヨ、みなみチャン。湖ダヨウ」

「湖?あんなでっかいのに?」

「そう。海みたいに見えるけど、実はあれ、琵琶湖なんだ。ここは今の滋賀県にあたる近江の国だからね」

シリウス328が高度を下げ、さらに山々が近づいてくる。それにつれて山の上に築かれた様々な建物が見えてきた。ぱっと一つの建物に目が吸い寄せられる。

日本にっぽんのお城だわ。

それは英麻ですら一度はテレビや写真で見たことがある、あの日本独特の形をした近世の城だった。天主をいだく黒と白の古城は、最も大きな山の頂で、確固たる存在感を放っていた。

「あれが江姫がいる安土城。造ったのは織田信長で、この桃山時代では羽柴秀吉が城主だ」

降下を続けながらサノが教えた。

「はしばひでよし?はしばひでよしって、あの……どちら様?」

間の抜けた英麻の質問にハザマが何か言いたそうにした。だが、すぐ口をつぐむ。代わりにサノが続けた。

「羽柴秀吉。後の天下人、豊臣秀吉のことだよ。秀吉は生涯に何度か名前を変えていてこの頃は羽柴という名字を名乗っていたんだ。豊臣姓になるのは、天下を統一したもう少し後の時代になってから。まあ、この時代でもすでに十分、戦国武将として力を持ってはいるんだけどね」

「はあ」

両目が離れかかった顔で英麻は生返事をした。

豊臣秀吉のことはついこの間、夏休み明けの日本史で習った気がする。だが、覚えているのは習ったという事実のみ。秀吉がどんな人物だったか、彼が安土·桃山時代に何をどうしたのか、具体的なことはほとんど頭の中から流れ去っていた。

猿と呼ばれてたらしい、織田信長の子分(子分でよかったっけ?)、農民の刀をコレクションしていた、あとは……。

霧の彼方の記憶を取り戻せぬ英麻を乗せ、シリウス328はさらに降下する。湖上の山が一気に近くなった。

ほどなくして、シリウス328は山中の、十分なスペースがある地点に難なく着陸、サノの合図で一同、ドアを開けて外に出る。舞子も英麻に続いてそおっとシリウス328から降り立った。そこはゆるやかな傾斜がある丘のような場所だった。

近くには、少し前まで眼下にあったあの安土城が見上げるような高さでそびえ立っている。付近にも立派な瓦屋根の建物が複数あり、城の周囲は入り組んだいくつもの石垣で囲まれていた。

みなみが興味津々といった様子で城の全景を見渡した。

「あの安土城に宿主の江姫がいるんですか?」

「うん。ただ江姫に会う前にちょっとやっておくことがあって」

そう言いながらサノは自分のマルチウォッチから懐中電灯に似た道具を取り出した。

「この機能追加灯、通称、付け足しライトで英麻ちゃんたち三人のタイムパスポートをバージョンアップするんだ」

「バージョンアップ?」

英麻たちはサノが手にしたライトをのぞき込む。

「このライトを君たちのタイムパスポートに照射することで、タイムスリップ先の時代で僕らサポート役の隊員も含めて互いに音声で通信できるようになる」

「ライト一つでそんなことができちゃうんですか?」

「進化してるなー、未来の世界。確かにその方が便利だよな」

サノがうなずいた。

「任務中、できるだけ全員が同じ場所に固まっていられるようにはするけど、決してはぐれる可能性がゼロってわけじゃない。そんな時や他にトラブルがあった場合、自分からすぐ連絡できるに越したことないからね。バージョンアップ作業にそう時間はかからないよ」

サノの説明を聞いた英麻は自責の念を感じていた。

サノは努めてさりげなく話していたが、英麻は何となく肌でわかってしまったのだ。タイムパスポートのバージョンアップが必要となった原因はこの自分にある、ということが。

ハザマと衝突した前回の回収任務。そこで英麻は宿主の藤原光明子とつい、他のメンバーとは別行動を取り、その結果、光明子を狙うメビウスに二人そろって捕まってしまった。英麻も光明子も最終的には助かったものの、一歩間違えば、どうなっていたかわからない。

おそらくこの件を受け、タイムパトロールは、英麻たち花びらの回収役がサポート役の隊員とはぐれて危険な目に遭わないよう、対応策を考えたのだろう。

光明子様だけじゃない、タイムパトロールの人たちにも迷惑かけちゃってたんだ。

私が、バカなせいで。

単なる歴史オンチとか、勉強が苦手とかいうレベルじゃ済まない。周りの人を困らせるくらいのバカなんだ、私って。

時空を移動した時よりも強く唇を噛み、英麻はうつむいた。

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