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宙に浮かぶ白い滑走路、クロノロジーランウェイの真上をシリウス328が飛んでいく。
クロノロジーランウェイの周りにあるのは青一色の空間と白い雲。英麻もようやく慣れてきた、おなじみの時空の景色だ。それを初めて体感している舞子は英麻の隣で黙ったまま、動かない。シリウス328の翼や操縦席、それに時空に入ってから渡された、白い桜の花を象ったタイムパスポートを体育倉庫の中にいた時と同じく、ただじっと見つめていた。
どうしたんだろ、若田さん。
ハザマも気になったのか、操縦席から怪訝そうに舞子を振り返る。
「おまえ、気分でも悪いのか?タイムパトロールが事前に調査したデータでは、乗り物酔いの既往歴はなかったはずじゃ」
「あの…」
舞子は膝の上でぎゅっと両手を握りしめた。
「ちょっと聞きたいことが」
「何だよ?」
「あのっ、タイムマシンのシリウス328ってどんな工程で造ってるんですか?材料にはどんな素材を?動力は?」
「へ?」
「わ、若田さん?」
ハザマ、それに英麻やみなみたちもぽかんとする。
舞子はさらにぐいっとハザマの方に身を乗り出した。
「あと、クロノロジーランウェイが宙に浮かび続けていられる原理ってどうなってるんですか?このタイムパスポートにはどんな加工が」
最初の控えめな口調が嘘のように、矢継ぎ早に舞子は質問してくる。それも未来の機械関係の内容を。ハザマが引きつった声で答える。
「わ、悪いけど、今、聞かれた内容は全部、その…いわゆる重要機密だから教えることはできないんだ。ごめん」
「あっ…いいえ、こっちこそごめんなさい」
舞子も我に返った様子で、気まずそうに頭を下げた。
ひょええー。びっくりだわ、若田さん。あのハザマに初対面で「ごめん」と言わせるなんて。あの口が悪くて、ぶっきらぼうで、性格ひねくれた、歴史うんちく男の―――
それ以上、英麻は心の内の文句を続けることができなかった。今、自分の中で並べ立てたハザマの悪口は、少し前までなら口に出してはっきり言えたはずなのだ。他でもないハザマ本人に。
すでにハザマは前に向き直り、見えるのは綺麗な銀髪だけだった。
―――あんたなんかいなけりゃいいのよッ!
怒鳴り声と共に言い放った言葉が不意に蘇る。誰にもわからないように英麻は小さく唇を噛みしめた。
うつむきかけた視界の隅に光る文字が見えた。クロノロジーランウェイ上に見える巨大なアルファベット。
AZUCHI·MOMOYAMA
「あそこが今回、行く時代の入り口か」
みなみが呟いた。操縦席からサノが声をかける。
「今から安土·桃山エリア、厳密にはそのうちの桃山エリアの方に降下するからね。三人ともしっかりつかまってて」
機体のスピードが上がる。桃山時代を意味する、向かって右側の文字を目指してシリウス328が飛び込んでいく。舞子が隣で息を飲む。これまでと同じく、英麻の目の前は真っ白になった。