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ううーん。若田さん、結構、戸惑ってるみたい。これだとスカイフェアリーズに加わってもらうのは厳しいかも。そうなったら、いよいよスイーツ作戦の出番だわ。
英麻は近くの机に用意したお菓子の山をちらりと見た。それらは十代の女の子たちに評判の輸入雑貨店で売っている、見た目もカラフルな人気スナック菓子の数々で、舞子の機嫌を取るために英麻が決死の覚悟で自腹を切って買い込んだものだった。要するに餌で釣ろうという魂胆である。
「参っちゃうよな?いきなりタイムアテンダントだ、何だって言われたって」
黙ってうつむいていた舞子にみなみが軽口をたたいた。
「けど、若田さんはまだいい方だよ。私の時はあんなオカ司令官のちゃんとした説明なんてなかったもの。それどころか突然、英麻とハザマとニコにタイムマシンの中放り込まれちまって」
「え?」
「ちょっとちょっとちょっと、みなみイッ!今、そんな余計なこと言わないでよおっ」
「だって本当のことじゃん」
「もしそれで若田さんがタイムアテンダントの任務に悪い印象持っちゃったらまずいでしょ!」
「んな、大げさな」
「あのね、これには打倒ハザマと私の面子がかかって」
「あの」
英麻とみなみの押し問答になりかける中、ようやく舞子が口を開いた。
「そんな大それたこと私にできるかどうか」
自信なさ気な口調。表情も申し訳なさそうなネガティブな気配が漂っている。
「わ、若田さんッ。あのね、これ、心ばかりのものなんだけど…」
英麻は賄賂用のお菓子をかき集め、大急ぎで舞子に走り寄る。舞子が顔を上げた。
「できるかどうかわからないけれど…でも…歴史上の人たちが危ない目に遭うのはよくないことだと思うから」
英麻、ニコ、みなみは顔を見合わせる。
「と、いうことは…?」
舞子は眼鏡越しにまっすぐ英麻たちを見て言った。
「私も協力したいです」
「わあっ」
「やったア」
「仲間が増えたな」
英麻は思わずみなみに抱きつき、ニコは机の上でポンポン跳ね回った。スカイフェアリーズはこれで三人になったのだ。
「そうと決まれば話は早いわ、若田さん!私たちが今度タイムスリップするのは、来週の火曜日。行き先は戦国時代っ…じゃなくて、えーと、確かその次の、ええっと…あづ、あづ……あれ?」
「もしかして安土·桃山時代?」
「そう、その安土なんちゃら時代っ。ほんでもってタイムスリップの指定場所は北小山中学校の体育館!ハイ、これどーぞ。当日、迷って遅れたりするといけないからねっ」
英麻はそう言って、馬鹿丁寧に描かれた二年A組の教室から体育館までの地図を舞子に手渡した。
「え…」
舞子の目が点になる。
「それはどう考えてもいらないだろー。迷うわけないじゃん、自分が通ってる学校だぞ」
みなみがあきれた声を出す。
「ダメよ、念には念を入れなきゃ。タイムスリップ指定日当日になって突然、学校中が模様替えされるかもしれないし」
「模様替えねえ」
「どう?若田さん。地図、見づらくない?」
「えっ。う、うん…大丈夫。とてもよくわかるわ」
「よかったー。ほら、みなみ、よくわかるってよ。これ描くために私は昨日、五時間以上費やしたんだからっ」
英麻は両手を腰に当て、得意気に反り返ってみせた。
傍らではニコが賄賂用のお菓子を好き放題につまみ食いしながら、「その熱意が勉強に活かせりゃネエ」と知ったふうな顔でぼやいていた。