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江姫ごうひめ


母は織田信長の妹、お市の方で長姉は豊臣秀吉の側室、茶々姫(のちの淀君)。自身は後に江戸幕府を開いた徳川家へ嫁ぎ、二代将軍徳川秀忠の正室および三代将軍家光の母となる。


(タイムパトロール記録部のデータベースより抜粋)



221X年


雨がいっそう強くなってきた。激しい雨が降り続く外とは逆に、その部屋の中には痛いほどの沈黙が漂っていた。

部屋の中央にはテーブルをはさんで向き合って座る人物が二人。一人は眼光鋭い大柄な初老過ぎの男、もう一人はタイムパトロール第八部隊の、あのハザマである。椅子にかけたハザマはうつむいている。

「もう一度、言う」

いくつかあるタイムパトロール本部の応接室の中でも、特に偉い人間が訪れた時のみ使う豪華な部屋に男の声が短く聞こえた。威圧感のあるしわがれ声だった。

「タイムパトロールなど早急に辞めろ。そこにおまえがいる意味など皆無。この時空警護という業種には生産性がない。過去の遺物をただ延々と見張る行為からは利益も新規事業も生じない。実に意味のない仕事だ」

男の口調は少々、早口になっていた。

いかにもやり手の敏腕経営者という外見。スーツはもちろん、足の先までたっぷり金をかけた服装はセンスも極めて良い。頬にはしわが深く刻み込まれ、ただ者ではない威厳と風格が男にはあった。

「第一、不器用で何をやらせても一つとしてものにならなかったおまえのような人間に体を張った警備関連の仕事がこなせるわけがない。おまえの所属部隊とていつまでも厄介な荷物を背負っていられるものでもなかろうしな」

男の言葉は続く。

「とにかく早く辞めろ。美華みかがおまえの帰宅を切望している。これ以上、私と私の妻に気を揉ませるな」

「俺が荷物かどうか決めるのはあんたじゃない」

反抗的な目でハザマが男を見た。その表情は硬く、声も普段よりずっと低めだ。重い口を動かし、かすれた声をしぼり出す。

羽佐間はざまの家に戻る気はありません。生産性がないとかそんなの関係ない。俺はタイムパトロールの仕事が好きなんです。歴史が好きだから。歴史の中に生きる人たちやそこに見えるいろんな景色が好きだから。確かに第八部隊にとって俺みたいな奴は重荷かもしれない。入隊当初から数え切れないくらい迷惑かけたし。でも、今は先輩方の応援もあってその状況は少しずつ改善されてきてるんです。この調子でいけば、もっと隊員として成長していける」

「恩知らずが」

ハザマの顔が蒼白になる。

「幼いおまえをあの施設から引き取り、我が後継者とすべく長年、各分野において一流の教育を施してきてやったのに、このざまか。カリキュラムをまったく消化できなかった挙句、家出同然でタイムパトロールなんぞに潜り込む。恩を仇で返すとはまさにこれだ」

男の声はひどく冷淡だった。オールバック風の前髪をうんざりしたようにかき上げた後、ぎろりとハザマに目をやる。

「いつまでもこんな幼稚な抵抗が通用すると思うな。たとえ、どれだけ出来が悪かろうと一度、息子として迎えた者は何が何でも跡継ぎにする。今ならまだ矯正の余地もあるだろう。万が一、跡継ぎにできずに放り出したなどと公に騒がれたら私が築き上げたものすべてにきずがつくからな」

ハザマは黙っていた。テーブルの下で両の拳を握りしめ、怒りと悔しさに耐えるのが精一杯だった。

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