エルフが赤ちゃん返りした
「鶏肉、豚肉、牛肉、羊肉、馬肉、鹿肉……全部買っちゃおう」
「そんなに買って食べ切れるの?」
先ずは肉屋で各種お肉を買い漁っておきます。どこの世界でもお肉は美味しいですからね。もしお肉という食文化が全く無い異世界に転生していたら、私自身のお肉を削いで食べていたと思います。まぁ、回復方法があることが前提ですけども。
「アイテムボックスがあるので長期保存も可能です」
「そう……」
他の人がどうかは知りませんが、私の使うアイテムボックス系スキルは文字通り何も無い亜空間にアイテムを仕舞っているので気温や湿度による劣化も、空気による風化も無いので、食べ物の長期保存が可能です。発酵食品は菌が死ぬので味が落ちると思いますけどね。乳酸菌とか死んでも効果のある菌で作られた物なら大丈夫かも?
カードで支払いを済ませて購入したお肉をインベントリにぽいぽい仕舞うと、店員さんが目を見開いて驚いていたので、私はにっこり笑顔を見せておきました。ンルヴァがジト目で見て来ますが気にしません。
次は八百屋です。店名は野菜・果物店ですけど。
ヒヅル国ならあるかもしれませんが、この地域では八百万の神概念が無いので八百屋という名称も生まれません。そもそも八百で沢山あるという概念は日本独自の考え方なので、こっちで言うなら豊穣屋とか豊作屋とかでしょうか?
「ミカン、リンゴ、イチゴ、レモン、キウイ、メロン、スイカと果物はこれぐらいで、野菜はジャガイモ、ニンジン、タマネギ、キャベツ、キュウリ、レタス、ナス、ピーマン、トウモロコシ、バジル、ニンニク、ショウガと……」
「ねぇねぇ、フェンネルとかプンタレッラとかカルドとかは買わないの?」
前世でも見たことも聞いたこともない野菜を指差ししながら勧めて来ますが異世界野菜でしょうか?
ちなみに孤児院で出される野菜はジャガイモ、ニンジン、タマネギ、キャベツぐらいでした。モヤシがあったら多分、毎食必ずモヤシが使われていたと思われます。
あとスイカは前世でも今世でも果物です。
「調理の仕方が分からない野菜はちょっと……モジャモジャしてますし……」
「なら私が作ってあげるわよ?」
「エルフの料理はクソまずだと噂で聞いた事があります」
前世で見た話で、ですけどね。
「野菜嫌いの人間が広めた嘘よ! それに私の料理はアクセントにお肉も付けられるんだから!」
アクセントにお肉……。どう考えてもお察し案件……。
「エルフってお肉食べても大丈夫なんですか?」
「野菜好きが多いってだけで、お肉も食べる時は食べるわよ」
「なるほど」
私も野菜は嫌いではありませんが、お肉と野菜ならお肉を選ぶのでエルフの食文化とは味覚が合わなそうですね。
エルフ料理に興味は湧かなかったのでンルヴァの手料理を作る話はスルーして、残りの料理に必要な調味料や卵、乳製品、小麦粉、片栗粉などなどを買い、これでいつでもどこでも美味しい料理が作れるようになりました。
ちなみにこっちでは片栗粉は芋粉と呼ばれています。
「じゃあ帰りましょうか」
「ん? 帰るって?」
「え? 私の家によ?」
「えっと、この後は資金を集めて旅に出る予定なんですけど?」
「……そんなのダメよ」
急にメンヘラオーラ全開してくるじゃないですか。普通に怖いです。
「何がダメなんですか……?」
「私のそばにずっと居なきゃダメよ。もうどこにも行かなくていいの。これからは私があなたを守ってあげるから」
目が完全に逝っちゃってますねぇ。これ、余計な事を言うと一生ストーカーされるヤツです。
でも悪戯心に目覚めちゃったのでからかってみましょうか。
「守るって、あなたに襲われたから行方をくらますしか無かったんじゃないですか? 私がどんな気持ちであなたから逃げ続けて居たと思ってるんですか? 今更良い人振っても信用なんか出来ませんが? 私の平穏な生活をぶち壊しておいてどの口がって感じです。それにまだあなたのこと許したわけじゃありませんけど?」
「……う、うえええええええええんッッッ!! ごめんなざいいいいいいッ!!」
「うぇ!? ちょ、ちょっと! そんな泣き叫ばないでくださいよ!」
あるぇ? 私、言い過ぎましたか? 言い過ぎましたね。大の大人が小さな子供のように泣き叫んで居るのですから私が言い過ぎてしまったのは明白です。
ちょっとからかうつもりだったのに何故こんな罪悪感を覚えねばならないんですかね。
「うえええええええええええんッ!! ゆるじてくだざああああああああいッ!!」
その場にへたれ込み、涙と鼻水で顔をぐちゅぐちゅにしながら私にしがみ付いて許しを乞う姿を、騒ぎを聞き付けた街の人たちがなんだなんだと集まって来てしまいました。
エルフの恥ずかしい噂話が追加されるのは良いですけど、代わりに私の悪い噂話がセットで付いて来ちゃうのは嫌なんですけど。
「というか、もう泣きやんでくださいよ! 私が悪いみたいじゃないですか!」
「ごべんなざああああああああいッ!!」
「分かりました! 許します! 許しますから、もう泣きやんでください!」
「うえええええええええええええんッ!! ゆるじてぐれでありがとおおおおおッ!!」
許してもビービー泣き叫ぶンルヴァに浮遊魔法を掛けて、コアラ抱っこでンルヴァの家に急いで帰りました。
これ絶対、私の変な噂が街中に広まっちゃったよね……。
ンルヴァの自宅へ帰宅しても、泣き叫び続けているンルヴァをどうしたものかと考え、お風呂にでも突っ込むかと思い、超特急で浴槽からお湯張りまで済ませ、涙や鼻水で汚れてしまった服を脱がせて、全裸にさせたンルヴァを湯船に突っ込みました。
ついでに私も入浴します。
「うぅ、ひっく、あったかいね……」
「落ち着くまで一緒に入りましょうね」
「うん!」
すっかり赤ちゃん返りしてしまったンルヴァの頭を撫でてあげたり、抱き着いてぎゅーっとしてあげたり、耳元で良い子良い子ASMRしてあげたりして、あやしてあげるとすっかり泣きやんでくれました。
代わりに赤ちゃん返りから戻って来れなくなってしまったみたいですけど、まぁ、可愛いからいっか。




