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スズムシとコオロギを譲った

 孤児院に虫カゴを置き忘れていた事を思い出した私は、人目のつかない裏路地へ行き、転移ゲートを開いて孤児院の裏手へとやって来ました。


「早く虫カゴを回収せねば」


 出て行ってからまだ数時間程度なので商人に売られている可能性は低いと思いますけど、それよりも孤児院にまた直ぐに戻って来た事を先生にぐちぐちと言われるのが目に見えているのが嫌すぎます。

 こっそりと、それでいて早く虫カゴを回収しないといけませんね。


「そろり、そろり……」

「何してるの?」

「うわっ!? ってレフィーですか、脅かさないでくださいよ」


 音を立てずに孤児院に潜入したというのに早速レフィーに見つかってしまいました。

 隠密系魔法なんて使わなくても大丈夫でしょ、とか慢心してしまいましたね。失敗失敗。


「何か忘れ物?」

「そうですそうです。虫カゴを忘れてしまって、レフィーの居た部屋に置いてありますか?」

「虫カゴ? さあ? 分かんないや」

「そうですか。まあ、多分置いてあるでしょう」


 レフィーに見つかったので、もういいかと忍足はやめて堂々と孤児院の中を歩いて行きます。先生に見つかった時は見つかった時です。素直に事情を話しましょう。


「確かこの部屋に……お、あったあった。あぁ、良かった」

「ねぇねぇ? どんな虫飼ってるの?」

「え、カブトムシとかスズムシですけど?」

「見てもいい?」

「ええ、良いですよ」


 あまり孤児院に長居したくはありませんが、私の可愛い可愛いレフィーの頼みは断れません。

 布袋を外して虫カゴを床に並べて行きます。


「わあ、綺麗なクワガタ! カブトムシも!」

「そうでしょう。そうでしょう。こっちのスズムシやコオロギは鳴き声を聞いているだけでケガや病気を癒してくれるんです。すごいでしょう?」

「すごいね! ね、ねぇロトルルちゃん……お願いがあるんだけど」


 レフィーがクワガタを見ながらモジモジと体をくねらせています。

 察しの良い私はレフィーが何をお願いするのか手に取るように分かってしまいました。

 可愛い可愛いレフィーの頼みですから無下には出来ませんね。


「しょうがないですね。スズムシとコオロギをあげましょう」

「えー! クワガタがいい!」

「ダメでーす。レフィーが大人になったら記念にプレゼントしても良いですけどね?」

「ほんと!?」

「本当です。レフィーに嘘は付きませんから」

「やったー! ありがとうロトルルちゃん!」


 あぁー、喜ぶレフィーはなんて可愛らしいんでしょう! 今すぐ抱き着いて頭をよしよしして、ほっぺにチュッチュッチュッチュッしまくりたい!

 はぁ可愛い! レフィーちゃんだいしゅき!


「あぁん、先生もロトルルちゃんからプレゼント欲しいなぁ?」


 いつの間にかやって来ていた金髪ゴリラが黄金色に輝くカブトムシや虹色に光るクワガタに視線を合わせていました。何処から湧いたお邪魔虫めぇ。


「ぐぬぬぬ……」

「あ? 何?」


 流石にこの虫たちはあげられない代物なので何とか誤魔化さなければ……。


「いえ、別に……。さて、私はそろそろ行きますね」

「えー、もう行っちゃうの?」

「またどこかで会いましょうレフィー」

「うん! またねロトルルちゃん!」


 布袋にカブトムシとクワガタの入った虫カゴを包むとそそくさと部屋から退室します。


「ぷ、れ、ぜ、ん、と。欲しいなぁ?」


 しかし、先生に回り込まれてしまった。逃げられない。


「……はぁ。じゃあ、虫のエサをどうぞ」

「は?」

「そのスズムシとコオロギの鳴き声には回復効果があるので、うまく繁殖させれば儲けられるんじゃないですかね? では」


 プレゼントの指定まではされていなかったのでストレージから虫のエサ半年分を取り出し先生に渡すと、私は脱兎の如く孤児院から逃げ出しました。


「あ、こら! 待て! 宝石! 宝石置いて行け!!」

「嫌です! ちなみにコオロギはすごく美味しいので非常食に良いですよ! それではさようなら!」


 ギャーギャーと鬼婆のように追いかけて来る金髪ゴリラはハッキリ言ってバケモノのようにしか見えませんでした。

 そのバケモノに追い付かれないよう私は加速魔法を発動して逃げ切るのでした。

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