真面目に働いてみた2
「いーとーひきひき、いーとーひきひき、ひーいて、ひーいて、ゔんゔんゔん」
「変な歌だね」
「いとしーまきまき、いとしーまきまき、きざんで、きざんで、ぱくぱくぱく」
「……本当に変だよ?」
あれからアルリナのスキルを元に戻し、ギルドカードのスキル欄を偽装して現在、裁縫ギルドの作業場で糸の巻き取りクエストを二人で進行中です。
綿や羊毛を糸車で木製の大きなボビンに巻いて行く簡単なお仕事ですが、雑に巻き取ると糸が絡んでやり直さないといけなくなるので地味に神経を使います。
「この大きなボビン一つで100エルとか……足で回すタイプの糸車だからまだ楽ですけど、次に受ける時は綿花の納品にしましょう」
「えー、これ楽しいよ? 一生やっていられるかも?」
「ハマってしまいましたか。私はこの巻き取りが終わったら綿花の納品依頼を受けますけど、アルリナはどうしますか? まだ続けます?」
「あと10個はやってみたいかな」
「どハマりしてるじゃないですか。私は綿花を取りに森に行きますけど、アルリナはここに居てくださいね」
「分かったー」
私は巻き終わったボビン一つを受付のお姉さんまで持って行き、糸の巻き取り依頼を達成させました。
「初依頼達成記念で作ったボビンはあげるわよ。それと報酬の100エルね」
「どうも。次の依頼ですが、綿花の納品って根っ子ごとですか?」
「綿だけで良いわよ。100gで依頼達成でそれ以上持って来れたら1g1エルで買取します」
「なるほど、分かりました」
「頑張ってね」
という事で人気の無い路地裏へ行き、転移で森に移動します。
「と思ったけど、目印になるような物は全部消したんだっけ……走るか」
体力回復魔法を自身に掛けて、森まで休まず走り続けました。久々にまともな運動をした気がします。
「ふぅ……魔法ってやっぱ便利だわ」
とは言え、毎回走って移動するなんてめんどくさいので、人が来ない森の奥に入って、目印になる小屋を建てておきます。
「ぱん、どん、ずもも」
口で言ってるだけなので国家錬金術師みたいなポーズはとっていませんよ。
ストレージから木材を取り出して地面に置き、錬金スキルで木粉にしてから秘密基地風の小屋を建てました。
木材のままだと錬金スキルで粘土のように自由に加工が出来ないのが難点です。
木工スキルどこかに落ちてないかな?
それは後々見つけるとして今は綿花を探しましょう。
綿花栽培で海が干上がったという話を前世の記憶で覚えていたので、川に行けば生えてるかなと思い、川へ向かって歩いている途中で普通に道端に生えてました。
生えているとはいえ量は少ないので、いつも通りハイ肥料ポーションで採取再生を繰り返します。
使い道はそれほど思いつきませんが1tも採取すれば良いでしょう。
「はい、依頼達成です。え、2回分? えっと裁縫師レベル2に上がります。おめでとうございます」
「どうも」
裁縫ギルドのお姉さんに綿花の採取依頼2回分になる200gを渡して裁縫師レベルを上げて貰いました。
レベル1の依頼達成3回でレベルが上がるのは裁縫ギルドでも同じみたいですね。
作業場に行き、アルリナの様子をちょこっと見ると、まだ糸車に熱中しているようなのでレベル2の依頼を確認しに行きます。
「コットン生地の作成、羊毛の採取、ハンカチの作成、ボタンの作成。ふむふむ」
ボタンの作成が一番楽そうですね。
「ボタンの作成は大、中、小、それぞれ、この見本のボタンに似せて作ってくれれば依頼達成よ」
「ではそれを6セット作ってくればレベルアップ出来ますか?」
「ええ、でも見た目以上に作るのは大変よ?」
「余裕のよっちゃん」
「よっちゃん? 誰かしら?」
一々作業場に移動するのも面倒ですし、このままお姉さんの目の前で作っちゃいましょう。
ストレージスキル偽装用のお腹ポケットから木の棒を取り出してカウンターに置き、錬金スキルで木粉にしてから見本のボタンとそっくりに大中小6セットのボタンを作成しました。
「出来ました」
「え、あ、はい。依頼達成で裁縫師レベル3になります……って、えー!? そんなのあり!?」
「錬金スキルは便利ですよ。お姉さんも手に入れる機会があれば是非」
「スキルなんてそうそう手に入らないわよ!」
「お金か体で払えば手に入ったりしますよ?」
「……マジックアイテムを買うって事? そんなお金無いわよ……かと言って体で払うのも嫌だし……って何言わせんのよ!」
「そうですか。残念です」
「うー、報酬の600エルです! ズルっ子はさっさと依頼ボードを見に行きなさいよ!」
「ズルっ子って……まぁ見に行きますけど」
「しっ! しっ!」
態度の悪い受付嬢さんだな。そんなだから閑古鳥が鳴いているのでは?
性格の悪いお姉さんを見るといぢめたくなっちゃう衝動は抑えて、次の依頼を見に行きます。
「ポケットの縫い付け、小物入れの作成、動物の皮の納品、エプロンの作成、Tシャツの作成。ふむふむ」
Tシャツでいいか。
「Tシャツの作成はこの見本通りに作ってくれれば依頼達成よ。ふふん、これなら錬金スキルは使えないわね!」
「それは、どうかな?」
「なんですって?」
先程と同様にストレージから木材を取り出して木粉にし、見本のTシャツそっくりに錬金スキルで加工しました。元が木で作成しているのでアイボリー色になってしまうのはご愛嬌という事で。
次のレベルアップまでの依頼達成回数を聞きそびれましたが、10枚も作れば裁縫師レベルも上げられる事でしょう。
「これで10回依頼達成ですよね?」
「ぐぬぬぬ、10回依頼達成で裁縫師レベル4に上がりました! おめでとうございます! 報酬の1万エルです!」
「どうも」
「ここじゃなくて錬金ギルドに行きなさいよ!」
受け取った報酬金をストレージに仕舞っているとお姉さんが突っかかって来たので今度こそいぢめ開始です。ゲヘヘ。
「お姉さんの顔が見たいので嫌です」
「え、な、何よ急に……変な事言わないでよ……」
「お姉さんの素敵な顔が見たいので嫌です!」
「はうっ!? な、ななななななによ!? 急にそんな事言われても困るわよ!」
「お姉さんの素敵で可愛い顔が見たいからここに居ます!」
「あうあうあう……から、からからから、からかってるんでしょ!?」
「お姉さん可愛い! お姉さん美人! お姉さん大好き!」
「……え、えへ、えへへ。もっと、もっと言って……もっと私を褒めて、もっと私を甘やかして……もっと私を好きになって……!!」
堕ちたな。
「何をしとるか!」
「あだっ!? なんだアルリナか」
「目を離すと直ぐにこれなんだから!」
「糸巻きはもう満足したんですか?」
「20個も作れたし満足したわ。報告の邪魔になるからどいてくださるかしら? 節操無しのロトルルさん?」
「お姉さんを褒めるのは私の生き甲斐なので」
「……褒めるなら、わたしを褒めてよ……」
「ボソッと喋られても、私には丸聞こえなので恥ずかしい事になりますヨボへッ!?」
「殴るわよ?」
顔面をグーパンチしてから言われても……。
私のいぢめで精神を壊してしまったお姉さんをアルリナが物理的に元に戻すと、依頼達成で裁縫師レベルのアップと初回特典のボビン一つに報酬金2000エルを受け取って満足そうに微笑んでいました。




