下の上だった
翌朝。
「濡れてる……」
妙に生暖かいなと目を覚まし、毛布を捲るとベッドに世界地図が描かれて居ました。
アルリナは悪夢にうなされているようで、爪が食い込む程に強い力で私の腕を抱き締めてます。
「アルリナ、起きてください。朝ですよ」
アルリナをそっと揺らして悪夢から目覚めさせます。
「……ごめんなさい……ちゃんとします……許してください……ごめんなさい……」
「コケコッコー!」
「ひん!?」
奴隷時代の悪夢でも見ていたようなので、大声でニワトリの鳴き真似を上げて急いで起こしてあげました。
なぜニワトリの鳴き真似で起こしたのかと言えば、朝だからです。
別に犬の鳴き真似でも良いのですが、その場合はアルリナの顔中をベロベロ舐めまくるオプションが付くので、悪夢から目覚めたらまた悪夢だったなんて嫌じゃないでしょ?
え、そもそも普通に起こせば良いって? 異世界に来てまで普通って……ぷぷっ。
「ロトルル……」
寝汗と聖水でびっしょりなアルリナに呼ばれて寝ぼけていた頭がクリアになりました。
先ほど考えていた事など綺麗さっぱり消し飛んで、今はこの怯え切っている姉を抱きしめて落ち着かせます。
「私が守ってあげます。ずっとそばに居ます。だから安心してください」
「ありがとうロトルル……ずっと……そばに居てね……」
そのままゆっくりと瞼が閉じられていき、二度寝を決め込もうとするアルリナさんの体をまさぐって強制覚醒させます。
お漏らしベッドで二度寝なんて淑女として許せません。
「こちょこちょこちょ」
「うひぃ!? いやぁ、ちょっと、やめてよ、そこは弱いの、ひぃぃん」
「ベッドの掃除と朝風呂の用意をするので起きてください」
「あぅ……ごめん……」
「大丈夫です。13才でもお漏らしぐらい誰だってしますよ」
「……フォローになってないフォローありがとうね」
ベッドから起き上がり、私とアルリナとお漏らしベッドを清掃魔法で掃除して、昨日のままのお風呂から調合スキルで不純物を取り除き、ファイアボールで沸かしてストレージからブドウを取り出し、入浴剤を作成してお湯に混ぜれば入浴準備完了です。
「朝風呂も良いですな」
「そうだね」
今回は抱き着く事もなく普通に向かい合って入浴しています。
「……奴隷時代の記憶、消しましょうか?」
「それは……辛い記憶だけど、この記憶があるから、今、すごく幸せなんだって実感出来ているんだと思う。だから消さなくても大丈夫だよ」
私の目を真っ直ぐに見つめて、そう力強く答えたアルリナの顔がすごく凛々しくて、胸の辺りがキュンッとしてしまいました。これは恋……?
「ロトルル?」
「へ? あ、いや、分かりました! アルリナが大丈夫と言うのなら私からは何もしません! しませんから!」
「う、うん……?」
ちょっと頭冷やして冷静になった方が良いですね。
私はチョロインじゃない。私はチョロインじゃない。私はチョロインじゃない。ヨシッ!
「さて、そろそろ上がりましょうか」
「……今日はくっ付いてくれないんだね。わたしがお漏らし女だからかな……?」
へぁあああ!? 何故このタイミングでそんなしおらしい事を言うんです!?
上目遣いでそんな事言うなんて卑怯ですよ!?
お風呂から上がろうとしていたのをやめてアルリナに恐る恐る抱き着きます。
「なんだかいつもより控えめだね? お漏らし女は汚いからかな?」
「アルリナは綺麗ですよ……」
「ほんとにそう思ってる?」
「思ってます」
「ふーん。なんかいつもと違うなぁ」
「同じですよ」
「いつもならもっといやらしい手つきで触ってくるのに、今日は腫れ物でも触るみたい」
なんで今日に限ってぐいぐい来ますかねぇ? それにいやらしい手つきで触った事など一度も無いはずです。邪な気持ちではありましたが。
「気のせいですよ。さぁもう十分でしょう。朝食にしましょう」
「変なロトルル……」
私の気持ちの変化を敏感に感じ取ってくる辺り、アルリナもニュータイプの素質ありますよ。元奴隷なので強化人間の可能性もありますが。
朝食はサラダをアルリナに任せて私はステーキを焼いてあげて食べました。
ドラゴンステーキはいつか必ず食べてみせます。
「では出発しましょう」
身支度を整えて峡谷越えに出発です。
地図で確認すると峡谷はそれ程広くは無いので今日中にはアリビア国に着くと思います。
「マスクが欲しいんだけど」
「あれはマスクではなく、ヘルメットと言います。それと生身で慣れた方が良いですよ?」
「……ケチ」
「可愛く頬を膨らませてもダメです。さ、ちゃっちゃか飛びましょう」
チート装備に頼ると無くなった時に大変ですからね。
スキル無効とかされたら私なんてすぐに死ねます。
今のうちにスキル外スキルを手に入れた方が良いかもしれませんね。
……例えば私の骨にエアロアダマンタイトを合成するとか……?
「良いかも……?」
「何か言った?」
「独り言です」
「そっか」
アリビア国に着いたら早速試してみましょう。
川沿いを飛びながら目に付く素材(砂利や苔など)をストレージに入れて、飛び疲れたら一旦休憩して川釣りなどレジャーを楽しみ、夕暮れ時にはアリビア国が見えて来ました。
「降りましょうか」
「え、まだ先だよ?」
「美少女二人が空を飛んでいたら悪目立ちしてしまいますよ」
「美少女……かな?」
「……正直に答えて下さい。アルリナから見て私は美人ですか? それともブサイクですか?」
孤児院の人達からはブスだブサイクだの言われ続けて居ましたが、他の大陸の人にとって私の容姿はどの程度なのか気になってしまいました。
「ええ……。び、美人だよ?」
「記憶、読みましょうか?」
「下の上かな……ごめんね」
こちらの大陸でもブサイクでしたか……はぁ、つらっ。
「そうですか……ちなみに自分自身はどの位置でしょうか?」
「えー、自分じゃ分からないよ。たぶん、中の下ぐらいかな?」
学園に一人居るか居ないかレベルで可愛いアルリナが中の下……?
異世界の価値観は奥が深そうだ。
「貴重なご意見ありがとうございました」
「ほ、ほら! 他人の美意識なんて人それぞれだから!」
「ただ現実を受け入れて、そこからどうするかを考えるのが大事なのです」
「そ、そうだね! わたしもそう思うよ!」
下手なフォローはやめて欲しいですね。惨めな気分になります。
アルリナが必死にフォローする姿に愉悦を覚えてあえて無視しながら歩いてアリビア国に入ろうとすると門番に止められました。
「子供二人か……荷物も特に無し……怪しいな」
ダミ声のおっさんです。フルプレートで顔は見えません。
「荷物ならこのポケットの中に全部入ってます」
「アイテムボックスか……更に怪しくなったな……」
どうしろって言うんですか……。
「とりあえず詰所に来てもらおうか」
「えー……」
「あの、私達はただの旅人です。犯罪行為をした事も、する事も無いです」
アルリナがそう言いましたが、あなた私の首を絞めて殺人未遂事件起こしてるじゃありませんか? 私に対しての全ての犯罪行為は超法規的措置で無効って事でしょうか? そこのところ詳しく。
「そうは言ってもねぇ、言うだけなら誰でも出来るからね」
側から見たら真面目に仕事をする門番です。当事者になると面倒くさい事この上無いですが。確かに子供二人で旅なんてしていたら怪し過ぎますけどね。
「むー……」
「とにかく詰所で確認を取るから、抵抗しないように」
「はぁ……」
門の近くにある詰所に連行されて1人ずつ事情聴取される事になりました。
「何しにこの国へ?」
女の子という事で女性の衛兵さんに代わりました。
化粧はしていませんが中々に美人さんです。女性用の衛兵制服も中々にグッド!
ですけど綺麗な太ももが見えるスリットデザインはどういう事なのでしょうか? 悪漢を悩殺する目的とかあるんですかね?
ちなみに私は悩殺されているので、そういう目的があるのならまんまと術中にはまっています。
「ゲートでリコルス国に行く予定です」
「ギルドカードとか身分を証明出来る物を持っていたら見せてね」
「どうぞ」
お腹ポケットからカードを取り出して美人衛兵さんに手渡します。
「随分と色々なギルドに登録しているのね」
「お試しで入ってみただけですよ」
「なるほどね」
メモを取っているようですがこちらからは見えません。
スキル欄は偽装魔法が掛かったままのはずですけど鑑定スキルで私自身を見られたら一発アウトです。内心ちょっと冷や冷やしています。
「そのアイテムボックスの中身全部出してくれる?」
「え?」
「んー?」
その疑う様な眼差しはやめてください。興奮しちゃいます。
「全部出すとなると大変な事になりますけど良いですか?」
「何かやましい事でもあるの?」
「大量の砂や砂利、鉱物、植物、貴金属などなど、この部屋なら余裕で埋まりますね」
「……どれぐらい入ってるのよ?」
「ストレージボックスなので適当に入れてます。素材集めが趣味なので」
「……とりあえず出せる物は出してみて」
「分かりました」
当たり障りの無い日用雑貨から食材や素材アイテムなどをテーブルに取り出して行きます。
「も、もういいわ。仕舞ってちょうだい」
「まだまだ沢山ありますよ?」
「危険物を持っていないか確かめたいだけだから、もう結構よ」
「危険物……ナイフとか?」
「そういうのを先に出してくれたら時間を無駄にせずに済んだわね」
武器になりそうな物をテーブルに並べて行きます。
「ボロボロの短剣、包丁、フライパン?」
「殴ったら痛そうなので」
「そう……他には無い?」
「整理整頓って苦手なので他にもあるかもしれませんが、素材さえあればその場で作れるので危険物と言えば私自身と言えるかもしれませんね」
「……そう、分かったわ。もう仕舞って結構よ」
ブツブツ言いながらメモを書き終わると美人衛兵さんは部屋から出て行ってしまいましたが、部屋から出ていくほんの数秒、美人衛兵さんが後ろ姿を晒してくれたので引き締まったお尻を凝視しておきました。
しばらく待っていると美人衛兵さんがアルリナを連れて戻って来ました。
「あなた達がこの国に滞在している間は監視が付く事になりました。少しでも不審な行動を取れば即座に逮捕拘束されるので気を付けてください」
「あ、分かりました」
事件に巻き込まれるイベントフラグがビンビンに立っているのでアリビア国観光は無しで一直線にゲートへ向かいましょう。
私だけならまだ良いですが今はアルリナも居るので危ない橋は渡れません。
ちょっとぐらい大丈夫だろうと慢心して幾人の主人公やヒロイン達が事件に巻き込まれたことやら……。
前世のオタク君の知識はこういう時に役立ちますね。
詰所から出て真っ直ぐゲートのある広場までアルリナの手を繋ぎながら向かい、途中でアルリナが「ちょっとぐらい観光して行こうよ」という死亡フラグを問答無用でへし折り、通行証売場でリコルス国行きの通行証を二人分合わせて40万エルを支払ってゲートへ入りました。
「オエエエエエエエエエ!!」
「あぁぁ……」
ゲートを通り、リコルス国へ着いた瞬間アルリナが私のお腹ポケットに嘔吐して来ました。
咄嗟の事だったのでストレージスキルを発動する間も無く私のお腹にじんわりと生暖かい嘔吐物の感触が広がって来ています。
「ゲホッ! ゲホッ! うえぇぇ……ごめんねロトルル……ウプッ! オエエエエエエエエエ!」
美少女の嗚咽……美少女の嘔吐物……アルリナ……君は、どうしてこうも私を……えへ、えへへ、エヘヘヘヘへへ。
「ハァ……ハァ……アルリナ、我慢せずに全部私に吐き出してしまって良いですからね。だからもっと……もっと私を……」
気持ち良くさせてッ!!
「ヒエェ……あのお嬢ちゃんの顔……」
「やめとけ……ああいう手合いは無視するに限る」
アルリナの体調が落ち着くまで、私は何度も何度も絶頂を迎えて気が狂いそうになるのを必死に抑えて、優しく丁寧にアルリナを介抱し続けました。




