何の戦術的優位性も無かった
馬車に乗り込むと誰も乗っていませんでした。チッ。
出発まで少し時間があるので暇潰しに前回馬車内で作っていた鉱石から金を作り出しましょう。
ストレージから鉱石を取り出して調合スキルで金属部分だけを抽出し、錬金スキルで金属変化を掛けます。
「銅、銀、銅、鉄、アルミニウム、銅、鉛、スズ、チタン、金、銅、あっ、鉄……」
くぉぉ、せっかく金が出来たのに無意識に変化させてしまった! ゲームでよくやる奴!
でも金が出来る事は分かったので続けましょう。
「銅、銀、マンガン、鉄、ミスリル、水銀、プラチナ、マグネシウム、銅、金――」
「お邪魔しまーす!」
「銅ぅふ!?」
にゃああ!? せっかく金が出来たのに驚いて変化させちゃったよ!!
「みゃっ!? ごめん、ビックリさせちゃったか?」
「いえ、大丈夫です……んぅ!?」
なん……だと……!?
全身毛むくじゃらのはずなのに人肌に見えてしまう艶感。
猫顔とはいえ人寄りの顔立ち。
猫耳に短めの尻尾。
前世で飼っていた茶トラの猫にどことなく似ています。
ケモナーレベル4に該当しますが手は人です。ブーツで足は見えませんが多分人でしょう。あとおっぱいがでかい。二つのたわわなので複乳でも無さそうです。(この間0.2秒)
「な、何か?」
「い、いえなんでも無いです。なんでも……」ニチャァ
ダメだ、こらえろ、ここで手を出したら犯罪者だ……。だけど、ちょっとぐらいなら良いんじゃないかな? ちょっとだけ、ちょっとだけだから……。
「フーッ! フーッ!」
「だ、大丈夫? 鼻息が荒いけど閉所恐怖症とか乗物恐怖症とかなのかな……?」
「違います、けど、大丈夫では無さそうです……もう、我慢出来そうに無いです……ハァハァ……ウヘヘへ」
猫人さんの顔がドン引いてます。
私は今、どんな顔をしているのでしょうかね?
「ハァハァ……あの……」
「は、はい!? 何でしょう!?」
「少し触ってみても……」
「そろそろ出発しますね」
「あ、はーい。……えっと何ですか?」
「……なんでもありません」
タイミングッ!!
ガタガタと動き出した馬車に揺られてザカル街をあとにします。
「……」
「……」
猫人さんは窓の外を見て露骨に私から視線を外しています。
分かっています。自分が異常に鼻息が荒かったり、突然奇妙な笑い方をしたりして驚かせてしまっている事を。
でもしょうがないじゃないですか、目の前に可愛い可愛い猫ちゃんが居たらよしよしと撫でたくなる気持ち誰だって分かるでしょ!? 分かってよ!
ふぅ……金属変化をして少し落ち着きましょう。
「銀、鉄、鋼、銅、ミスリル、銅、銀、ダマスカス、鉄、オリハルコン、アルミニウム、金、銅、あっ……鉛、銅、プラチナ、銅」
「あの、何をしてるのか聞いても良い?」
「え……っと、錬金スキルで金属を変化させてるんです。すみません。うるさかったですか?」
「ううん、全然。それよりもあなた錬金スキル持ちなの?」
「そうですけど?」
「良かったらでいいんだけど、この剣直してくれないかしら?」
猫人さんが腰に付けていた鞘に入った短剣を外して渡してきたので反射的に受け取りました。
「えっと?」
「刃こぼれしてるんだけどね。その、あんまりお金持ってなくてそのまま使ってるんだけど、そろそろ直さなきゃなぁっと思っていた所に錬金スキルを持っているあなたに出会えたのって運命なのかなって思って、だから、そのね、タダで直してくれると嬉しいにゃ!!」
「良いですけど……?」
「本当かにゃ!? ありがとにゃ!!」
きゃわわわわ!!
この猫人さん、興奮すると語尾が「にゃ」になってしまうんでしょうね。可愛いにゃあ。
「見抜きさせてもらっても良いでしょうか……?」
「見抜き?」
「あっ、じゃなくて剣を抜いて見ても良いでしょうか?」
「あぁ、どうぞどうぞ」
何を口走っているんでしょうかね?
この猫人さんに「しょうがないにゃあ……いいよ」とでも言わせたかったのでしょうか? ……めちゃくちゃ言わせたいっ!!
「ん?」
「えっと、それじゃ見てみますね」
落ち着くのよ私! 今は我慢の時!
茶色い革製の鞘から短剣を抜いて見ると刃がガッタガタで、どんな使い方をすればこんな酷い状態になるのか分からないような代物が出て来ました。
「これは……直すより新しい物を買った方が早いですよ?」
「お金が無いんです……」
「……そうでしたね」
直すだけならなんて事ない作業ですけど、この可哀想な短剣を見るにただ直してもまたボロボロにしちゃいそうだし、いっその事エアロアダマンタイト製の短剣を作ってあげようかな。
「この短剣に何か思い入れとかってありますか?」
「んにゃ、全然無いよ」
「そですか」
じゃあ、作り直しちゃいましょう。
と言ってもこの短剣を直すより、新たに同じ形の短剣を錬金スキルで作った方が早いので見た目だけパクっちゃいましょう。著作権? そんなものこの世界にはありませんよ? ……無いよね?
ストレージからエアロアダマンタイトの塊を取り出して錬金スキルで短剣の形に整えていきます。
「おぉ……すごいにゃ……」
刀身一体型なので柄の部分を凹凸加工して滑り難くし、ついでに波模様を刀身の上部分に刻みます。この波模様には何の戦術的優位性 も持たせられませんが格好良さは大事でしょう。
あとは柄頭に所有者の名前を刻みましょうかね。
「名を刻むので猫さんの名前を教えてください」
「ミャルミャルにゃ!」
「ミャルミャルニャさんですね」
「ミャルミャルだけでいいです……」
「ミャルミャルさんですね。あ、私はロトルルと言います」
「よろしくにゃ!」
「はい、色々とよろしくします」
「うん? 色々……?」
柄頭にミャルミャルと小さく刻み、これで完成。あとはミャルミャルさんが持っていた革製の鞘に仕舞い手渡します。
「おぉー! すごいにゃ! カッコいいにゃ!」
ミャルミャルさんに手渡すとすぐに鞘から取り出して、舐め回すように私の作ったエアロアダマンタイト製の短剣を見回し始めました。
すごく嬉しそうで作った甲斐がありますなぁ。
「こっちのボロボロの短剣はどうしますか?」
「捨てていいにゃ! それよりも本当にタダで良いのかにゃ?」
捨てるのは勿体無いのでストレージにしまっておきます。
「良いですよ。それよりもミャルミャルさんの喜ぶ顔が見れたので、それだけで儲けものですよ」
「嬉しい事を言ってくれるにゃねぇ! よし、分かったにゃ! 気が済むまで私の体を撫でて良いにゃよ!」
「……えっ!?」
今、何と言いましたか!?
「人間はすぐに獣人をペット扱いしてくるから、ロトルルもそうだよね?」
「い、いえ、別にペット扱いとかそういう気持ちは、まぁ、少しはありますが、撫でてみたいなぁとか、抱き付いてよしよししたいなぁとか、全然そんな事を思ってたりはしないんだからね!」
「うん、心の声ダダ漏れだね」
「くっ……!」
「素直になって抱き着きなよ。これぐらいで御礼になるならいくらでもしてあげる」
本当ですか!?
「あ……あぁ……!」
本人の許しが出てしまったのでもう我慢の限界です!
勢い良く飛び掛かりミャルミャルさんに抱き付いて身体中を撫で回し、クンカクンカと太陽光で干した布団のような香ばしい香りを嗅ぎながら自分の顔をミャルミャルさんのモフモフの体に擦り付けます。
「ウヘヘ、ミャーさん、ミャーさん、スーハースーハー、あぁ、気持ちいい!」
「んん、もう、やめるにゃ……変な気持ちになって来てヤバいにゃ……」
「ミャーさん可愛い、ミャーさんしゅき、ミャーさんミャーさん!!」
「んっ! そこはダメにゃ! 弱いにゃよ……やめてにゃ……」
「ウヘ、ウヘヘへ、ミャーさんはもう私のだから、誰にも渡さないよ!」
「落ち着くにゃ……あぅっ……落ち着いてにゃ……にゃうぅ……」
延々と乳繰り合っているといつの間にか馬車が止まり見知らぬ村に到着してました。




