少年(20.07.31)
海辺に住んでいる少年は
波の荒れる日も遠浅の日も
スクールバッグを担いで堤防に上っている
打ち捨てられた釣り具と魚の骨
砂交じりのコンクリート
サーフボードが立てかけられているのは顔馴染みの店
錆びきった電話台と海の向こうを見るときだけ
気の強い瞳が戸惑いに揺らいでいる
地下鉄を漂浪するハイティーンの少女は
つり革を見上げながらゆったりと腰かけている
隣人の手にする文庫本の文面に
疲れた人ばかりが織りなす日々の軌条の上に
同化しながら夢を落とす
風のかたまりに髪を煽られながら
白いレースを腕に巻きつけながら
火花のようなホームの蛍光灯の明かりのように
黒ずんだパイプの中で不滅の希望を振りまいている
スーパーマーケットに現れる子供達は
ふとした瞬間商品棚の下にいる
澄ましてカートを引いていたり
母親の腕を掴んでいたり
野菜やお菓子に手を伸ばしている
何を思ったのか一人の子供は
蜜柑の缶詰をじっと見つめると
嬉しそうに抱きかかえていた
音楽の中にいるシャイな青年は
姿を変えて誰かの隣にいる
竪琴の音色にもデータの中でも変わらずに
頬杖をついて瞼を閉じている
雨の夜をひたすら繰り返されるメロディー
聞き手の掌中に青年は飴玉を落とし
じんわりと広がる記憶へ目を開かせる
どこにでもいてどこにもいない青年
今でも僕達は生きているんだよと笑い
夜明けの青空を細く透き通った声でひとつ歌うと去っていった