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俺はクソガキにも絡まれる

 最近の俺は、メスガキを抱き抱えている。

 メメは腕を俺の首に、足を腰に回している。その姿で街でも森でも過ごしている。


「なあ。これに何の意味があるんだ……? 重いんだが……」


 メメは器用に背中に回り、抱っこからおんぶへと変化した。

 密着するも背中に胸の感触はない。

 そして、俺の首に腕を回して絞めた。


「ぐえっ!」


 いつものメメの虐めだ。流石に冒険者ギルドの中で絞め落とす事はないだろうが。

 俺は腕を掴んで抵抗する。


「ちっ。見せつけやがって……。おい! 約束は忘れてないだろうな!」


 いつぞやの、メメをパーティーに誘った少年だった。イチャ付いてるように見えるならくれてやりたい。

 俺はゲホゴホとせながら、依頼掲示板を見た。

 いつもの薬草採取の依頼が無くなっていた。


「シーズンを過ぎたからね。そんな事も知らないの?」

「ふむ……」


 メメの悪態には慣れたもので、いちいち相手にすることもなくなった。

 代わりに無視すると耳を引っ張ったりしてくるのだが。

 それをも無視すると今度は噛み付いてきた。


「俺が受けられそうなのは……これか」


 俺が手にしたのは精霊花せいれいかの採取依頼。薬草採取よりも森の奥地になるが、日帰りで行けるし日銭稼ぎには良いだろう。


「おいお前! それを受けるのか!?」

「そうだが?」


 少年が突っかかってきた。

 これがEランク依頼だからか? 採取だからこれを一回こなしただけでEランクに上げれる訳ではないのだが。


「それなら俺も受ける! どっちが早く採ってくるか勝負だ!」

「はぁ?」


 同じ依頼が二つあったようで、二枚目を少年が剥ぎ取った。


「俺が勝ったらその子を寄越すんだぞ! わかったな!」

「はぁ」


 一方的な約束を言いつけ、少年は去っていった。

 メメが背中越しに依頼書を覗き込む。

 しかし見づらかったのか、俺の背中をよじ登って肩に座り、肩車となった。少女の細い太ももが俺の頬を挟む。

 もっとムチムチの方が嬉しいのだが……とは口には出さない。このまま首を折られそうだからだ。


「精霊花ってなに? 聞いたことない素材ね」

「ああ。メメは他所から来たんだったな。素材ではないんだ」


 精霊花はこの街に伝わるプロポーズに使う花である。そのため求婚の花とも呼ばれる。

 由来は諸説あるが、男が勇気と強さを示し、精霊に認められた証と伝えられている。

 本来は求婚する男が自分の手で摘みに行くものだが、時折事故で死ぬ事も多かった。

 そのうち花は護衛を連れた大人数で採りに行くようになり、今では依頼として貼られるようになった。


「ふぅん? 他の人に採ってきてもらった花を貰って嬉しいのかしら? 自分で採りに行けないクソザコ精神を示してるじゃない」

「金で依頼できるのも力の一つなんじゃないか?」


 と、言っても冒険者に取っては手間なだけで難易度は高いわけじゃあない。

 依頼報酬が一分(1/4)銀貨2枚ということはギルドへの元の依頼料は銀貨1枚ほどだろう。決して安くはないが、稼げる男なら命よりも高い値段ではない。


「しかし、依頼が二つということは荒れるなあ」

「どういうこと? さっきの少年のことかしら?」

「いや。おそらく、二人の男が一人の女を狙っている」

「ふふっ。それは荒れるわね。先にプロポーズをされたら依頼主に怒られるじゃない♥」

「ああ。急がないと戻ってきた時には花が不要になっている可能性があるな」


 準備をして森へ向かわないとと、ギルドの出口へ向かおうとしたところ、メメほどではないが小柄の、フードを被り杖を手にした少女が立ち塞がった。


「久しぶりねザーク」

「ああ。アリエッタか」


 少女がフードを外すと、青黒い髪のおさげが揺れた。


「一人じゃ何もできないお馬鹿さん。どこへ行くつもり」

「森へ行くところだが……。何のようだ?」

「私がいるから一人じゃないわ。ちびっ子♥」

「ちっ……!?」


 ちびっ子アリエッタが顔を真っ赤にして、俺の肩に乗っているちびっ子メメを睨みつけた。


「あんたがザークを誑かしたメスね! 彼から離れなさい!」

「なんなの? こいつ」


 メメが俺の肩から飛び降りて、アリエッタと睨み合う。


「おい待てメメ! アリエッタも! そこを通してくれ。外に出るぞ!」

「……ふんっ」


 アリエッタが背中を向けてギルドの扉を押した。俺たちもそれに付いて外へ出た。


「一体どうしたんだ。パーティーに何か問題でも起きたのか?」


 アリエッタは俺が勧誘した前パーティーメンバーの女魔導士だ。

 俺は彼女とは仲が悪かった。俺に対し常に不満をぶつけてきたのだ。


「そうよ! あんたが勝手に抜けたせいで問題ばかりだわ!」

「それは……すまないことをしたな」


 俺が謝ると、得意げな顔をして俺の胸に指を当てた。


「どうせ薬草採取しかしてないんでしょ? どうしてもパーティーに戻りたいというなら許してあげるわ!」

「あいにくだけど」


 そう言ってメメがアリエッタの手首を掴む。


「ザコお兄さんは私の玩具なの♥ ちびっ子の元へは戻らないわ♥」

「ンキィッ!」


 アリエッタの杖が輝き始める。


「おいこんなとこで魔法を!? 街中だぞ!」

「こいつを消せば! 全てが収まるのよォッ!!」

「ふんっ」


 メメがアリエッタの掴んだ手首をひねり、地面に転がした。

 そして杖をはるか上空へ蹴り飛ばした。

 杖は冒険者ギルドの屋根の上、空中で小さな爆発をボンッと起こした。

 輝きを失った杖は落下し、メメがパシッと右手で掴む。

 そして杖の先を、アリエッタの喉元に向けた。


「そこまでにしてくれメメ! おい大丈夫かアリエッタ!」


 地面に転がされたアリエッタを抱き起こす。

 彼女の褐色の瞳から涙が溢れ出す。


「びえええええんっ!!」

「お、おい。大丈夫か? どこか痛むか?」


 俺はアリエッタの肩や腰や尻を撫でて確かめる。

 だがアリエッタは俺の手をバシンと跳ね除け、杖をメメの手から奪い返し、走り去っていった。


「何だったんだ……?」

「さ~あ」


 アリエッタはパーティーで困っていると言っていた。

 だがリチャルドは何も言ってなかった。俺が抜けた事について気にしていた感じはなかった。

 むしろ、俺の事を応援してくれているように感じたが……。


「急がなくていいの? ザコザコ鈍感お兄さん♥」

「あ、ああ。そうだな」


 精霊花採取に行くのだった。これには事前の準備がいる。

 俺は馴染みの工房へ顔を出した。


「よぉ! 久しぶりだなぁ!」


 一緒にいたメメとの関係とか、色々聞いてきたがとりあえずスルーだ。


「精霊花を採りに行くのだが、瓶はあるか?」

「あるぞー。なんだぁ? 二人は結婚するのかぁ? 随分若い嫁さんだなぁ!」

「違う。ギルドの依頼だ」

「んあぁ? おめえさんのとこのパーティーはDランクじゃあなかったかぁ? そんな雑用みたいな依頼をいまさら受けるんだなぁ」

「いや、辞めたんだ。俺は」

「辞めただぁ? なんでぇまた……。ははぁーん? それでか」


 工房のおっさんが髭を撫でた。


「何がだ?」

「最近おめえさんが買い付けに来ねえって商人から聞いたからよぉ。はぁん。今更ソロで活動ねぇ……」

「悪いか」

「いいんじゃねえの? まだ若えんだしなぁ! かわいい嫁さんも見つけて良かったじゃねえか! ガハハハッ!」

「だからちげえって!」


 こういう時に限って、メメがおしとやかに俺の背中に隠れたりぶりっ子ムーブしてるから誤解が解けねえ。


「悪いが急いでいるんだ。頼むよ」

「わかったよ。ちぃと待ってろい」


 おっさんが奥へ消えていった。


「ねえ。瓶ってなんなの?」

「ああ。精霊花って繊細なんだ。すぐに枯れてしまうから市場にもないからその日に摘んで来ないとならない。プロポーズに使う花が萎れていたら嫌だろう?」

「ふぅん。お兄さん戦いはクソザコなのにそういう事は詳しいのね」

「クソザコ言うな。わかってる癖に」


 瓶は透明度の高いガラス製だ。値段も高い。いつもの癖でツケで頼もうとしたが、「おめえパーティー辞めたんだろ?」と言われてしまった。

 メメの持っていた銀貨で支払う。受け取った釣りを数えるとこれは……二束三文の仕事になってしまいそうだ。

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