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俺はメスガキの胸を触りたい

 食事を摂り、俺たちは酒場を出た。

 メメは膨れた腹が丸出しで、頬を膨らませたモンスター蛙のようになっていた。


「腹出てるぞ」


 と、俺が軽口を叩くと、メメが瞬時にボディーブローを入れてきた。

 胃の中のモノが腸に下りてなかったら、食事が無駄になるところだった。


「うおぉ……」

「痛みに慣れなさい。不意の攻撃に対応できるようになりなさい」

「な……にを……?」


 今度はベシンと尻を蹴られた。


「いっぱい虐めてあげる♥ ザコお兄さん♥」


 メメはけらけらと笑った。メスガキが暴力女にランクアップした。

 なぜこんな女に付きまとわられなければならないのか。

 いや確かに感謝している部分はある。彼女がいなかったら俺は間違いなく死んでいた。俺は自分自身を勘違いしたまま、絶望のまま、後悔して、反省する機会もなく森の中でちていただろう。

 だがそれにしても理不尽だ。もっとこう、優しくしてほしい。


「悪いが俺はマゾの気はないんだ」

「んふふっ♥」


 俺が瞬きをする間に懐に入られ、金玉を握られた。


「――ッ!?」

「このまま力を入れたら……んふふふふっ♥」

「や、やめっ……」


 今日から俺は女の子になってしまうらしい。グッバイ金玉。

 願わくは来世ではもっと役立てるよう頑張るよ……。


「急所くらい守れるようにならないと、また死ぬよ」

「くっ!」


 メメは右手で金玉を握ったまま、俺の首筋を左手で撫でた。首の火傷の枷がじくじくと痛む。


「ほら、また死んだ♥」


 メメが俺の喉仏の下に、人差し指をぐいと押し込んだ。俺は吐き気を催す。


「ひぅ……」

「やだもー。泣かないでよっ。泣き虫お兄さん♥」


 メメはぱっと手を放して両手を広げた。


「代わりに、私の胸を触っていいよ♥」

「けほっ……いらねえよっ!」

「いいからいいから♥」


 メメは俺の右手を取り、公衆の面前で俺の手のひらをその薄い胸に当てた。

 ガキになんか興味ないのだが、色っぽい雰囲気を醸し出しており、さっきの事も忘れて俺はドキドキしてしまった。


「ねえ。私の心臓の音が聞こえる?」

「あ、ああ……」

「今から常に、私の胸を狙ってね。ザコお兄さん♥」

「はぁ?」


 そんなことより薄い胸のように見えて、かすかに膨らみがあり柔らかいんだなと思った。

 そして甘く良い香りがする。さきほど果実を食べていたからだろうか。彼女の身体や髪の匂いに意識が引かれてしまう。


「あっ……」


 彼女が手を放し、下がってしまった。

 手のひらのぬくもりが消えて寂しい。


「ほら、ロリコン変態お兄さん♥ 私の胸を狙って♥」


 周囲の視線が痛いが、逆らうとろくな目に遭わない。また、いたぶられるだろう。決して彼女の身体に触りたいわけではない。おっぱい。

 俺はメメの胸を狙って手を伸ばした! おっぱい!

 だが半身でかわされ、手首を掴まれねじられ引っ張られ、胸ぐらを掴まれ地面に仰向けに倒された。


「へ?」

「触れるように頑張ってね♥ ザコお兄さん♥」


 なんだこのメスガキふざけるな。俺の中で沸々と怒りがこみ上がる。おっぱい。

 メメは手を放し再び離れる。俺は立ち上がって対峙する。おっぱい。

 普通に手を伸ばしてもかわされる。ならばフェイントを入れてやる。おっぱい。


「せい!」


 声を上げたのはわざとだ。

 右手を伸ばしかけたところで、一度止める。本命は左手だ! おっぱい!


「ふふっ♥」


 だが呆気なく見破られ、再び俺は地面に転がされた。

 ざわざわと観衆が集まり「なんや喧嘩か?」と俺達を囲みだす。


「ザコお兄さんのザコザコなところ観られちゃったね♥ 宿屋に帰ろうか」

「あ、ああ……」


 メメが俺の手を引き、起こした。俺はパンパンと服に付いた土埃を払う。

 いつものようにメメが俺の腕に絡みついてきた。

 観衆の野次を無視して、俺たちは足早に宿へ向かう。


「フェイントするくらいの知恵はあるんだね♥ ザコお兄さん♥ 頑張って私の胸を狙ってね♥」

「ガキの胸なんか興味ねえよ」


 おっぱいってのは、手のひらから溢れるくらいのモノがいいんだよ!

 ……あれ?


「なあ……さっき俺に何かしたか?」

「どうしたの? また触る?」


 うっ。身長差で上から色々と見えそうだ。なんて格好だ。恥ずかしくないのか。

 さっきまであれほど渇望したメメの胸だが、全く興味が湧かない。俺はロリコンなどではない。


「くそ。あれも魔法か……。人の感情を操るな。不快だ」

「ええー? 抵抗しないガバガバお兄さんが悪いんだよ♥ すでに何度も死んでるね♥」


 と、いうのは、メメに悪意があったらという話だろう。

 彼女が俺のどこの何を気に入ったのかわからないが、もし彼女の機嫌を損ねたらいつでも俺のたまを取られる可能性があるということだ。

 俺の玉はヒュンと縮んだ。


「ほら。私の胸を触りなさい♥」

「断る」


 メメは俺の左手をぎゅっと握った。骨がギシギシと悲鳴を上げる。やはりこうなるか。

 俺は痛みをこらえて、右手ですぐ隣にいるメメの胸を狙った。

 それは傍から観たら、子供の娼婦を連れた男が公衆の面前で胸を触ろうとする下衆野郎の行為に見えたであろう。だが俺には選択肢はなかった。

 再び俺の右手は呆気なく、彼女の左手で搦め取られてしまう。

 奇しくも俺たちは向かい合い、まるでキスをする直前のようになってしまった。

 彼女は背伸びして、俺の耳元に顔を近づけた。


「へたくそ♥」


 ヘタもクソもあるか!

 人をからかって何がしたいんだ! 遊びたいならその辺のロリコンを掴まえて押し倒せ!


 彼女の遊びと虐めは毎日続いた。

 それは日々こなす薬草採取の最中、常に行われ、俺はモンスターより彼女の攻撃を恐れた。

 身体中に打ち身が増えていく。痛いことは痛いが、すっかり攻撃される事に慣れてしまった。

 そして胸触り遊びも続く。その度に俺は地面に転がされた。


 そしてこれらの意味は、四日後、再び森の中でゴブリンと対峙して理解した。

 最初は俺はゴブリンを恐れた。先日の情けなくやられた戦いを思い出してしまったのだ。

 手足が震え、動きの鈍った俺は、あえなくゴブリンに先制攻撃をされてしまった。

 ゴブリンの槍が、俺の腹を狙っている。


(あれ? こいつら遅いな?)


 俺は難なくかわせると判断した。

 メメの動きを真似るように、半身でかわし、前へ出た。

 ゴブリンの手首を掴み、引き倒す。そして頭を踏みつけた。


(とりあえずこいつはすぐに動けまい。後ろの奴を)


 俺は振り返り、棍棒を手にしたゴブリンに剣を向ける。


(胸を……触る……)


 俺は剣を振らず、ゴブリンの心臓を突いた。

 貫くことはなかったが、肋骨が折れて刺さったのだろう。ゴブリンは青い血を吐き、絶命した。


「ははっ。よえーじゃんゴブリン」


 こんなのに負けたのか俺は。笑いがこみ上げてくる。

 そして油断をしていたら、尻に矢が刺さった。


「いってぇ!」

「あははっ! やっぱりクソザコお兄さんはダメダメだね♥」


 木の上からメメが跳躍し、弓ゴブリンを踏みつけた。

 幸いな事に矢は深く刺さっていない。尻の生地が厚いのと、ゴブリンの弓矢が粗悪なおかげだ。

 俺は忘れずに、地面に倒した槍ゴブリンにトドメを刺した。


「なあ! 観てたか! 俺でもゴブリンを倒せたぞ!」


 俺は歓喜の雄叫びを上げる。やれる。俺でもまだまだ強くなれるんだ!


「はぁ……。まだまだね。もっと虐めて上げるから、喜びなさい」


 それは喜べなかった。

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