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全ての始まり

 と、色々あったことを、俺はヨウコの膝枕で寝転がり、左手でヨウコのしっぽをもふもふしながら、右手で通信の魔石を握り、アリエッタに連絡した。

 アリエッタのため息がノイズ混じりで聞こえてくる。


「はぁ……。あんたの話しは支離滅裂なのよ。なによお花畑で王の剣を死霊に振ったら偽物のリルゥちゃんとシエラちゃんができたって……。あ、いらっしゃいませぇ♪」


 通話の向こうで、アリエッタの猫撫で声で接客が始まった。穴の町はまだまだ復興途中だが、パフィの店は営業再開できるくらいには順調らしい。

 それにしてもアリエッタが接客なんておかしなものである。お菓子だけに。


「で、あんたの話しはなんだっけ。マナが濃くて、触れたら夢を見させられたんだって?」

「そうなんだ。夢で死にかけた」

「ああ、それ多分そこで死んだら生身も死んでたわよ。夢と思わない方がいいわ」

「そんな気はしてた。メメが助けてくれたが」

「彼女がいなかったらあんたもう百回は死んでるわよ」


 むぐ。

 いやそもそも最初はメメに殺されかけたのだが。首の火傷はメメが俺を殺すつもりで付けた痕だ。俺が生き残ったのは偶然とメメは言っていた。


「それで剣を拾った時のメッセージは『王よ。私に剣を』だっけ」

「そうそう」

「ふぅん……。私が推測するにそれは鍵ね。稀によくあるわそういうの」

「どゆこと」

「その白いマナの壁。剣で斬ってみなさい」


 べっちょりしそうでやだなぁ。

 よっこらしょと立ち上がり、俺は剣を抜いた。皆が「何を始めるんだ」と好奇な目で見つめてくる。

 ねちょりとした壁に俺は剣を振るうと、剣は当然ねちょりと白いねとねとまみれとなり、白いマナの壁は切り裂かれた。

 そして俺は意識を再び持っていかれた。


「またかよ!」


 脳みそをぐわんぐわんと揺るがされる感覚の中、俺はすぐに状況を理解した。

 くそ、アリエッタのやつめ。騙しおって。

 しかし今回はお花畑ではない。何か白いものがひゅるひゅると俺の周りを周っている。

 なんだこれと指先で突付いてみたら、ぽよんと柔らかく揺れた。


「こ、これは……おっぱい!」


 白いぽよぽよの先には桃色のぽっちが付いていた。まさしくそれはおっぱいだった。


『汝、何を求む』


 荘厳な声が頭上から響く。ずぞぞぞぞと現れたのはいつか見た、おっぱい神だった。


「おっぱい神さま! おっぱいくだちぃ!」


 俺は勢いで焦って口走り、噛んでしまう。

 おっぱい神さまは豊満なお姿をぷるんぷるんと左右に揺らした。


『よかろう』


 ハッ!

 俺は再び横に寝かされていた。


「主は懲りぬやつじゃのう……」

「ばーかばーか。ばかお兄さん♥」

「違う。聞いて」


 そもそも王の剣(?)で白いマナの壁を切り裂くアイデアはアリエッタが言ったことだ。俺の軽率の行動のせいじゃないんだ。

 そんなことより胸が苦しい。


「胸が締め付けられて痛い……」

「まじか主よ! 心の臓をやられおったか!?」

「え? 死ぬの? 突然ね」


 死なねえよ!

 と、言いたいところだが、俺はますます息苦しくなり、声が出ない。

 引っ掻くように革の鎧を掻き毟ると、ヨウコとメメが俺の様子を察して脱がしてくれた。

 ふぅ。


「!?」

「なんということじゃ!? 主よ、女になったのか!?」

「はあ?」


 苦しかった胸を触ると、そこにはぽよんとしたものが俺に付いていた。

 もにゅもにゅ。


「おっぱいだ!?」

「おっぱいじゃな」

「おっぱいね……」


 なんと俺が求めていたおっぱいが俺の身体に付いていた。

 ありがとうおっぱい神さま!


「なんで!?」


 いや違うだろおっぱい神さま。

 確かにおっぱいを求めたけど。


「わちにはわかるぞ。主よ。何者かにたぶらかされたじゃろう?」

「誑かされるだなんてそんな……」

「お菓子屋の娘に聞いてみぃ」


 アリエッタはお菓子屋の娘じゃないのじゃが。素直に言うことを聞いて通信した。


「は? 胸が膨らんだ? ちょっと待って。想像した。吐きそう」


 おええええと美少女魔法使い(年齢不詳)にあるまじき声を聞いたあと、再び魔法教室が始まった。

 その間たぷたぷと自分の胸を楽しむことにする。


「だから、魔法はマナを使って望みを叶えることが根底にあるのよ。魔法の行使とは一言で言えば欲望よ。ああしたいこうしたい。私達はマナにお願いして望みを叶えているの。その欲望の残滓が溜まり積もった物が黒のマナ溜まりと呼ばれるもので……聞いてる?」

「あーはいはい。聞いてる聞いてる」


 おっぱいおっぱい。


「いや、聞いてないでしょ」

「なんだね貧乳くん。今は俺の方が胸はあるのだよ?」

「わけわからないマウント取ってくるんじゃないわよ! 死ね!」


 ふふふ。たゆんたゆん。

 とりあえずわかったことがある。このおっぱいは危険だ。ちびっ子には刺激が強すぎるだろう。

 そして願いがなんちゃらとアリエッタは言っていた。確かに俺はおっぱい神におっぱいを望んだ。だがこの結果は俺が思っていたのと違う。

 だがしかし……。


「ぽよんぽよん」


 自分のものということは触り放題である。(むげん)おっぱいだ。

 求めなくてもそこにある。そう。俺は生涯のおっぱいを揉む権利を手に入れたのだ。

 俺は全人類に勝利した。


「はーっはっはっはっは!」


 メメはびくんと身体を震わせ離れていった。

 ヨウコは膝枕を続けてくれているが、目を逸らしている。

 たぷんたぷん。

 おかしい。俺はこの世の全てを手にしたはずなのに、無性に虚しくなった。

 俺が求めていたはずはこれだったはず……。なのになぜ……。


「主よ。泣いておるのか?」

「これが……。世界のことわりを知ってしまった虚しさなのか……」


 俺はこんなもののために、傷つき、苦しみ、戦ってきたというのか……。

 俺は世界に絶望した。

 だが、涙で歪んだ視界の中で、俺は新たな光を見た。


「ぴょんぴょん」

「……(♪)」


 俺の目の前で幼女の小ぶりのお尻が跳ねていた。

 そして俺は全てを理解した。

 そのお尻の尊さを。


「お……おし……おし……」


 俺は幼女の尻に手を伸ばし、その言葉を口にしようとする。

 だが俺はためらった。

 おっぱい教徒である俺が、それを口にするのは、してはいけないことだと本能で感じた。

 ぐっと手を握り、俺は堪える。


「なにしてんのザコお兄さん……」


 メメが俺の顔を覗き込んだ。

 見ないでくれ。俺にはもう……メメっぱいを揉む資格なんてないんだ……。

 だがその時、俺は再びマナの世界に呑み込まれた。

 視界がぐるりと反転するような感覚には慣れたもので、なぜか一周して、夢の中で俺は再び仰向けに戻った。

 髪が熱い。


『やっぱり私、ザコお兄さんの事、反吐が出るほど嫌いだわ♥』


 メメが俺の顔を踏む。そこにはお尻があった。


『もう元の生活に戻れないようにしてあげる♥』


 俺が手を伸ばすと、俺の顔にお尻が乗ってきた。

 ありがとうございます!

 そしてメメが俺の首を締め……。


「はっ!」


 俺は身体を起こす。

 メメと視線が合う。


「な、なに?」


 俺は気づいてしまった。

 そうだ。全ての始まりはそれだ。尻だった。尻だったのだ。

 俺は尻でも良かったのだ……!


「メメ! 俺の顔に座ってくれ!」

「え? きもっ!」


 俺はメメに蹴り飛ばされて、穴の淵に追いやられた。俺ははしと端にしがみつき、かろうじて落下を免れる。

 そんな落ちかけの俺の上に、メメは尻を乗せてきた。


「こう?」

「すみませんでしたー!」


 俺の手はぷるぷると震える。指先にマナを込めてメメの重さに耐える。

 そんな俺達を見て、遊んでると思ったのか、シエラはぴょこりんこと跳ねてやってきて、俺の背中にしがみついた。


「しえらもー」

「ふぎぎぎぎ!」


 俺の指先は限界である。しかも淵は今にも崩れ落ちそうだ。


「助けてくれぇ!」


 もうだめだ。そう思った瞬間、ふわりと俺の身体が下から持ち上げられた。

 穴の下の黒いもやがうにょりと伸びて、黒リルゥと黒シエラの姿と成し、下から足を支えてくれたのだ。


『魔法はマナを使って望みを叶える』


 俺は死霊なのかなんなのかわからぬ、黒もやが模倣した幼女に助けられたのだった。

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