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俺の子守がさらに増えるのか

「ありえない!」


 といういつものアリエッタ。

 穴の街に到着し、仕事は役人に引き継ぎ退散す。そしてパフィのお店でお菓子を食べに行ったら、ちびっ子アリエッタがテーブルに貴重そうな書物を広げて、優雅にお茶をしていた。こぼしたら惨事だぞ。

 そんなわけで同席して、蜘蛛がいた穴での事を話したらいつもどおりの反応をした。


「あんたはマナ溜まりの事をどのくらい知ってる?」

「全く知らないが、話しが長くなりそうなら簡潔に言ってくれ」

「マナが溜まったところよ」

「まんまじゃねえか」

「一言って言ったのはあんたでしょ」


 メメとシエラはすでに口の中にクッキーを詰め込んで、パフィのいる厨房に突撃していった。


「ヨウコはいいのか?」

「尻尾が白くなるからのう」


 ヨウコはティーカップを包むように手にしてずずずと飲んだ。

 それはさておき。


「マナ溜まりからはモンスターが生まれて生窟せいくつができるんだろ?」

「そう。なんでできると思う?」

「え? オークはマナが濃い川を生活水に使っていたからと聞いたが」

「そっちじゃなくて」


 そっち?


「マナ溜まりができる理由よ。均一であるはずのマナの流れが偏っているのよ。おかしいと思わない?」

「人為的ってことじゃな」

「街の周りの六角形。そんな綺麗にできると思う? しかもそれを示した古代の地図? わけわからないじゃない」


 そうかな?


「つまり古代人が意図的に周辺にマナ溜まりを作っていたってことだろ? おかしいことはないと思うが」

「おかしいでしょ。何その意図って」

「マナ溜まりを作る理由?」

「そう! マナ溜まりを古代人が作為的に作っていたとして、それを行っていた理由よ」


 頭を突き出したアリエッタの額を、ヨウコはぺしっと叩いて座らせた。


「そんなの簡単じゃろう。エッタ殿も見たのじゃろ? 転移装置じゃ」

「本当にそれだけのために?」

「左様。わちがここまで旅してきた中で同じようなものをみたのじゃ」

「古代人は転移をぽんぽん行っていたというの……」


 アリエッタは天井を見つめ、椅子から崩れ落ちそうになった。


「そりゃ世界崩壊するわ……」

「しかり」


 え? なに世界崩壊って? こわい。


「でもこれで、ここが魔法国家エルシアだったことがはっきりしたわ。こんな一度滅んだ辺境の地で、これだけの街ができたのも納得よ。街に名前がなかったのも、都合よく広場に穴ができたのもね」

「どゆこと?」

「エルシアは聖地なのよ。黄金の天使教のね」

「ふぅん」


 アリエッタが盛り上がっているところすまんが、正直そんなに興味がない。

 それよりもガシャンガラガラと大きな音が厨房から聞こえてくるのが心配で仕方がない。


「ああでも、穴の町って呼ばれるようになってるぞここ」

「そうよ! あんたあの大穴の探索いくんでしょ!」

「いくけど」


 肩をがくがく揺らされた。

 そして袋から青い魔石のネックレスを取り出し「これ持っていきなさい」と渡された。


「なにこれ」

「通信の魔石よ。この前教えたでしょ」

「ああ。使い方は?」

「握ってマナ込めて話しかけるだけ」

「わかった」

「無くさないでよね」


 ホカホカのクッキーを手にして戻ってきたメメは俺の首のネックレスを見て、「ザコお兄さんに光り物にあわなーい!」と指差して笑った。このやろ。

 さて。

 アリエッタに言われて俺たちは薬師のババアの店へと向かった。ババアの店は地震でも奇跡的に残り、ババア自体も生き残っていた。しかも店内が全く綺麗な状態である。


「妖精がぁ、店を守ったのじゃあ」


 そういえば精霊花に付いてきた妖精は、ババアに指摘されて気づいたのだった。俺たちは見えないけど。

 妖精はババアの店で飼われて、ウィンウィンの関係になっていたらしい。メメが焼いた焦げクッキーに食らいついた。見えないけど。


「それで何のようだ?」

「この子を連れていきぃ」


 店の奥から黄緑髪のおかっぱロリっ子が現れた。ババアのように耳が長い。


「エルフか?」


 俺が尋ねると、ロリっ子エルフはもじもじしながら無言で頷いた。


「おいおまえぇ! 挨拶しぃ!」

「……リルゥ」


 リルゥと名乗ったロリエルフは涼しい顔をしている。シリスとはまた違った意味で表情が読めないエルフだ。


「連れて行けと言われても困るんだが」

「役に立つぁあ。なあ!」


 リルゥはこくりと頷いた。ババアに脅されてるようにしか見えないが。


「まいったな……」


 すでに俺たちはロリ過剰状態である。おっぱいエルフなら考えたが、これじゃあ子守が増える気がしてならない。


「くあっくぁくあ! そやつの力は特別じゃあ。役に立てろぉ人間」

「わかったよ。リルゥが自分の意思で付いてくるというなら連れて行くが」

「……(こく)」


 そうして俺たちは冒険者ギルドへ向かった。

 ロリエルフは木タグが与えられ、俺たちのパーティーへの加入となった。

 受付嬢に「また少女が増えてる……」という顔を露骨にされた。


 そして宿は。


「おうザーク。久しぶりだなぁ」

「おっちゃんまだ生きてたか」


 補修された冒険者酒場の二階で俺たちは泊まることとなった。しかも無料である。

 その代わり、うちの少女隊が借り出されるのであった。


「メメちゃぁーん! こっちにも酒をくれぇー!」

「シエラ運んで!」

「あい」


 シエラが木のジョッキを手にトコトコと歩き、椅子につまずいてこけた。それを、ロリエルフがさっと受け止め、木のジョッキのエールも救い出した。

 役に立つってこういうことじゃないと思うんだが。


「しえら、しっぱい」

「……(ぎゅ)」


 リルゥはシエラの手を握り、二人の瞳がキラキラと輝く。友情が芽生えたようだ。

 そうこうしているうちに、ヨウコが注文のエールを先に届けたのだが。


「ううむ。人気具合で言うとやはりメメちゃんが一番か。ヨウコちゃんも色気はあるのだが獣人の子なのが惜しい。尻尾のもふもふはたまらないがお触り厳禁だしな。やはりメメちゃんの小悪魔なかわいさには届いていないな。濃いファンがいるのはシエラちゃんだ。特に女性人気が一番高い。さもありなん。あの虹色の髪は誰でも目を引く。さらに優しくするとプリンなる甘いお菓子を貰えるという噂が流れ、シエラ囲いが始まっている。そして今一番の注目株と言えばリルゥちゃんだろう。この街ではエルフと言えば眉間に皺を寄せて睨みつけるイメージとなっている。そこへちょっと不思議で無口クールなエルフちゃんが現れ、エルサーと呼ばれるエルフマニアたちの間では色めき立っている。まずエルフの子供というのが各地を旅をしてきた冒険者でも目にするのは稀である。それもそのはず、エルフの子は人間の目に触れない所で育てられる。エルフ奴隷問題でいくつもの都市が滅ぼされたのは記憶に新しい。エルフの子を人間と触れさせるのはタブー中のタブーだ。こんな辺境の街だから見逃されているが、これが他の街だったらとんでもないことになるだろう。それゆえに彼女は非常に危険な立場とも言える。わかるか?」

「ああ」


 俺は酒を飲み、ミッシェルの長話を右から左へ聞き流しながら、四人娘がトラブルを起こさないかひやひや見つめた。

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