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地震

 村人総出でドレイクの解体が始まる。

 ドレイクは重機によってケツが持ち上げられ、俺が斬った首痕から青い血が地面に垂れ流れた。


「流石だなオークロードスレイヤー」

「その呼び方は止めてくれ」

「なんだよ。俺たちが出迎えてやったの忘れたのか? 俺らもあの作戦の一員だぜ」


 先の冒険者パーティーは、オークロード討伐後に森の出口にいた四人だったようだ。


「おれが盾のピゾット。大剣のはバスタだ。伝令で走らせたのは弓のカーキに、杖のドリオは寝込んでる」

「ドレイクはまだいるのか?」

「さあな。ただあの個体は俺たちが戦った奴だ。角に傷が付いていた。おそらくだが、他にはいないと思う」

「根拠は?」

「ドレイクは他の竜種と違って群れを成すんだ。あの一匹が逸れただけかもしれんが、だとしたら脅威はもうないし、群れが襲ってきたら俺らだけじゃ壊滅だ」


 ピゾットが肩をすくめた。いないと願っているのか、それとも……。


「後のことはおれたちに任せてくれ。ロリ連れのザコの仕事はワイバーンの調査だろ? 正しい情報を早く持ち帰って貰わないとな」

「ああわかった。……ロリ連れ?」

「合ってるだろ?」


 俺は後ろを振り向いた。

 解体作業を進める村人たちに混じって、わちゃわちゃしてる三人がいた。

 うむ。確かにロリ連れかもしれんが……。もうちょっとこうなんか。


「とにかく助かったぞ。あんがとな」


 ピゾットが俺の肩をバンバンと叩いた。痛い。

 そして「もう一日くらい居ても良いんだが」と言った所で、ピゾットはそれを遮り、親指で三人娘を指差した。


「宴が始まったら帰れなくなるぞ。少女らもノリノリだし」

「ああ、確かに」


 ドレイク肉を食い尽くしそうな気がする。

 メメを呼んで、早々に帰り支度をすることを伝えた。

 しかしメメは案の定渋って「ドレイク肉食べる!」と言ってはばからない。シエラも「おにきゅー」と両手を上げ、ヨウコは「わちも素材に少々興味があるのう……」と言い出した。


「素材はギルド行きだぞ?」

「そんなぁせっしょうじゃあ……」


 大剣のバスタが横から口を挟み、「討伐者が素材を優先して買い付けられるはずだ」と言い出し、ヨウコは「竜の目はわちが貰うのじゃあ!」とドレイクに向かって走り出した。

 もうこれダメだな。しばらく帰れそうにない。


「討伐を伝えればいいんだろ? カーキはまだ街にいるんだよな?」


 杖を突きながらふらふらと三人目の男が現れた。杖のドリオだろう。

 方法を聞くと、ドリオは伝令の魔法があると答えた。一方通行だが、カーキに持たせた魔道具へ連絡を飛ばせるようだ。

 ドリオは白い魔石を取り出してそれを握ると光り輝き、手の上でそれがうねり鳩の形に変化した。そして「ドレイクは退治した。素材回収の要請をギルドへ――」と鳩に向かって喋ると、言い終わる前に鳩はすぐに飛び立って行った。


「これでカーキが伝えてくれるだろう」

「ありがとう。助かった」

「こちらこそ。本当に強いんだなあんたら」

「なに。メメのおかげさ」


 メメはどでかい包丁を持って、ドレイク肉をずばずば解体していた。

 素材と違って、肉は現地で食っていいようだ。まあ腐るしな。解体された肉は焼かれ、燻され、塩漬けにされていく。

 お肉パーティー!

 凄まじい勢いで焼けた肉を食い尽くしていく少女三人にみんな呆気に取られながら、四日過ぎた。

 ちなみにだがドレイク肉は人間にはめちゃくちゃ硬かった。めちゃくちゃ叩いて柔らかくして食べてたらシエラがやってきて、「やあらかー」と半分取られた。そして肉叩きを強要された。もう金槌を振るう仕事は嫌だよ……。そして香辛料やハーブ類を森から採ってきたのがヨウコだった。根っこを砕いてスープに入れたり、葉っぱに包んだりして、臭みの強い肉を打ち消してくれた。メメは食って倒れてた。いつもどおりだ。凄まじい勢いで解体して、肉を腐らせる前に全てブロック化したので最初の時点で仕事したと言えるが。

 食う時間以外は踊っていた。ヨウコが扇を扇ぎながら華麗に踊ると、メメは野性的な武の踊りだ。シエラは……村の子供たちと跳ねながら回ってた。

 意外と暇を感じない日々だった。甘味もシエラが魔法で創ってくれたしな。


 街からの馬二頭立ての荷車が届いた。ドレイク素材を載せていく。その多くは龍鱗だ。皮は腐るので村で水に漬け鞣していく。

 御者は迎えに来た冒険者頼りで、俺たちは荷台に乗ってのんびり帰る……。途中で気持ち悪くなって俺は歩いたが。


「寝ぼけて龍鱗食うなよ」

「食べないよ!」


 メメは口に入れかけた龍鱗をぽいと捨てて、カラカラと音を立てた。

 食おうとしてたじゃねえか!

 そして龍鱗の山ががらがらと崩れ始める。


「おい何して……揺れてる?」

「むむ! 降りるのじゃ!」


 三人は荷台から飛び降りた。

 地面がぐわりぐわりとねじれ始め、馬がヒヒンと立ち上がった。


「なにこれぇ! 気持ち悪い!」

「ぐらぐらぁ」

「ヨウコ! どうしたらいい!?」

「知らぬ! こんな! 立っていられぬほど! でかい! 地震は! わちも! 経験などない!」


 みんなで荷台が倒れぬよう支え、馬は御者の手で素早く切り離されたため、暴走せずに助かった。

 地震の揺れはしばらく続き、馬が大人しくなるまでその場で留まった。


「やっと治まったか……?」

「ぷるぷる……」


 シエラは俺の腕の中で震えている。地震に慣れているというヨウコも耳をぺたんこにしてるほどだ。かく言う俺もまともに立ち上がれず、メメだけがぴょんぴょんと辺りの様子を見に行っていた。


「うん。今の影響でのモンスターの襲撃は無さそう」

「それは良かった。だがそれよりも……」

「そうじゃのう。この規模の大きさの地震じゃと、街は壊滅してるかもしれん」


 壊滅。ヨウコの言葉に否定したかった想像の光景が脳裏に浮かぶ。

 せいぜい三分の一くらい、と願っているが、ヨウコがそれを打ち壊していく。


「あの街は石造りの母屋が多いじゃろ? 木製の古い建築は残るかもしれん。それも火の手で燃えてるかもしらん」

「そんなに酷くなるかなー?」

「なる。わちの住んでた街も地震で燃え尽きおった」

「おかちぃ……」


 シエラはぷるぷるしながら掌にクッキーを創った。


「そうだな。パフィさんが無事だといいな。アリエッタがなんとかしてくれてるだろう」


 俺はシエラの頭をなでなでした。

 アリエッタは俺たちが出かけた後もまだ街にいるだろうか。シリスと共に南へ向かい、リチャルドと合流してるかもしれない。彼女らの仕事は大農園のはずだから。

 パフィの無事を祈って、俺たちは再び街へ向かって土の道を南進する。


 そして見えてきた街は、外壁が大きく崩れ、黒い煙で覆われていた。

 煤汚れた人たちが、壁の外に集まっており、その周りを少年冒険者が囲っている。

 街のシンボルとなっていた教会は、尖塔が崩れ落ち、煙突のように火を噴いていた。

 そして街の広場のあった真ん中には、大きな穴が、底の見えない深淵が口を開いていた。

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