俺はギンギンに漲っている
ずらりと現れたのは、二十人ほどのハゲと、長い黒髪の女だ。
長い黒髪の女は、癒やしの奇跡を扱う聖女様だ。
すぐさま協会関係者と気づいた俺は、メメを後ろに隠し、「隙を見て逃げろ」と伝えた。
「裁きとか、何のことですか?」
「白を切るのです? わたくしにはわかります。悪魔をこちらに渡しなさい」
「俺の相方が悪魔だと? 角も翼も尻尾もありませんが?」
「悪魔は姿を偽るのです。正体を暴いてみせましょう」
「へえ。どうやって?」
「悪魔を殺す光線!」
なに!?
聖女様の錫杖が光り、悪魔を殺す光線が真っ直ぐメメに伸びた。
メメは間一髪でその光線を躱し、光線は背後に抜けていく。
「悪魔を殺す光線を避けました! やはりあの女が悪魔です!」
「うおぉぉおおおッ!!」
ハゲの男たちが棒を手にして襲いかかってきた。
応戦しようと構えたが、俺の事は全スルーだ。向かってきた全員はメメの方へ向かい、メメは俺から距離を取り下がった。
「悪魔を殺す光線ッ!」
再び聖女様の錫杖が光る。そしてハゲの男に囲まれたメメに光線が放たれた。
「味方ごと!?」
ハゲの男の背中に光線が当たるも、その光は透過して、その先へ伸びていった。
メメは光線を回避して、体勢を崩したところをハゲの棒に叩かれた。
メメなら簡単にハゲ共をいなしそうだが、貫通光線が厄介のようだ。あれは本当に悪魔だけに効くのだろうか。
俺は聖女をなんとかするべきだと考えた。聖女の脇には二人のハゲが守護している。あの二人を出し抜いて聖女の動きを封じる。
しかしこの聖女、胸が大きい。露出が少なくだぼっとした衣装なのに、胸がはっきりとわかるほどにたっぷにと盛り上がっている。しかも距離があるのに良い香りが漂ってくる。男を誘惑するメスの匂いだ。くそ、あれじゃあ聖女じゃなくて性女じゃねえか。俺の理性が危うくなる。
やはりあの女。危険だ。
俺は腰の剣を抜こうとした。だが抜く前にハゲ二人が俺に襲いかかってきた。未熟な俺の抜刀よりも、ハゲ二人の攻撃の方が早い!
しかしこれはフェイントだ。
俺は攻撃が下手だ。とてつもなく下手だ。いつもメメに伸されているからわかっている。俺は攻撃する意思と行動が、とてつもなく拙く、マナを体内で振り絞ってやっと人並みだと思っている。
二人のハゲを釣ったところで、俺は攻撃する意思を捨てた。ダガーから手を離し、手を鷲のように構える。
おっぱい!
瞬間。俺の身体を、脳を、心臓を、マナが駆け巡る。感覚が研ぎ澄まされて、時間が圧縮された。
俺はハゲ二人の間を駆け抜けた。その速度は音を追い抜いた。衝撃波がハゲ二人を襲い、吹き飛ばした。そして聖女の背後に周り、後ろから胸を鷲掴んだ。手に吸い付くようなおっぱいは、指の間から肉が溢れそうだ。
そして、時の感覚が戻る。
ハゲ二人は目の前から俺の姿が消えたことに驚き戸惑い、聖女はまだ自分の状況に気づいていない。
「大人しくしろ。お前の命は俺の手の中にある」
「ひっ!?」
「聖女様!?」
ハゲ二人が悲鳴に振り返る。俺はそいつらに胸をぐいと持ち上げて見せた。
「黙れ。動くな。こいつがどうなってもいいのか」
「くっ……! 悪魔の手下め! 卑怯な!」
「やめっ! 離せこの!」
聖女が暴れだすが、俺はぴったりと張り付き離れない。聖女のうなじをくんかくんかと匂いを嗅いだ。
「感情が昂り興奮している匂いだ。状況を考え、落ち着いた方がいい」
「二人とも! こいつをやっちゃって!」
「だ、だけど、しかし……」
「いいから!」
ハゲ二人が襲いかかってくる。
やれやれ。脅しに屈せず攻勢に出られると弱い。
俺は担ぎ上げ、それを盾とした。
「ぐぅ……!」
ハゲの手は振り上げたままで止まる。
「おろせこのぉ! 変態!」
「まだ自分の立場がわかってないようだなぁ。聖女様よぉ」
俺がぐいと力を入れると、聖女は「ひぃん」と鳴いた。
「聖女様への狼藉は止せ! 離せば許してやろう!」
「そんな事言って油断させて打ち据えようとしている事なんてバレバレだ。ジス教の修道士が嘘を付いていいのか?」
「悪魔が何を言う!」
「引き換えだ。メメへの攻撃を止めろ。そしたら離してやる」
聖女は顎をくいと持ち上げて、ハゲは頷いた。
「お前らぁ! 攻撃を止めろぉ!」
メメに襲いかかったハゲ共は大半がすでに地面に倒れていた。
残ったハゲは拳を下ろし、倒れたハゲを担ぎ上げた。
メメは「ふぅー」と右拳に息を吹きかけ、手首をぶらぶらを振った。
「さあ! 離せ!」
「嫌だね」
「!?」
ハゲの青筋がビキビキとはち切れんほど盛り上がる。
「こいつぁ安全保障のために持ち帰らせて貰う。悪く思うなよ」
聖女から奪ったマナが滾り、俺はギンギンに漲っている。
「じゃあな」
「この――ッ!」
パイとパイが弾けてぶつかるかのように、俺はその場から逃走した。
追ってはメメが潰しているのか、背後から悲鳴が聞こえるのみ。
聖女がわーわー喚いているが、無視しよう。
だが、行く手は一人の男で阻まれた。
「ミッシェル」
「ザーク、聖女を離すんだ」
ミッシェルは剣先を俺に突きつける。
だが俺は手を離すつもりはない。
「このおっぱいは俺のものだ」
「おっ……え?」
「どうしてもというなら力づくでやっt」
瞬間。ミッシェルの姿が消えた。いや、消えたとしか思えない速度で動いたのだ。彼の居た場所には砂煙だけが立っていた。
そして俺は背筋が凍るほどの悪寒が走る。
「いいか。面倒が大きくなる前に返すんだ」
俺は手を離した。
いつの間にか背後に回った俺の喉に刃を当てられていたからではない。
奴は俺の尻を揉んでいた。
こいつは化けホモだ。
「じゃあな」
俺の腕からミッシェルはおっぱいを奪っていった。
俺は愕然として、膝を付く。どうしようもないほど震えが止まらない。あんなに昂ぶっていたマナが、しおしおに皮を被っている。
「何してるのザコお兄さん♥」
「メメか……。すまんが肩を貸してくれ」
「なぁに? 毒でも受けたの?」
メメはそう言うと、俺を肩に担ぎ上げた。
思ってたのと違う。肩を貸せとは言ったけど。
「ハゲたちは?」
「みんな伸してきたよ。ザコお兄さんこそ、聖女様はどうしたの?」
「……逃した」
「ふぅん? 何かあったみたいね」
俺はメメに担がれながら、もう集会所となりつつあるパフィの店に運ばれて、ぽいと床に投げ捨てられた。俺はゴロゴロゴロと転がって、パフィさんの真下まで止まらなかったのだが不可抗力である。薄紫色だった。
転がった俺はスルーされたので、そのまま仰向け待機した。
「何かあったの?」
「教会に追われたわ」
「あらー。最近流行ってるみたいだよー☆」
流行ってるんじゃしょうがないな。
「まぁいい運動にはなったけど♥」
「なあ、あの光線は本当に悪魔を殺す魔法なのか?」
「うーん。偽物じゃない?」
「なんだはったりかよ」
「そうじゃなくて、聖女様自体が。だって、籠で運ばれるような方が、自分の足であんなとこうろつく?」
「なん……だと……」
あれは聖女っぱいではなかっただと……?
「もしかしたら女装かもねー。ほら、胸にスライムか何か詰めたりしてー」
俺はこの世に絶望した。




