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お菓子の悪魔

 翌朝、精霊花の群生地へ向かった。

 そしたらなぜかシリスも付いてきた。


「このような場所があったのか」


 人嫌いエルフでも精霊花は知らなかったらしい。いや人嫌いだからこそか。

 泉に咲き誇る一面の青い花に感嘆していた。

 俺は六つの瓶に水を入れ精霊花を挿していく。メメはじろじろとそれを覗いてくる。


「材料になるといいね」

「不安になること言うなよ」

「これなら。なるだろう」


 シリスは一輪の花に手を添えた。触れた先がぽっと光り輝く。幻想的で美しい。

 俺が見惚れていると、メメも真似し始めた。あちこちの精霊花を輝かせ始める。


「見てー!」

「おいおいやりすぎだ」


 一面を青白く輝かせると、泉の中心がちゃぽんと跳ねた。


「なに? 魚?」

「精霊を怒らせたんだろ。しばかれる前に帰るぞ」


 シリスはもう少し調べると言うので置いていき、俺たちは精霊花を持ち帰り、それを薬師ババアに持ち込んだ。


「このような花がぁ、近くの森にあるとはのぉ」

「婆さんも知らなかったのか」

「精霊が付いてきてしまっとるのぉ。ほれ! お行き! さあ!」


 ババアは何もない空間に向けて手を払い始めた。


「頭おかしくなったのか婆さん」

「わしにゃあ見えるんだ。おまいさんの頭に乗っ取るぞ」

「ええ!? メメにも見えるのか!?」

「見えなーい」


 俺は頭の上を払おうとしたが、その前にメメにしゃがめとジェスチャーされた。

 そしてメメは頭の上を、ぱふっと閉じ込めるように手を叩いた。


「捕まえた?」

「逃げて嬢ちゃんの肩に乗っておるぞ」

「いやん」


 メメは見えない精霊と戦い始めた。


「それより、これでエルフの秘薬はできるのか?」

「明日まで待っておれぇ」


 ババアは「どっこいしょぉ」と腰の曲がったババアとは思えない力で籠を持ち上げて、奥の部屋に去っていった。

 手をばたばたと振っているメメを連れて店の外へ出て、シエラの様子を見に行く。


「あー。げんきよー。なんとかなるわー。時間かかるけどー」

「悪いなアリエッタ。明日エルフの秘薬ができるまで頼む」

「ねえ。エッタをこき使ったんだから報酬ちょうだいよね」

「ほれ。クッキー」

「そうじゃなくて」


 と、いいつつアリエッタはパフィさん製クッキーの包みを受け取った。


「一本頂戴よ。エルフの秘薬」

「ええ、どうかな。そんな何本もできるかわからんが」

「よろしくね」


 と言い、アリエッタはクッキーの包みを開けて、がぶりと齧りついた。

 すると、シエラがもぞりと動いた。


「おかちぃ……」

「起きたのか!?」


 シエラは薄めを開いて、指先をぷるぷる震わせている。


「まだだめよ。起きたならマナポ飲みなさい」

「おくすりやぁ……」


 アリエッタがスプーンを口に近づけると、シエラはこの世に絶望した顔で涙を流した。


「ひどい」

「いじめね」

「はいはい。治療の邪魔するなら出ていってね!」


 シエラの瞳が「行かないで」と懇願する。


「シエラ。明日までの辛抱だ。この地獄から必ず救い出してやるからな」


 シエラは小さくうなずくと、口の中にマナポを注ぎ込まれ、顔をぷるるるると震わせた。

 部屋から出て、階下に降りると、パフィさんが心配そうに見つめてきた。


「パフィさん、部屋使わせて頂きありがとうございます。ぜひともお礼を」


 俺が銀貨を取り出そうとすると、パフィさんは褐色の胸を揺らしてそれを止めた。


「人助けに対価は求めないし」

「でも」

「良い案があるよ。私が店を手伝ってあげる♥」


 メメが目を輝かせながら手を差し出した。

 あ! こいつ菓子狙いだ!


「良いの? 助かるー☆」


 絶対助からないぞ! 間違いなく迷惑かけるぞ! 菓子食い尽くしかねんぞ!?

 とは思っても口にしない。パフィさんが良いならそれで良いし、メメの邪魔をすると菓子をこねる麺棒で叩かれかねん。

 かくしてメメのお菓子修行が始まった。そして俺も巻き込まれた。

 こねこね焼き焼きしてできたものは、指示を受けて作られたはずなのに、どう見ても客には出せない出来だ。

 メメは「うん良い出来ー」とか言って、焦げた部分を取り除いてぱくっと食べた。俺の口にも押し付けてきて、うん、分量も材料もいいから食べられるけど。やっぱこれが目的だろ。


「あの子が元気になったらお菓子食べされて上げたいねー」


 俺の心が汚れてしまったのか……。メメの笑顔が眩しい。でも口の周りが粉まみれだ。


「そうだな。でもこれじゃ食わせられないぞ」


 間違いなく焦げ付いた部分まで口に入れて泣き出す。


「まあまあ。これはこれで成功だし♥」


 メメがおかしな事を言いだした。パフィさんに「私が作ったクッキーを売った分なら受け取ってくれる?」とパフィさんもそれならと了承し、メメは焦げクッキーを籠に入れて外に出た。

 メメはまず広場の露店に行き「手作りクッキーだよ。いつものお礼♥」と配って回った。そして露店飯が籠にどんどん増えていく。リンゴの大将も混じってて、にやけ顔でリンゴの砂糖漬けを渡してきた。

 次にメメは酒場へ行き、手作りクッキーを売って回った。


「ザコの手作りクッキーはねえのかよぉ」


 と、なぜか俺の手作りを求める客もいた。気色悪い!

 帰り際に酒場のおっちゃんはミード瓶一本を押し付けてきた。

 そしてパステルカラーのパフィのお店に帰り、戦利品を広げた。


「え、なにこの銀貨の山……」


 そして大量の食事にお酒である。


「売上!」


 メメは無い胸を張ってドヤ顔した。

 クッキーの材料は安くはないが、それでも十分な儲けとなったようだ。


「ご飯一緒に食べよー」


 アリエッタも下りてきて宴会となった。


 次の日、俺たちはエルフの秘薬を受け取りに行った。

 エルフの秘薬を三本受け取った。

 ババアは「三本はわしが貰う」と言っていたので、精霊花一本で薬一本できたようだ。

 メメが手作りクッキーを渡したら、四本になった。

 さっそくパフィの店に向かい、エルフの秘薬をアリエッタとパフィに渡した。


「あんがと!」

「え? あたしにも?」


 クッキーで手に入れたからな。

 エルフの秘薬は小瓶に入れられ、エメラルドグリーンの液体の中に青白い粒がキラキラと輝いていた。


「シエラ。お薬だ」

「やーっ」


 俺は一滴、手に垂らして味見してみた。あ、美味しいかも。


「大丈夫だ。甘いお薬だぞ」

「え? 私にも味見!」


 メメが口を開けて舌を出した。ぺぺっと垂らしてやる。

 舐めたメメの髪と身体がキラキラと輝きだした。


「うん! もっと!」

「もっとじゃねえ」


 パフィとアリエッタも味見を始めて、二人もキラキラと輝き出した。


「すごいわこれ☆」

「ふおお!? これがエルフの秘薬ぅ!」


 なんでみんなキラキラになってるの。俺だけ変わってないんだけど。


「あまいおくすりー?」

「甘いよ甘い」

「のむぅ」


 シエラが口を開いたので、俺はぺぺっと秘薬を垂らした。

 シエラの身体がじんわりと光り出す。


「これならすぐ良くなるよ! よかったね♥」

「なんでみんな光ってるんだ?」

「マナが活性化してるのよ。マナ器官が清浄されてんの」

「俺だけ光らない……」

「光ってるよ♥」


 メメが俺の首を触った。

 ああ、メメに付けられた火傷痕が光ってるのか。見えないわけだ。


「それどうなってんの? 面白すぎるんだけど☆」

「ザコお兄さんは魔法の才能ないから、私がマナ撃ち込んだの」

「それすぐ死ぬやつじゃんうけるー」


 面白くないよ! みんな笑ってるけど面白くないよ!

 結果生きてるからいいけどさ!

 シエラは再びすやすやと寝てしまったので、またみんなでお菓子作りをした。調合で慣れてるアリエッタが一番上手だった。焦がしたり変な形になってるメメと俺を見て、アリエッタはぷんすこしながら仕切りだした。こいつ良い菓子職人になるで。


 さてはて。太陽が西に向かい始めた頃、昨日のようにクッキーを売りさばく。今日はまとめてリンゴのおっちゃんに卸した。

 そして酒場へ行くと、いつもの男がやってきた。名前なんだっけ。


「ミッシェルだ。なあ、悪魔は見つかったか?」

「いいや。一連の魔物はマナを含んだ水が原因のようだ。悪魔は関係なかった」

「そうかい。それは良かった。まあでも、俺は潜んでると思ってる。気をつけな、ザーク」


 ミッシェルに肩をポンと叩かれて、メメに投げキッスを送った。そいつが探してる悪魔だぞ。

 酒場から出ると、何か気配を感じた。


「(付けられてる?)」

「(うん)」


 撒こうとして走り出すと、正面の道を塞がれ囲まれてしまった。


「神の名に於いて、あなた方を裁きます」


 薄暗い路地裏にいる俺たちに向けて、静かに告げられた。

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