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ゴブリンからメスガキを守る

「お兄さん、ほんとざーこねぇ♥ こんなトラップに引っかかるだなんて♥」

「うるせえ!」


 俺は汚れた服の土を払った。俺がかかった罠はなんとでもない。草を縛って脚を引っ掛ける簡単な罠だ。

 足はなんともなかったが、地面に打った膝の古傷が痛む。


「くそ、誰がこんなイタズラを……」

「誰がってそりゃあゴブリンでしょ?」


 ゴブリン……。人間の子供くらいで緑の肌の人型のモンスターだ。力は弱いが武器を扱うので厄介なことがある。さらにその見た目通り、人の子供くらいの知能はある。

 昔、俺の膝に矢を撃ったのもゴブリンだ。


「許さねえぞ……」

「えー? クソザコお兄さんが勝てるのぉ? Fランでしょお?」

「俺をガキ共と一緒にするな」

 

 新人冒険者はまだ年端も行かない子供がなるものだ。俺みたいな15歳の成人から登録するものもいるが、多くはそうだ。下積みをして自分の活動に繋げる。

 それに俺は装備だっていい。みすぼらしい古着とナイフで出かける夢見がちな少年ではない。幾重も布を重ねたキルトアーマーにハードレザーの胸当て。得物もきちんと研がれたロングソードだ。

 俺はぴかぴかの剣を抜いてみせた。


「ふぅん? 未使用って事はやっぱお兄さん童貞なんだぁ♥」

「戦闘経験は……ある」


 その一回は、俺は弓を撃たれてゴブリンは仲間が倒したのだが、それでも経験は経験だ。


「まあいっか。ところでぇ。もう囲まれてるみたいだけどぉ?」

「な!?」


 俺は背後を振り返った。

 ガサガサと茂みが揺れる。本当に、いる!


「おい! メメはその辺に隠れてろ!」

「えー? いいのー? お兄さんやられちゃいそうだけどぉ?」

「早くしろ!」


 半裸の少女なんて連れてくるんじゃなかった。せめて何か武器を持たせれば……、いや盾で背後の時間稼ぎでもしてくれれば役に立ったのに……!

 この少女は武器らしい武器なんて持っていない。その服と言えない布では仕込み武器のようなものをしまう場所もない。ようするに、戦えないただの邪魔な痴女だ。


「ふぅん。まあいいや。それじゃあお兄さん、死なないように頑張ってね♪」


 その余裕の態度は何なのか。恐らく頭がイかれているのだと思う。

 メメは俺の剣を持つ手を一撫でして、近くの木へ向かった。ぴょんと木に向かって跳ね、2メートルほどの高さの枝に掴まり、足を掛け、くるりと半回転して枝の上に座った。そしてにこりと笑いひらひらと手を振って見せた。


「さ、猿か……?」

「聞こえてるよお兄さん」


 メメはぽいと小さい木の実を投げつけてきた。やっぱり猿かもしれん。

 そんな芸当できるなら、袋に石を入れて持たせれば良かった。木の上から石を投げれば、十分な戦力となっただろう。


『ギヒヒヒッ』


 しかしそんな暇はなく、ゴブリン達が姿を見せた。

 前と後ろに一匹ずつ。片方はボロボロのナイフを、片方は木の棒を手にしている。

 俺は木の棒を持つゴブリンの方を向いた。ナイフならば懐に入られなければ怖くない。それにあのナイフは林檎すら切れなそうだ。木の棒で打たれる方が危険と判断した。

 罠も危険だ。足を取られただけでも致命的となる。足元を見ながら駆ける!


「やあッ!」


 俺の剣をゴブリンはすっと身を引いて回避した。

 いや、届かなかったと言うべきか。自分が思っていたより剣が短い!


「でぇい!」


 もう一歩踏み込み、剣を返し、横薙ぎで二撃目を放つ。

 だがそれも背の小さいゴブリンに、屈んで回避された。

 そして脛に木の棒を打ち込まれた!


「痛ッ!」


 大したことはない。致命傷ではない。骨にヒビも入っていないだろう。だが痛いものは痛い。

 そして、今度は背後から尻にナイフを刺された!


「ひぎっ!」


 ボロボロのナイフのため、ケツに二つ目の穴が空いたわけではない。

 だが欠けた切っ先で、ズボンの布を貫通すらしていないとはいえ、痛いものは痛い。


「こんのぉ! このぉ!」


 俺は怒りに任せて剣を振る。だがその攻撃はどちらのゴブリンにも当たらず、『ギヒヒ』とバカにしたように笑われた。


「ハァ……ハァ……」


 そして俺は息が上がっている。こんなにも俺は体力がなかったか?

 いやそんなことはない。戦闘という興奮状態により、俺は冷静さを失っていた。


「どしたぁ! かかってこい!」


 二匹のゴブリンは、俺の振る剣の範囲外をぴょんぴょんと跳ねているだけで近づいてこない。

 奴らは怯えている。俺の剣に恐れをなしている。

 それも当然だ。ゴブリンの一撃は致命傷にならず、俺の剣は当たれば命を奪える。有利なのはこちらだ。一対二でも勝てる!


「あぐぅ!」


 突然のことだった。

 横からヒュッと音が聞こえたと思ったら、俺の左腕に激痛が走った。そこには矢が生えていた。

 撃たれた。三匹目が居たのだ。

 そして二匹のゴブリンはチャンスとばかりに迫ってきた。

 ナイフが後ろ腿を斬り、木の棒が俺の腹を突いた。


「ぐふぁッ!」


 俺は右手で剣を振り回し、ゴブリン共を遠ざける。

 マズイマズイマズイマズイマズイ!

 受けたダメージはまだ大したことはないが、ここに来て膝が痛む。

 弓のゴブリンをなんとかしたいが、足が動かない。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!

 ドクン、と俺の心臓が大きく一拍した。

 視界が歪む。恐怖。死への恐れ。

 逃げろ!

 逃げろ!

 逃げろ!

 どこへ? 足がまともに動かない。


(死なないように頑張ってね♪)


 メメは何をしてる!?

 隠れていないで早く俺を助けろ!

 怒りが俺の身体に血を巡らせる。


「ウォォォオオ!」


 剣を振る。

 死にたくない。死にたくない。死にたくない。

 矢が俺の首筋を掠る。


「ひいっ!」


 俺は驚き尻もちをついた。ああ、もうダメだ。終わった。

 なんで俺はこんな目に?

 街で悠々と暮らしていたのに、なぜ?

 俺だってできると思っていた。戦えると思っていた。初めての戦いで膝に矢を受けたのは運が悪かっただけ。俺だってやればできる。英雄になれる。物語の主人公になれる。

 今の今まで、そう思っていた。

 今思えば、あの矢は神の導きだったのだ。お前は戦えない。街でのんびり暮らせと。買い物して、料理して、みんなに愛想笑いを振りまいていろ、と。


「たっ助けて!」


 俺は栗毛色の少年に向かって叫んだ。だがあの時のようにリーダーはここにはいない。俺はここで死ぬ。ズボンが小便で濡れた。


「ザーコ♥」


 隣で誰かが俺の名を呼んだ。いや、俺の名はザークだ。

 半裸の少女が木の枝を手にし、長い銀髪をなびかせ隣に立っていた。


「な……なにしてる……」


 俺が口にできたのはそれだけだった。

 早く逃げろよ。


「はぁ。だから言ったのに。死ぬって。お兄さん本当にザコザコのザコだったねぇ。ダッサ♥」

「なっ」


 メメはゴブリンに一瞬で近づき、手にしていた木の枝で頭を横から叩いた。その速度と威力は凄まじく、木の枝はバキッと折れて彼方へ飛んでいった。


『ギヒッ!?』


 ゴブリンが崩れ落ちる。

 落としたゴブリンの木の棒を拾って、さらにゴブリンの首を殴りつけた。ゴキッと鈍い音を立て、ゴブリンは白目を剥き、口から泡を噴いた。

 さらにメメは木の棒をナイフのゴブリンに投げつけた。

 俺の頭の上を掠めて飛んでいった木の棒は、振りかぶったナイフを持つ手にぶつかった。

 メメは、とんっ、と舞うように跳躍。そのナイフを奪い、ゴブリンの首に突き立てた。


『――!?』


 左の茂みからガサガサと音が遠ざかる。弓ゴブリンが逃げ出したようだ。

 メメはその方向へ右手を向けた。

 指先が光り輝き、手の前に光が集まる。そして光は炎と成し、弩のボルトの姿を描く。


「魔法ッ!?」


 魔法の炎の矢が燈の軌跡を残し、射出された。一瞬後、ゴブリンの断末魔が茂みの奥から響いてきた。


「はいおしまいだよ。お漏らしお兄さん♥」


 メメは俺を見下ろし、きゃははと笑った。


「君は一体……」

「あーあひっど。くっさっ。近寄らないでよ。近くに沢があるから洗ってきなよ♥」

「あ、ああ……」


 俺は剣を杖にして立ち上がろうとした。あちこち痛いが立てないことはない。だが腰が抜けた感じで立っているのがやっとだ。


「目の前がくらくらする」

「毒矢かなぁ?」

「いだぁ!」


 腰に刺さった弓をズボっと抜かれて痛みが走る。


「ザーコお兄さんは大げさねぇ♥ 先っぽしか刺さってないでしょお」


 メメは矢じりをじっと見つめ、ぽいと捨てた。


「大したことないからぁ、洗い流せばいいよ。ほら歩いてっ♥」


 俺はビリビリと痺れるような感じのする足を引きずるように動かし、先を行くメメを追う。

 毒は本当に大したことなかったらしく、しだいに意識がはっきりしてきた。

 情けなさが身を締め付けた。

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