俺はメスガキを抱きしめる
やはり悪魔との共存なんて無理なのだ。
俺はお菓子の恨みを晴らすために、ファンシーでパステルカラーな店の前で、口の周りに白いクリームの髭をはやしたメスガキに決闘を挑んだ。
「ザコお兄さんのお菓子は私のモノ……」
「絶対に許さないよ」
得物はなしだ。ステゴロである。立会人はちびっ子アリエッタと褐色おっぱいパフィさんだ。
アリエッタは、丸い生地のパフのお菓子に小さい口を当て、中のクリームをちゅーと吸っていた。チュークリームと名付けよう。
メメがチュークリームを指差した。
「勝った方がアレを一個多く食べられる」
「せめて半分にしろ」
「わー弱気ねー☆」
「ちゅぅぅ」
勝負を挑んだものの、メメに勝てる気はしない。
だが一つ。俺はメメの弱点に気づいたのだ。
それは、メメは攻めは強いが受けに弱いということ。無意識であったが、俺はメメの身体に数回触れることができている。それは紛れもなくセクハラであった。
「俺はメメの弱点を知っている。それを今からお見せしよう」
「えー。ザコお兄さんが私に指一本触れることなんて無理よ♥」
その言葉、後悔させてやる。
俺はふっと力を抜く。戦闘モードを解除した。
「!?」
急にやる気をなくしてだらんとした俺に、メメは一瞬驚く。だがそれを隙と見て、いきなり俺の肝臓にパンチしてきた。
だがその動きを俺は見切った。
俺はメメの背後に回り込み、左手の中指でメメの小ぶりなお尻をするりと撫でた。
「ひゃ!? 気持ち悪!」
「ふっ。指一本触れたぜ?」
メメが後ろ回し蹴りで俺の顎を狙ってきた。お見通しだ。
俺はしゃがんで躱し、メメの内太ももをさわさわする。
「ッこんの!」
今度は頭を掴んで膝蹴りだ。
メメの膝は俺の耳を掠る。そして俺の顔はぽんぽこ下腹部に接近。
メメは俺の頭を下へ押さえつけ、俺の身体をぴょいんと乗り越え着地した。
そして振り向きざまに右ストレートを放ってきた。
「甘い」
俺は再びメメに超接近し、左脇腹を摘まむ。ぷにゅん。
頭上に迫る左肘をメメの背後に回って回避。後ろから脇に手を入れた。
「ひゃうん!?」
背を反らして飛び跳ねたメメは、顔を赤くし苛つくように連打を放つ。
それを俺は正面から、メメの胸を両手で触りながら受け止めた。
「すごいわ! 的確なセクハラよ☆」
「やっぱ頭おかしいんじゃないのあいつ」
外野からお褒めの言葉を頂いたところで、俺の顎を砕くためのアッパーカットが迫ってきた。
さすがにこれを直撃したら俺は死ぬ。
俺はそれを上体を反らし、スウェーで回避。
両手はぺたんこの胸に触れたまま。
「はなせーっ!」
やはり……。メメはセクハラに弱い……!
メメは自分から身体を寄せてきたり撫でてきたりするが、触れられることには慣れていなかったようだ。さらにそれに対し反応ができていない。
身体に触り放題である!
だが悲しいかな。その身体は幼い少女の肉体であり、俺の心は休まらない。メメに対する嫌がらせにしかならないのだ。
「しね!」
上体を反らした俺の顔面への打ち下ろしのパンチ。回避不能の一撃。普通なら。
俺は身体に巡るセクハラ力を腰に入れ、ぎゅるりと上半身を右回し。メメの必殺の打ち下ろしの拳をすれすれで回避した。
そして俺はメメに飛びつき、その細い体を抱きしめた。
「メメ。受け止めてほしい。俺の気持ちを……」
「ひゃっ!? にゃにっ!?」
抱きしめた身体を離し、目と目が合う。
蒸気した顔に、潤んだ瞳。
メメの身体に流れているのは黒い血だとリチャルドは言って見せたが、本当だろうか。だってほら。彼女の頬は赤く、人間の赤い血が流れているだろう。
俺は覚悟を決めて、ぎゅっと拳を固めた。
「くらえメスガキぃ!」
俺はメメの赤い頬に向かって右フックを放つ。
「――ッ!」
だがその拳は遅かった。
ふっ。やはりセクハラじゃないとダメか……。攻勢に出た瞬間その動きは見破られた。俺の攻撃はメメの動きを真似したものだからだ。
俺はメメのカウンターの一撃を受け、頬骨が砕けた。
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「で。何がしたかったのあんた……」
俺はパステルカラーの店内で、メメに膝枕をされながら、腫れた左頬に氷嚢が載せられている。
アリエッタは道端の糞を見るような目を向けながら、俺の頬をつんつんしてきた。いたい!
「俺の力を試したかった」
「はぁ。男ってそういうの好きね」
ちなみに砕けた頬は、メメの血を舐めたら治った。
メメはいきなり指を切って、俺の口の中に突っ込んできたのだ。そしてぐりぐりされたら砕けた頬骨治ってしまった。悪魔の血すごくね?
ちなみに今腫れているのは、その後にぐにぃ~と引っ張られて抓られたからだ。
「はい。あ~ん♥」
メメは口にチュークリームを咥えて俺の口に近づけた。
それ俺のなんだが。約束通り、半分は食わせて頂く!
しかし俺は膝枕で腕で締められ固定されている身。一口だけ食べて残りはメメに吸い込まれるように食われた。
そしてメメは俺の唇に付いたクリームを指ですくい、それもぺろりと舐めた。いやしいやつめ。おっぱい揉ませろ。
「こんにちは。パフィさん」
チリリリンと鈴を鳴った。扉を開けて入ってきたのはリチャルドとシリスだ。
「あれ。ザークさん、奇遇ですね。」
「絶対知ってて来ただろう」
いま俺は幼女膝枕という凄く恥ずかしい状態だが、俺はこれが自然な状態だと言わんばかりに堂々としていた。そうすることで見る方が恥ずかしい気分にさせられるのだ。
「あはは。仲がよろしいようで」
「うむ。リチャルドもどうだ?」
俺は寝転がったままリチャルドに手を伸ばした。
リチャルドはその手をじっと見て、ゆっくりと首を振った。
「残念ながら。僕はザークさんに憧れられる存在じゃないといけないようですから」
そう言って笑うリチャルドの顔は美しく、外から聞こえてくるディエナの姉御の叫び声は汚かった。
「おう! アシとも遊ぼうやぁ! ザークよぉ!」
俺は目を閉じて、寝た振りをした。
そんな俺の胸ぐらを掴んで引き起こしたのは、シリスだった。
「行かないとここが壊れる。行って」
やれやれ。俺は生贄にされるらしい。
だが立ち上がったのは俺だけじゃない。
「この店を潰されるわけにはいかない……あの化け物を倒す」
メメが本気だ……。大人モードになってる……。
俺はメメっぱいを上から眺めて、ごくりと生唾を飲んだ。
――吟遊詩人は広場で「オークロードスレイヤー」の歌を歌う。
それが「悪魔付きのザーク」の歌となるのは、まだ先の話。