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俺とリチャルドは結婚した

 メメが一人で先を歩くのを見て、俺はチャンスだと思った。

 今なら娼館に行けるぞ! と。

 いつもメメに引っ付かれていたら遊びに行くこともできやしない。

 そもそも俺は「女の子にエロい格好させて連れ歩いている変態ロリコン」という評判が立っている。冒険者の中では、いつも俺がメメに暴行を受けているのを見ているので、メメが「パトロンからお金を貰うためにエロい格好をして貢がせてる女の子」と思われてるが……いやほとんど同じだな。

 とにかく、メメがいたら遊びに行くことはできない。そしていなくても相手にされない可能性が高い。

 ちなみに今まで耐えられていたのは、メメのしごきでそれどころじゃなかったためで、人肌のぬくもりという点だけなら露出狂メスガキで足りていたとも言える。ぺたんこだけど。


 そんなこんなで、俺は客引きお姉さんたちをチラ見して後ろ髪に引かれつつ、メメの後を付いていった。門を出てしばらく先に進むと、草原の中にリチャルドが立っていたのだ。


「ザークさんも、来たのですね」

「ああ。どうしたんだ? こんなところで」

「今日はありがとうございました」


 リチャルドが深々と頭を下げた。律儀な奴だ。

 こんな奴だからいつも人に騙されていた。今はディエナの姉御の名前を出せば相手がちびるので、小悪商人との取引も楽だ。


「そんでまた、勧誘の話か?」

「そうです」


 ううん。困った奴だなと俺は頭をぽりぽり掻く。

 その様子を見たリチャルドは、俺の手を引き、抱き寄せた。

 どきっ。


「こうなったら、実力行使です!」

「どゆこと」


 リチャルドが細剣を抜き、剣先をメメに向けた。

 いやいやそういう話しじゃないでしょ。


「なあリチャルド。それはちが――」

「!?」


 リチャルドの突きは、恐ろしく素早かった。

 メメが反応できず、避けきれず、メメの細い左肩にずぶりと突き刺さった。


「ッ!」

「おい! 何を――」

「見てください。彼女の血を」


 血?

 リチャルドが細剣を引き抜くと、メメの肩から黒い血が流れる。

 静脈か? と思ったが、それにしては黒い。色を失ったかのように黒い。

 メメは肩を右手で抑え、不敵ににやりと笑った。


「やるね」

「これでもザークさんは、アレの隣にいることを選ぶのですか?」


 これでもって言われても。リチャルドが暴走してるようにしか見えないが……。お前に引くわ。


「生き物はマナに強く侵されると青い血になります。それが魔物化。さらにその先に行くとこのように」


 リチャルドは細剣を振り、黒い血を払った。


「黒い血となる。悪魔化です」

「あくま……?」

「さあ! 悪魔メルメリア! 正体を見せるんだ!」

「正体と言われても……いつわってなんかいないけどね♥」


 メメが肩に触れて指に付いた血をぺろりと舐めると、美しい鏡のような銀髪が舞い上がった。

 そしてメメの姿が膨らみ、大きく変化していく。


「やはり、オーク村での姿は見間違いではなかったようですね」


 そしてメメは、グラマラスなお姉さんの姿となった。悪魔と言ったが角や尻尾は生えてない。

 なるほど。俺は眺めた。はちきれん胸に食い込む布。そこからS字ラインの腰つきに、かろうじで布まとわり隠すVの字と鼠径部。そしてガゼルのような脚――といってもやせ細っているわけじゃない。その中身は締まった筋肉が詰まっていることを俺は知っている。

 俺はリチャルドの肩に手を置いた。


「すまんリチャルド。俺はお前よりも綺麗なお姉さんがいい」

「洗脳されてるんですか!?」


 俺はリチャルドから離れ、メメの隣に立つ。

 メメの肩の傷は痕もなくすっかり消えてしまっていた。本当に悪魔かもしれん。


「ザコお兄さん。どうして?」

「俺は悪魔だろうと、おっぱいの味方だ」


 俺は両手でメメのおっぱいを揉んだ。もみもみ。


「自然にそんなセクハラを!?」

「な!? やっぱ変態ね!」


 凄まじい威力の蹴りが俺の脇腹に繰り出された。

 俺は素早くガードするが、ガード越しにダメージが腕と腰の骨に響く。これがメメの本気か。

 そして美人の蔑む目が気持ちいい!


「あなたのせいで、ザークさんはおかしくなってしまいました」

「いや結構最初から変だったよこの人……」


 さらに足蹴にされた。その姿ならご褒美です!


「気持ち悪い」


 俺は二人の戦闘から蹴り出された。

 リチャルドがグラマラスメメに細剣を繰り出し、メメがそれを手で弾いている……ようだ。

 早すぎて見えない。それに頭がくらくらする。なんだか視界がぼやけて見える。そこまで酒は飲みすぎていないはずだ。

 二人の戦闘は激しさを増していく。メメは防戦一方だが、リチャルドが懐に近づけないようにしているようにも見える。リチャルドはメメに魔法を使う暇も与えない。

 なぜあの二人が戦わなければならないのか。

 やはり俺のせいだろうか。胸が痛む。


 俺は戦闘の次元が高すぎて理解できない光景を前に、両手のおっぱいの感触を思い出す。

 俺はぎゅっと手を握りしめた。

 悪魔だろうと関係ない。

 やはり俺は、メメの事を……。


 俺は二人に介入するために、マナの力を使う。

 リチャルドの細剣を、左手で握りしめた。掌から赤い血が垂れる。痛みは感じない。


「ザークさん! なぜ!?」

「俺は悪魔だろうと、おっぱいの味方だ」

「それさっきも聞いた」


 後ろから尻を蹴り飛ばされた。だが俺は動じない。


「俺は本当に大切な事がわかったんだ。だからリチャルド。お前とは一緒に歩めない」

「そう……ですか……」


 リチャルドが項垂うなだれる。

 メメが俺の肩に手を乗せてくっついた。背中におっぱいが当たってる!

 そうだ。

 メメはずっとロリ体形なのかと思っていた。だが違った。

 これからは腕に絡みついてくれば腕におっぱいが当たり、おんぶをすれば背中におっぱいが当たる。

 それこそが真理。俺が冒険者として戦ってきた夢と希望。それが詰まっている。


「リチャルド。わかってくれ」


 俺に足りないものは、いつだっておっぱいだった。

 人生に潤いを与えるのは、おっぱいだって気づいたんだ。


「おっぱい」


 俺はリチャルドの胸に、右手を当てた。


「おっぱい」


 リチャルドも、細剣を離し、俺の胸に手を当てた。


「オパーイ」

「オパーイ」


 いつの間にか、アリエッタとシリスがいた。


「何やってんのよ!? あの二人!」

「オパーイは、心臓、転じて愛情を示す古い言葉。古来、愛する者同士はお互いの胸に手を当てて、愛を誓いあった」


 いつも片言なシリスがやたら饒舌に解説を始めた。誰だお前。

 アリエッタがシリスの肩を掴む。


「それってつまり!?」


 メメが俺の尻をつまみながら、俺の耳元で囁く。


「最低だよ……ザコお兄さん……」


 俺とリチャルドは結婚した。

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