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俺はまだ青銅級になる気はない

 武器を構える男たちを見て、俺は柄を握る手に力が入る。

 相手の実力は未知数だ。姿を見せた事からリチャルドのパーティーを正面から相手する自信があるということ。いや、まだ仲間が隠れ潜んでいるかもしれない。

 俺は警戒するが、しかしリチャルドは何の気にもせず、男たちに近づいていった。


「お、生きて帰ってきたか! みんなお疲れさん!」


 雰囲気に飲まれたが、良い人たちだった。俺たちに襲いかかるどころか、出迎えてくれた。

 俺が森に入る時に狙われたので、辺りに不審者がいないか警戒していたようだ。


「それで犯人は見つかりましたか?」

「いんや。証拠の矢だが、毒も矢も狩猟用だな。冒険者のものじゃあない。偽装かもしれないが」

「つまり、特定できないということですね……」


 冒険者ギルドに持ち込まれた毒矢は大問題となったようだ。

 オーク討伐作戦に横槍ならぬ横矢が入った事実は、ただの暗殺未遂ではなくギルドへの反抗と捉えられた。ギルドは調査を始めたが、まだ尻尾を捕まえることはできていない。

 だが、俺は肝心な事に気づいていないのではないかと思っている。


「狙われたのは俺なんだから、ギルドへの反抗の線は低くないか?」


 作戦を邪魔するならリーダーのリチャルドを狙うだろう。

 だがリチャルドは首を振った。


「邪魔をするという点からしたら、ザークさんを狙うのが一番でしょう。なんたってボスのオークロードをたおしたのもザークさんなんですから」

「まじで!? すっげぇ!」

「いいや斃してない! 斃してないから!」


 この様子で誤解されるのは困る。

 ……まあしかし、ギルドへの報告で話の筋を説明すると、俺がオークロードと対峙してメメが止めを差したのは事実なわけで……。

 そうなるとストーリー的には俺が大活躍したということになるわけで……。

 受付嬢も当然そのように捉えた。


「そうなるとザークさんは本作戦において、青銅級の活躍をしたことになりますね」

「はい。ザークさんがオークロードを斃さなければ、僕たちは囲まれる形となり危ないところでした」

「そうなりますと、功績、実力を鑑みて、青銅タグへの昇格も――」

「ちょっと待ってくれ」


 俺はリチャルドと受付嬢の会話に横から入り込んだ。


「俺はまだ、その、鉛になったばかりだし、あれだ。そう。功績。功績が足りてない」

「功績でしたら、オーク討伐への参加と、オークロードの撃破で十分ですが……」

「いや、まだ心構えが。冒険者としての心構えが俺はできていない。青銅というとあれだろ。今回みたいな重要な依頼が来ることもあるんだろ。俺はまだ、そういった立場になっていない」

「ザークさん……」


 リチャルドが呆れた顔で俺を見て、受付嬢はその様子を見てふふっと笑った。


「わかりました。それでしたら実力不十分とのことで今回は辞退ということでよろしいですね?」

「そうだ」


 俺がほっと胸を撫で下ろすと、リチャルドは肩をすくめた。

 リチャルドの言いたいこともわかる。だけど木タグだったのがいきなり青銅になるのは面倒が起こることが予想された。


「オークロードの討伐とか嘘っぱちだろぉ! 寄生だ寄生! 偽証だ!」


 ほらこのように。

 いつものメメ狙いの少年が、喚き叫んで俺の胸ぐらを掴んだ。

 リチャルドがすっと細剣を抜こうとしたので、俺はそれを制した。これは俺の問題だ。


「俺と勝負だ! その腕を見せてみろ! ボロタグの詐欺が!」

「こんなとこで騒いだら迷惑だろ。外へ出るぞ」


 受付嬢が声を上げるまでに俺は少年を押していった。これ以上迷惑をかけたらペナルティ嵩んでギルドからクビになるぞこいつ。

 野次馬がやんややんやと集まってくる。

 どこから取ってきたのか、野次馬から木剣が二つ俺たちの間に投げ込まれた。


「冒険者同士の決闘だぁ! 張った張ったぁ!」


 リンゴ売りの大将が賭けの胴元を始め出す。

 少年は木剣を拾い、振った。

 ふむ……悪くない……。とか言うほど俺も剣に詳しいわけじゃない。たぶん俺より筋がいい。


「勝った方がメメちゃんを貰う。いいな!」

「それより少年。剣でいいのか? 得意なのは弓じゃないのか?」

「弓? あんなものは卑怯者が使う武器だ!」


 あれ?

 てっきり俺を毒矢で狙ったのは少年かと思っていた。すまん。

 じゃあ誰なんだ? 俺は周囲を見回す。知らん顔ばかりだ。わからん。まさか暗殺者が混じっていないよな?

 野次馬の中にメメの姿を見つける。俺が殺されそうになったら、頼むぞ?


「ごるぁ! ザコ! 負けんじゃねえぞ!」

「俺は少年に銀一だ! ザコをやっちめえ!」


 ううむ。オッズは幾分か俺の方が多いようだ。

 俺は木剣を拾って振ってみる。ぶんぶん。ううむ……。なんかしっくりこない。


「!? おい! 俺は少年に張る!」

「俺もだぁ!」


 俺の振りを見て、賭けの流れが変わった。そんなに素振り酷かったの俺。


「おいふざけんな! オークロード斃したのは本当なんだろうなぁ!」

「戦いはしたが途中で気絶したぞ俺」

「んなぁ!? 騙されたぁああ! 金返せぇええ!」


 いや騙していないが。

 木剣を構えて少年と対峙する。

 さて、どうしたものか。本気で打ったら怪我するし、頭なんか打ったら死ぬぞこれ。兜被ってないし。


「たぁ!」


 少年は殺す気で振ってきた!

 俺は慌てて木剣をぶつけ、そして弾かれる。


「まじか!」

「たりゃあ!」


 頭に振り下ろされた木剣を、俺はゴロゴロと転がって避けた。


「避けるな卑怯者!」

「避けなかったら死ぬわ」


 そんな俺にブーイングの嵐だ。弾かれた木剣をぶつけるように投げ入れられた。


「ルールも知らないのか!」

「あいにく。泥臭く生き延びたもんで」


 俺は木剣を拾った。

 まいったなぁ。ルールってなんだよ。

 まいったなぁ。お腹も空いてるんだよなぁ。ぐぅと鳴った。

 俺がぼんやりしていると、再び頭を狙って打ち込まれた。

 俺は慌ててそれを受ける。手が痺れ、木剣を落とした。


「死ねぇ!」


 おいおい。死ねって。

 少年は木剣を引き、俺の喉を狙って突いてきた。

 しかしそれは隙だらけだった。

 少年の腕を掴み、右(てのひら)で心臓を打った。


「!?」

「決まりかな」


 俺は、仰向けに倒れた少年の喉を踏んだ。


「剣の勝負だろ……! こんなのは違う……!」

「ああ。そうだったのか」


 俺は少年を離し、木剣を拾った。

 少年は立ち上がり、服の土埃を叩いた。


「あいにく、剣は習ってないんだ。どうなったら決着だ?」

「そんなのどちらかが戦闘不能になったらに決まってる!」

「そうか……じゃあ仕方ないか」


 少年は三度(みたび)同じように俺の頭を狙ってきた。

 俺は今度は弾かれないように、ちょっとだけ本気だす。心臓の鼓動が早くなる。身体が熱くなる。

 少年の木剣に滑らせるように、俺は木剣を先に振り抜いた。

 少年の木剣を握る手の指と甲が砕け、少年は叫び声を上げ、少年の手にしていた木剣は彼方へ飛んでいく。


「ふぅ……これでもう剣は持てないから勝負ありだな?」

「ぐぅ……くぅうぅあぁぁあ!」

「凄い意志だが、それルール違反だろ?」


 砕けた拳で殴りかかってきた少年を、俺は足を蹴飛ばして地面に転がした。

 歓声が上がる。


「ザークだ! ザークの勝利だ!」


 地面で呻く少年は放置され、野次馬連中は掛け金の受け取りに夢中だ。

 賭けに負けた者たちは、ため息を付きながら冒険者ギルドへ戻っていく。

 俺は少年の元へ寄ろうと思ったが、止めた。くらくらする頭を抱えて、ふらふらとメメに寄りかかる。


「優しいのね♥」

「俺が弱いからこうするしかなかった」


 もっと強かったら加減できたはずだ。

 手を潰された日銭稼ぎの冒険者が生活する術はない。俺は少年の生涯を奪ったと言える。


「知ってる? あの子の元いたパーティーメンバーの弓矢が盗まれたんだって」

「へえ。すごい偶然だな」

「その子は元狩人で、その弓は闇市で見つかったんだって」

「へぇ……腹減ったな。飯いこうぜ。おいくっつくな。肩貸してくれよ。飲む前に酔っちまったみたいだ……」

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