表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/73

俺はちびっ子どもにからかわれる

 やわらかい。

 俺が目を覚ますと、全てが終わった後だった。

 頭痛も吐き気も残っている。頭の下は柔らかく、目の前にはメメの心配そうな顔がある。

 俺は膝枕をされながら、メメに優しく頭を撫でられていた。


「大丈夫? お兄さん……」


 その姿は吟遊詩人で語られるお姫様。大英雄ガルガントが毒に倒れ、解毒剤を飲ませるお姫様のようだった。


「色々聞きたい事はあるが、とりあえず心配をかけたようだな……」

「うん……」

「とりあえずそのしおらしい演技はマヌケな俺への罰か? 止めてくれ」

「……んふふっ♥」


 メメは、俺の頭を撫でていた手で髪をがしっと掴み、乱暴に左右に揺すった。吐くぞ。


「意識ははっきりしてるようね」

「俺の身体に何があったんだ?」

「高濃度のマナ循環。あの大女がやっているような事を、慣れない身体やって、酔っ払ったのよ」

「ああ、なんとなく理解した。俺は火酒を水と間違えて飲み干したようなものか」

「喉かわいてるのね」


 メメが水筒の水を口移しで飲ませようとしてきたので、手で制して起き上がる。からかおうとしてたに違いない。顔がにやにやしている。

 水筒の中は沢の水に少し火酒を足したものだ。それとはちみつ漬けレモン。喉を潤したら腹が減った。


「ああ……肉が食いたい……」

「いま焼いてるよ」


 美味そうな匂いがする。それは助かる……。ん? なんの肉をだ?


「あれからどうなったんだ?」

「私がオークロードを斃した」

「それはわかる」


 じゃなきゃここは死者の国か、俺がアンデッドになってるかのどちらかだ。


「強かったか?」

「一撃♥」

「一撃かぁ」


 あいつを一撃となるとどころ狙う? やはり首か? メメが俺の剣を使った?

 それとも魔法だろうか。


「ザコお兄さんが足を斬ったおかげだよ。ザコお兄さんを踏みつけようとしてすっ転んだから。ぷぷっ。首を踏み抜いて終わり♥」

「はははっ! 俺も見たかったなあそれ!」


 怒りの形相のロードがすってんころりんするところを想像した。なんともマヌケな光景だ。

 俺たちが笑い合ってると肉が運ばれてきた。良い香りがする。


「おう! 目ぇ覚めたかぁ!」

「どうもおかげさまで」


 ディエナの姉御の大声が頭にズキンズキンと響く。生の痛みだ。

 だがそれよりもお肉だ! ひゃっほー! おいしー!


「何肉?」

「蛇だ」


 なんだ蛇か。ん……蛇……。オーク肉とか言われなくて良かった。


「しかしやたら腹が減る……もぐもぐ……メメの気持ちがわかる……もぐもぐ」

「魔法使うとお腹が減るからね♥」

「シリスとかちびっ子は少食のようだが」


 アリエッタが目の前にやってきて、杖を額に押し付けてきた。


「ちびっ子いうなぁ!」

「ごめんなさい」


 その辺は種族差とか効率化とか色々あるらしい。


「エッタは肉よりお菓子が食べたいわ」

「へー」


 はちみつ漬けレモンの瓶を見せたら即座に奪っていった。メメと威嚇しあっている。猫か。


「そろそろ戻ろうか。一度キャンプ地で泊まっていこう」


 リシャルドとシリスが戻ってきた。二人はオークの村を漁っていたようだ。

 残党探しや、村討伐の証拠のためだろう。手には袋にじゃらじゃらと詰め込まれていた。


「それと、オークロードの首の保存。頼むね」

「うええ……やだなぁ……」


 アリエッタが薄目になりながら、ディエナの持つ袋に手を入れた。

 凍結の魔法でカチカチに凍らせて、腐敗を防ぐようだ。


「へぇ。魔法って便利だな。爆発させるだけじゃないのか」

「ふふんっ。魔法教えてあげよっか?」


 ちびっ子は得意げな顔で両手を腰に当てて、無い胸を張った。やっぱり子供かもしれない。


「だーめ♥ ザコお兄さんは変なこと教えたらまた倒れるよ」

「人間って弱ッわいなぁ」


 いやお前も人間じゃないのか、と突っ込もうと思ったけど、なるほど。アリエッタは子供とか背が伸びない呪いとかじゃなく、人間ではなかったのか。背が小さい子供種族なのか。

 と、すると、メメもそうなのだろうか。

 いつか成長する日が来ると思っていたのに、そうか……。これ以上育たないのか……。今まで胸を育てろとか言ってすまなかった……。


 俺とメメとアリエッタの三人は先に、昨日泊まったキャンプ地に戻った。

 リチャルドとディエナとシリスはオークの残党を森の中で探してくるという。


「はぁ。お荷物抱えてお留守番かぁ。森の中を歩き回るよりはいいけどさっ」


 相変わらずアリエッタは悪態を付いてくる。それにメメも加わって悪口大会になる。それに挟まれる俺。しかしよくよく聞くと俺のこと褒めてない? って気がしてきた。


「ほんとにあんたがオークロードと戦ったの? 信じられない」

「ザコお兄さん死んじゃうかなーと思ったら奮戦したの。信じられない」


 やっぱり褒めてないかもしれない。


「ねえあんたってゴブリンにやられるほど貧弱だったんでしょ? なんでリチャルドがあんたなんかに構うの。この討伐に付いてきたのも意味わかんないんだけど。まあ……オークロードを村の入り口で斃してくれたのは……助かったけど……」


 あ、ちょっとデレた。


「アリエッタはパーティー組んで長いからわかるだろ。あいつはお人好しなんだよ」

「それはわかるけど……。エッタはあんたがリチャルドを騙してるのかと思ってたわ」

「そう思ってるのもわかってたさ」


 なんだかんだでちびっ子とは付き合いは長い。それに口は悪くてもディエナの姉御やシリスよりは話しやすいし。


「いちおう……あやまっとく……ごめん」

「何が?」

「何でも無い! 忘れろ!」


 焚き火がパァンと跳ねた。俺は驚いて丸太から後ろに倒れた。


「違うからね!? 今のエッタじゃない!」

「湿った薪が弾けただけ。んもーザコお兄さんは臆病なんだからぁ」


 メメが笑って、アリエッタも俺を指差して笑った。何なんだよもう。

 よっこらせと起き上がる。身体もだいぶ動けるようになったようだ。


「ザコお兄さん。猪来てる」

「は? なんだって?」

「いーねー。本当に強くなったのか見せてよ」


 そして茂みから猪が。猪といってもモンスター化した猪だ。サイズも牙も倍くらいでかい。


「がんばれー」

「しょうがねえなあ!」


 俺は猪に突き飛ばされて死にかけた……。



「いやぁ。面目ない」

「やっぱこいつがオークロードと戦ったなんて嘘よ。ありえない」


 今晩は猪の丸焼きだ。滴る青紫の血がちょっと気持ち悪い。ディエナの姉御は大喜びだ。

 表面をナイフで削って口にしてみたが血なまぐさい。

 慣れない手付きでがんばった。俺はがんばった。内蔵傷つけないで取り出したことは褒めて欲しい。



 一晩泊まり、俺たちは来た道を戻った。

 来た時よりもさらにハイペースでの行軍である。アリエッタはディエナに担がれた。

 俺も、マナの循環が意識できるようになっていなかったなら、疲労でぶっ倒れていただろう。魔法使用と言ってもほんの少し、脚に負担がかからないようにしているだけだ。

 そしてやっと、木々の切れ目から明るい日差しが見えてきた。


「し、待て」


 シリスが前に出て止めた。


「いる。四人だ」


 気配読みが未熟な俺にもわかる。

 潜んでいた彼らは、堂々と姿を現したからだ。

 森の出口に四人のいかつい顔の冒険者が、武器を構えて俺たちの前に立ち塞がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ