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俺は昇級する

 シリスと共に持ち帰ったオーク遭遇の情報は、冒険者ギルドの受付を驚かせたようだ。


「ではそんな森の浅い所にオークが六匹も現れた、と?」

「ああ。この三人で倒した。討伐証明で耳を切ってきたが……臭いので洗ってきた。鑑定できるか?」

「かしこまりました。確認いたします」


 そして冒険者ギルド内部もざわついている。

 人嫌いエルフがリチャルド以外の男、つまり俺の隣に立っているからだ。

 森の時のように離れていて欲しいものだが、なぜか俺の側にいる。なんでだよ。

 そのせいで嫉妬混じりの視線が俺に突き刺さる。

 右手につるぺた美少女。左手に美少女エルフ。両手に花だ。茨付きだが。


「お待たせいたしました。こちらが報酬となります。それでは詳しい話しをお聞かせ願いますか?」


 俺とメメが魔狼狩りに森へ入った。

 オークを発見し、一度は撤退を考えた。

 偶然シリスと出会った。

 放置したときの被害を考え、三人で討伐した。

 簡単にこのように説明した。


「シリスさん。間違いはございませんか?」

「ああ」


 受付は詐称がないか確認したのだろう。シリスが素直にうなずき、受付嬢は納得した。


「それでは最近のご活躍と功績をかんがみて、ザークさんとメルメリアさんのお二人に鉛タグの昇級といたします」

「まじか」


 突然の事で俺は驚きを隠せない。動揺してボロボロの木タグを首から外して「まだです」と言われた。刻印と授与は明日されるという。

 感極まって視界がぼやける。受付嬢に「おめでとうございます」と言われて、目で涙が玉となる。

 メメに「だっさ」と言われ、手を出した。手首と肘を逆関節に決められて、目から涙が溢れた。

 手が胸に当たっているがふくよかさが足りない。残念である。サービスが足りない。もっと肉食え。いややっぱりこれ以上食うな。嬉しさで、虐められても余裕がある。


「おお!? ボロタグのザコが鉛になったのか?」


 メメにタップする俺の背中をバシバシ叩いてきたのは、魔狼で隣で戦った男だ。名前なんだっけ。


「ミッシェルだ。やあメメちゃん。エルフさん。ご機嫌いかが? すごい悪いみたいだな。撤退するよ。あはは」


 弱いなミッシェル。シリスの不機嫌顔に耐えられないとは。俺も昔は慣れるまでに一月はかかったが。

 怖い顔で人を遠ざける美女より、笑顔で殴ってくるちびっ子の方が怖いんだぞ。


「お前なんかがEランクだと!? 俺は認めないぞ!」


 今度はメメをパーティーに誘ってる少年だ。少年はかわいそうなことに精霊花の依頼失敗で評判がかなり悪い。以前の俺みたいなもんだ。

 色んな人に祝られて照れる。


「おお!? 坊主昇級だってか!? そっちの嬢ちゃんも? 今日は俺様が奢ってやるぞ!」

「わぁい♥」

「いや遠慮しておきます。こいつ底なしに食うんで」


 たくましい知らない青銅タグのおっさんが誘ってくれたが断った。メメの腹がぽんぽこりんになってお互い気まずくなるのは間違いないからだ。

 それにしても知らないおっさんすげえ胸だ。触ってみたい。


「ザコが昇級だって!?」

「異例の早さじゃねえか!?」

「いやむしろ異例の遅さだろ。あいつ二年前からずっと木タグだぞ」


 そう言ってガハハと知らない壮年の先輩方が笑った。昔なら馬鹿にされてると思ったものだが、今となっては悪気がないのは分かる。

 そんな先輩方も鉛タグだ。一般的に木タグは見習い、鉛は一人前である。

 ついに俺も一端の冒険者と認められたのだ。


 そして俺たちはいつものように酒場へ向かった。

 シリスを誘おうと思ったが……、止めた。人嫌いの彼女はこのような場所は嫌いだろう。

 俺が別れを告げると、彼女は俺と目を合わせ、目線を下げ、背中を向け去っていった。

 その様子がなんかとても美しくて神秘的で魅力的で、ドキッとした。

 いや、惚れたりはしないけどね。


「お肉♥ お肉♥」


 ううむ。やはりこちらの子供は色気が足りない……。口には出さないけど。

 メメは店の中に駆け込み、店の奥の定位置に座った。


「おおい。自分で持っていけやー」


 店のおっちゃんに言われ、メメにパンと肉とスープとおまけのデザートを給仕する。


「人手足りないのか?」

「ああ、んなのいつものことだ。兄ちゃんの連れのあの子を雇えねえか? うちの客に人気だしさ」

「こんなとこで働かせたらまかないで食材を食い尽くすぞ」

「はははっ!」


 店のおっちゃんは冗談と思ったのだろうが、俺は本気だ。猪肉で妊娠腹になってるのを見たからな。

 メメとお互い食べ物の争奪戦を繰り広げながら食事を取っていると、いつもの男が目の前に座った。


「聞きましたよザークさん。おめでとうございます!」

「ああ。やっと一歩近づけたよ、リチャルド」


 お互いのジョッキをぶつけ乾杯をした。ゴツンと木の音が響き、エールが混ざり合う。


「ところでオークと戦ったと聞きましたが」

「ああ。ゴブリンに泣かされた頃の俺じゃねえぜ」


 メメは隣でプクスと笑った。こいつは文字通り俺が泣かされた場面を見てたからな。


「そうですか。大変だったでしょう」

「臭いがきつかったな。聞いてくれよ。隣のこいつ、胸の布を顔に巻いてたんだぜ」


 ガタガタと周囲がざわめいた。

 隣の露出狂からじろりと睨まれた。


「胸丸出しでオークを四匹撲殺よ」


 隣の露出狂から「お前も撲殺したろか」という顔で睨まれた。

 そして殴られた。顔はやめろ。かろうじて顔を横に背け、ダメージを軽減した。痛い。


「それは……凄まじいですね」

「俺が相手したのは一匹……いや二匹と言っていいのか? シリスと協力して戦ったよ。おっとすでに聞いてるか。なあなんであいつ一人で森にいたんだ?」


 リチャルドはふいと顔を背けた。言いづらい理由でもあるのか?


「それは、僕が彼女に助けるように頼んだのです。ザークさんのことがやはり心配で……」

「そうか。俺がまだ弱いのは確かにそうなんだが。俺だって冒険者だ。それにメメだっている」


 メメがいなかったら俺はすでに何度も死んでいるので、リチャルドが心配するのは間違っていない。

 メメがいなかったらそもそも無茶はしないが。


「僕は、彼女のことを信じてはいません」

「もきゅ?」


 渦中の少女は俺の分の肉も口に詰め込むのに夢中だ。取るな。


「確かにこんな露出狂メスガキを信じる奴はいねえよなぁ」


 脇腹を殴られた。俺はすばやく反応して弾き、ダメージを軽減した。直撃したらテーブルの上が大変な事になるだろうが!

 そんな攻防を繰り広げていると、リチャルドは突然立ち上がり、俺の手を両手で握った。


「ザークさん。僕を信じてくれませんか?」

「信じる信じないも、俺たちは親友じゃあないか」


 パーティーから抜けたが、俺はリチャルドと仲違いしたわけじゃない。


「僕はザークさんの事が好きなんです!」

「俺だってお前のこと好きだぜ」

「げふぉ!」


 メメが喉にパンを詰まらせた。


「それじゃあ! また僕とパーティーを組んで下さいますか!?」

「それはまた、話が違うだろう……」


 俺は多少強くなり、鉛タグにもなったが、青銅タグ、さらにその上に真鍮にも届きそうなリチャルドとの実力差は歴然だ。


「やっぱり、僕を信じてくれないんですね……」

「いやだから……。どうしたんだリチャルド」


 様子がおかしい。

 そもそもなぜそんなに俺に戻って欲しいのか。

 ああ……。俺は理解した。


「いやわかる。あの厄介な三人を一人でまとめるのはそりゃ辛いよな……」


 わがまま娘のアリエッタ。

 暴走脳筋のディエナ。

 人嫌いエルフのシリス。

 三人とも、隣で赤い顔でエールを呷るメスガキに匹敵する、面倒な奴らだ。

 その心労は計り知れない。


「なあリチャルド。もし辛いのならお前もリーダーを辞めてしまっても構わないと俺は思うぜ。パーティーを解散しても誰もお前を責める奴はいないって」

「それじゃあ! そしたらまた僕と組みませんか!」

「いやだからそれは……」


 俺は空になったジョッキの底を見つめた。


「リチャルド。お前はもう俺にとっては憧れなんだよ。こうして会って話すのはいいが、隣に立つことはできない。お前は俺なんかに足を引っ張られてちゃあいけないんだ。もっと高みへ……英雄となるお前が見たいんだ」

「……わかりました」

「へ。柄にもない恥ずかしいこと言っちまったな」

「そんなことないです。ザークさんのお気持ちはわかりました」


 顔を上げると、目の前にリチャルドの顔があった。そう見つめるな。照れるぜ。

 リチャルドも決意を固めたようだ。


「メメさんの代わりに、僕が隣に立ちます!」

「なんでそうなるんだよ!?」


 リチャルドはいつものように、銀貨を一枚置いて去っていった。

 思考が追いついてない俺はそれをぽかんと見送った。


「ザコお兄さん好かれてるね?」

「どういう事なんだよ……」


 翌日、オーク集落討伐の予備メンバーに俺たちは加えられた。

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