表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/73

俺だって魔狼と戦える

 魔狼は魔物(モンスター)となった狼だ。

 狼ゆえに人に害をなし、家畜を襲い、森の動物を襲う。

 だが冒険者は森へ入り、魔狼を積極的に狩ろうとはしない。

 狼ゆえに毛皮の価値は低く、肉はまずく、危険も大きい。

 増えたモンスターは群れを成し、街を襲う。

 モンスターは根源的に人を憎んでいるという。人間を滅ぼすための存在。

 そしてそれを狩る、冒険者。


「ラッシャアアア!」


 二メートルの筋肉達磨のディエナの姉御が繰り出す大剣の()の横薙ぎで、先頭の魔狼が吹き飛び、それが後続に激突。それが波及し群れの一部が壊滅した。


「ははっ。噂以上にすげえや……」


 正面からぶつかろうとしてきた魔狼はそれだけで動きを止めた。本能的に引いている。

 だが狼というものは、獲物を囲んで襲うものだ。魔狼は正面だけではない。魔狼の群れは俺達の左右に回り込んでいる。

 群れとは本来一つである。群れごとにリーダーは一匹だ。一つの群れは十匹ほどだ。

 その群れがさらに十ほどある。つまり狼の中隊だ。本隊はその奥にあり、指揮官であるボスがいる。

 銀狼。とりわけ大きく、異彩を放つ狼が遠くからも確認できた。


「おっしゃ! 姉御に続けぇ!」


 ベテラン冒険者が、前にあぶれた魔狼に槍を突き刺す。

 初心者も勇気を振り絞り、弓を引く。

 俺も、端で回り込む魔狼と対峙した。


「でぇい!」


 突きを二撃目を意識した持ち方で繰り出した。

 攻撃された魔狼は本能的に飛び掛かってきた。俺のことを侮っている。

 突きを飛び越えてくる魔狼に対し、俺は突いた剣を下から振るった。

 剣は魔狼の腹に当たり、斬ることはできなかったが、魔狼は『ギャイン!』と鳴いて地面に倒れ、舌を垂らした。

 俺は首に剣を突き立て、トドメを差す。


「おう! やるじゃねえかザコ!」

「ザコじゃねえ!」


 酒場で見かける名も知らぬ同世代の冒険者だ。時々俺とメメの関係のことをからかってきた。メメが俺の事を「ザコ」と呼ぶから、いまや俺の名は「ザコ」で通ってしまっている。


「はは! 魔狼を倒せるんじゃザコじゃねえな! ボロ木のザコ!」

「ザークだ!」


 そう。今の俺の二つ名は「ボロ木のザコ」だ。今こそ汚名を晴らす。

 名も知らぬ男は剣を、俺よりも華麗に振り、襲いかかる魔狼の肉を斬り、殺した。


「ふーん、やるじゃん……」

「お前の振りは雑なんだよ、ザコ」


 突き上げだったから斬れなかっただけだし? 袈裟けさ斬りすれば俺だって斬れるし?

 斬れなかった。そもそも当たらなかった。

 俺は魔狼に伸し掛かられ、首筋に牙が迫る。

 だがこの程度、メメのマウントと比べたら赤子みたいなもんだ。

 俺は魔狼の顔面を殴り、腹を蹴り飛ばす。

 転がった魔狼は見知らぬ男の足元に転がり、男が首を切り落とす。


「手間かけさせんなザコ!」

「すまねえ!」


 ザコザコ言ってきて気分は悪いが、男は俺を庇って動いてくれているようだ。

 俺が魔狼に囲まれないように立ち位置を変えていた。


「俺を庇っても尻は貸さねえぞ!」

「誰がお前の汚え尻を狙うか! メメちゃんの尻を貸せ!」

「はん! ロリコンの一味か!」

「そのかしらが何を言う!」


 俺の剣撃を横に回避してカウンターを狙う魔狼を、男が斬る。

 男が剣についた油を拭う間の時間を俺が稼ぐ。


「オレはミッシェルだ。オレもメメちゃんと一緒に食事がしたい」

「はん! 前のテーブルに着けばいいじゃねえか!」

「俺だって! 隣で! イチャイチャしたい!」

「くれてやるよ!」


 大上段からの一撃。初めてまともな攻撃が魔狼に当たり、魔狼の頭を砕いた。

 俺達の付近の魔狼は全て対峙し、俺とミッシェルは拳を突き合わせた。


「このあと食事はどうだ?」

「悪いが腹一杯で吐きそうなんだ」


 その原因のディエナの姉御の方を見ると、暴風のように魔狼を蹴散らしていた。そして一人突出し、ボスの銀狼へ肉薄していた。


「すげえなありゃ。暴風のディエナか」


 姉御は魔狼に囲まれているが、それを物ともしない。

 俺達が行った所で邪魔になるだけだろう。そしてそもそもあの数を相手することはできない。


「オレ達はそろそろ下がるか。帰るぞザコ」

「お、おう」


 先発隊は時間稼ぎだ。最初に駆けつけた者が突っ込む。ただそれだけだ。

 街の冒険者が門に集まり、防衛準備ができたならば下がる事になっている。

 これで俺達の役目は終わった。後は寄せ集めではなく、パーティー同士の連携の防衛となる。


「メメ。大丈夫か。起きられるか」

「むにゃむにゃ」


 うちのお姫様はまだすやすやぴーだった。どんな消化速度なのか、あんな膨らんでいたお腹はぺたんこになっている。

 食った肉はどこへ消えた……? 漏らしてねえだろうな……?

 俺が変なことを考えていると、メメの手がぐいと伸びてきた。俺はそれに答え、メメを抱き上げた。

 ミッシェルが隣で頭を掻く。


「前から思っていたのだが、その公然とイチャついてるのはなんなんだ? 見せつけてるのか?」

「トレーニングなんだ。これは重り」


 重りがもそもそと動く。抱っこではなくおんぶを所望らしい。


「ふぅん? ならオレの事も持ち上げるか?」

「勘弁してくれ。お前みたいな尻を狙うやつが増えちまう」


 男色の気はない。


「さて見学をするか。おいあの栗毛の男はザコが前いたパーティーのだろ?」


 ミッシェルが指差す方には、リチャルドが居て、俺に手を振っていた。

 何を呑気なことやっているんだあいつは。昔からそういう奴だった。


「あいつもメメちゃん狙いか? くそう、女だらけのパーティーの癖に……」

「女と言っても厄介なのしかいないが……」


 リーダーのリチャルド。ちびっ子魔導士のアリエッタ。脳筋のディエナ。それに、射手のシリス。

 射手のシリスが、手を振るリチャルドの手を掴み、こっちを冷たい目で見た。

 一つにまとめた金髪がゆらりと揺れる。そして耳が突き出て長い。

 シリスは人間ではなく、エルフと呼ばれる種族だ。


「おおこわっ! ザコおまえ何かしたのかよ……」

「してねえよ。俺はパーティーを抜けただけだ。穏便にな」


 シリスは一年ほど前にリチャルドのパーティーに入ったメンバーだ。俺とはほとんど関わりはない。

 リチャルドのパーティーは元々は女だけというわけではなかった。メンバーの入れ替わりは何度かあった。

 女だけになったのには理由がある。女冒険者は女冒険者で固まるものだからだ。男と女が一緒にいたら、色々面倒になるだろう?

 とはいえ、リチャルドは別問題だ。誠実なリチャルドは女を良い意味で女扱いしない。誰からも好かれる奴だ。

 俺? 俺は街で別行動してたから一緒にいたわけじゃないからな。


「エルフだしただの人嫌いなだけなんだろ」

「それにしちゃあ、リチャルドの奴と手を握ってるぜ。やっぱ許せねえよなぁ! イチャつきやがって! くそ! ここにももっとイチャついてるのがいたわ!」

「勘弁してくれ」


 不可抗力だ。

 なんかもう、メメが俺に絡みついてるのは呪いみたいなものだ。


「ねえザコお兄さん♥ このうるさい男はなに? 潰していいの?」

「すぐ潰そうとするな……。さっき一緒に共闘したんだよ」

「ミッシェルと言います! よろしくお願いします! メメ様!」


 メメ様?


「ふぅん? 私の邪魔にならないようにしてね?」

「はい! いつか踏まれるようにがんばります!」


 踏まれる?


「キモ。死ね」


 メメ様はお怒りになり、ミッシェルは喜んだ。わかったこいつは変態だ。あまり関わらないようにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ