プロローグ 足に絡みつく黒髪
学校一の美少女。黒川鞠亜。いつもスクールカーストは上位の方で、友達も多いし、彼氏もいる。誰もが憧れる唯一無二の存在。そんな彼女は、ある夜、異形の化け物に襲われる。
夏を思わせる夜空に、星がきらきらと瞬く。髪を撫でる風がやけに生ぬるい。
黒川鞠亜は涼を求め、自身が通う高校のプールサイドに来ていた。冬の間茶色く変色し、虫の死骸が浮いていたプールは綺麗に掃除され、すっかり透明になっていた。足を入れてみると、ひんやりした水の感触が心地良い。
鞠亜はふと、水に浸した足に何かが絡みついたような気がした。慌てて足を水から引き上げる。何もおかしい所はない。水の中に落ちていたごみかと思い、水中を見渡す。しかし、それらしき物は見当たらなかった。きっと気のせいだ。今日、恋人である樺山郁斗と、ホラー映画を見て盛り上がったからだ。大丈夫。あんなのどうせ作り話だ。人間が考えたくだらない虚構。そうに決まっている・・・・・・
再び、プールに足を入れる。水はただ、鞠亜の足を撫でるだけだ。どこをどう見てもいつもと同じだ・・・・・・いや・・・・・・違う・・・・・・
鞠亜の足には、真っ黒な長い髪が絡みついていた。長さと、足に触れたときに感じる質感から、確実にこの世のものではない。
「い・・・・・・や・・・・・・たす・・・・・・けて・・・・・・ねえ・・・・・・誰か・・・・・・郁斗・・・・・・ねえ・・・・・・・・・・・・」
叫びたいが、声が思うように出ない。髪はしっかりと鞠亜の足に絡みついて解ける気配などない。むしろどんどん締め付けてくる。
次の瞬間、鞠亜の身体はずぶずぶとプールの底へ沈んでいった。天高く昇る赤黒い満月が、水面を不気味に照らしていた。