7.決意
私は、【ゲーム】でのスチルではなく、【現実】のスチルを貪欲に追い求めることにした。
もう、ストーリーもないし、先も読めない。いや、元々こっちの世界で、ストーリー通りの展開なんか無かったけどね…。
スチルの為だけに!と、頑張っていたからか周りが良く見えていなかったのかもしれない…。
こんなにも私を慕ってくれるマリーの事も、私の事を心配してくれるお母様の事も、何だかんだ娘に甘々のお父様の事も、私はゲームの世界だからと一線を引いてたんではないか?
そう思うと、とっても勿体なく感じてきた…。
「マリー、マリーは私が沢山の人を救えると信じているのね?」
「もちろんです!」
流石、韋駄天!食い気味にきましたね。
ゲーム通りに進まないのなら、もう、とことん現実の素敵スチルを追い求めよう。
どうせ、ストーリー通りなんて進んでいなかった現実だ。今更な気もするけどね…。
ん?でも待てよ…?もしかして、ゲームスタートは7歳の学園入学時…。
そこからストーリーがスタートするんじゃ?
「マリー、私は決めたわ。エデル王子との面会を。客間へ行きます。」
「かしこまりました。」
もしかして、学園がスタートし、プレイヤーが現れた時から本番ならば…諦めなくていい!?
【ゲーム】も【現実】も追い求められるかもしれない。
ならば、多少のズレがあってもエデル王子との婚約は進めるべきだろう。
嫌いだけど…。
◇
「失礼致します。」
客間には、エデル王子、カリム、お父様、お母様が座ってお茶をしていた。
いや、だから、カリム…貴方は護衛よね…?何ちゃっかり王子の隣に座ってるのよ…。普通後ろに立って控えるものでしょうに…。
「あらあらリリー、体調は大丈夫なの?」
「リリー、リリーが倒れたと聞いて領地から飛んできたよ…!」
お母様も、お父様も私の顔を見るなり心配して下さる。優しい両親なのだ。
そんな光景を見てだろうか、エデル王子は寂しそうな羨ましそうな…捨てられた子犬みたいな顔をする。
あら?あらあら?
「お父様、お母様、私は大丈夫ですわ。エデル王子から求婚され、驚いてしまったんです。」
「あぁ、その事なんだがね…」
お父様が、婚約の事を喋ろうとすると、エデル王子は泣きそうな、本当に今にも崩れてしまいそうな表情になる。
あら?あらあら?あら?
「リリーが、本当に嫌なら、お父様が国王に進言するよ。私は、リリーが公爵令嬢であると同時に、ただ一人の女の子だと思っているからね。僕はね、リリーが本当に好きな人と幸せになってもらいたいんだ。」
あぁ、お父様、エデル王子が苦痛に歪んだお顔になってますわ。カリムは、お茶を飲みながら、お父様の言葉に深く頷いてるけど…。だから、貴方はエデル王子の護衛じゃないの…?
「だからね、エデル王子がわざわざ来てくださったけどね、穏便に帰って貰おうかと思ってたんだ。」
あぁ〜…エデル王子泣くわ。あれ泣くわ。
「あっ…リリアーナ…。私は…」
エデル王子が、消え入りそうな声で私を呼ぶ。
捨てられた子犬がすがり付くような、悲壮さを感じる。
あらあらあらあら…
私の、表情を見て、お母様は楽しそうに微笑む。
「リリー、好きに選んで良いのよ?私はいつでも貴女の味方ですからね。」
うん。お母様気付きましたね…。
私は今迄、いえ前世も含めてですかね、男性に惚れた腫れたといった感情が分からなかったんですよね。けど、それはそういう事なんですね…そんな場面に遭遇してなかったんですのね。
私の嗜好は、驚き桃木、真性のドSだったんですのね。今の泣きそうな苦痛に歪んだお顔のエデル王子にドキドキしてますもの…。たまらなく…良い。
「エデル王子…?」
私が声をかけると、泣きそうな表情で不安そうに私を見上げる。
あぁ…良い!
「私は、貴方が嫌いです。私の気持ちを無視したからですわ。」
「…すまない」
唇を噛み、下を向いてしまう。
あぁ…たまらない…!
「ですが、私に寄り添い、私の気持ちを尊重して下さるなら、そして、私に王族としての不遜な態度を取らないならば…」
段々、顔を上げてくるエデル王子。
その瞳には、期待と不安が入り混じっている。
うん、やはり良い。
「私は、エデル王子…貴方との婚約を受入れますわ。」
「リリアーナ…!!」
花が咲き誇る様に、笑顔になるエデル王子。
その瞳には、うっすら涙が滲んでいる。うん。良い。
「お茶会の時や、先程の様な強引な態度は本当に嫌いですの。その様な対応をまた私にしましたら…、この話はなかった事に。…そうね、破棄いたしますわ。」
「分かった。私は、もうリリアーナに対して強引な事はしない。リリアーナが嫌がる事はしないと誓う。」
嬉しそうに、涙目になりながら感謝するエデル王子。
この顔じゃない…。
「ただ、まだ私はエデル王子…貴方の事が嫌いですわ。私を手に入れたいだけでしたら、この話は無かった事に致しましょう。私は、お父様の言う通り、愛ある婚姻をしたいので。」
また、エデル王子の顔が苦痛に歪む。そう!それよ…!スチル…ではない。けど、どの限定スチルより、良い。
身体の底から、心の奥底から歓喜が湧いてくる。はぁ…素敵…。
「リリアーナ…まだ私を好きになれなくても、愛せなくても良い…。信じられないのも分かる。ただ、これだけは言わせてくれ…、私はリリアーナに一目惚れをしたんだ。」
恥ずかしそうに、下を向いてしまうエデル王子。
たまらない…。
「アイスフェルト公爵、夫人、私は間違えた求婚をしていました。どうか、これからの私を見ていてください。必ずリリアーナに相応しい男になります!王子ではない、一人の男として!」
カリムは、おー!と言いながら拍手をしている。だから、貴方は護衛で……、まぁ、もう良いわ。
お父様も、お母様も苦笑いをしながら私を見る。
「リリー、君はそれで良いんだね?」
「勿論ですわ。是非とも、エデル王子には頑張って私の信頼を回復して頂きたく思いますもの。」
そして、あの愛らしい表情も見せて欲しいですわ。
「リリー、貴女がこの婚約話で初めて嬉しそうにしていて、私も嬉しいわ。これからは、更に大変になりますよ?」
えぇ、これで名実ともに第一王子の婚約者、そして未来の王妃としての勉強も増えますものね。
「お母様、私はどんな大変なことでも頑張れますわ。だって、側にエデル王子が居ますものね?」
私の言葉に、エデル王子は嬉しそうに頷く。
「リリアーナの事は必ず私が幸せにします!」
まぁ、そういう事じゃ無いんですけど…ね?