4.強烈
とんでもない事を、さも当然の様に宣言するエデル王子に呆気を取られ、返答をしなければ…しなければ…と思い、混乱する頭で考えたがあまりの展開に付いていけない。
そのため、廃課金の成果がするりと出てしまった。
全力でお断りするしかない…と。
「いえ、おこ…「お嬢様!!!!」
その時、私の後ろに背後霊の如く控えていた韋駄天と名高い、私の侍女にセリフ被せを受ける事に。正に韋駄天。一寸の隙もなく、的確に私の失言を防いでくれる。
「お嬢様、差し出がましいかとは存じておりますが…ここは一つ穏便に…。」
彼女は、韋駄天の侍女ことマリアンヌ。マリーの愛称で、私が家庭教師を付け始めた辺りから雇い始めた。
私は、廃課金の前に、先ずは自身が背負うべき責任・責務を知る事を優先した。その為に、お父様に強請って領地へ連れて行って貰った事がある。
その時に、出会ったのがマリーだ。両親を亡くし、孤児になる筈だったマリーを、私専属の侍女が欲しいとお願いして雇い始めたのよね。
マリーはとても真面目で、私にいつか恩を返すとそう宣言し、侍女の仕事だけでなく、日夜私と共に廃課金のレッスンや訓練に付き合ってくれる優しい人なのだ。
たとえ、辛く苦しい特訓や訓練であっても弱音も吐かず、私を守る為だけに体術すら習得している。体術を磨いている様はまるでアスリートの如く。齢10歳にして一流の侍女(?)と言っても過言ではない…と、思う。
そんな私の可愛いマリーのお願いであれば…う〜ん…やはり受け入れがたい…。
本来のストーリーとの相違や、急な展開を受け入れるのにはスチル目当ての私の気持ちが動かない。
私の目的は、本来見れるであったであろう【限定スチル】を拝むことであり、エデル王子との結婚が目的ではないからね…。
「マリー?私はまだまだ自由で居たいのよ?」
少し困った表情をしてマリーを見上げれば、「はうぁぁ〜…家のお嬢様、マジ天使!!」みたいに悶えるマリーが、鋼の精神力で侍女としての本分と己の欲望との間で葛藤し始める。
ここで少しトドメを…と、思いマリーの大好きな私の上目遣い+微笑みで問いかける。
「ねぇ、マリー…駄目?」
「うぅ…駄目です!」
流石韋駄天…。瞬殺ですね。
私が私の為だけに生きる様に、マリーにはマリーの譲れない何かがあるのだろうけど…。
ふむ…、困ったわね。
横で、エデル王子はニコニコご機嫌に、私達のやり取りを眺めては居るけど…放置は駄目よね。放置は。
「エデル王子、御身の前で失礼致しましたわ。」
私は、ちっとも悪いとは思ってはないが、マリーが慌てふためくのも、青ざめるのも見たくないので、カーテシーをとる。
相手は国家権力を有する者だ。何事も穏便に済ませたい。あわよくば、求婚も聞かなかった事にしたい。
「いいや、美しい花が2人、私の一挙一動に揺れるのは見ていて楽しい。それに、妃の無礼など無礼ではないわ。」
良い笑顔で、エデル王子はとんでもない事を口走る。
「嫌だわ、エデル王子。まだ私は妃ではありませんわ。ただの公爵令嬢ですのよ?」
「ふふ、押せば折れるかと思ったが、やはり凛っとした白百合は強いわ。今日の所はいい、リリアーナを尊重しよう。」
エデル王子は輝かんばかりの笑顔で、私を見つめる。
齢5歳にして、ただ漏れるフェロモンに周りはキャーキャー騒いでいる。この人、将来ハーレム作ってても驚かないわ…。
そして、良い雰囲気を強引に作りだしたエデル王子は、改めて私に向き合う。
「リリアーナ、私は心から君を…」
「エデル王子、私少し疲れましたので控室に下がらせていただきますね。」
が、言わせない。それは、学園に現れるであろう未来の主人公に言ってあげてください。
そんな気持ちを込め、マリーを伴い控室へ下がる。私は、エデル王子と甘い結婚を願ってはいないのだ。
それよりも、見れる筈だったモノクロ婚約スチルが…スチルが…確実に見れなくなった事に絶望する…。
モノクロスチルは、今後エデル王子が好きでもない公爵家からのゴリ押しで勧められ結んだリリアーナから、本当に愛する主人公へ脳内がピンクになる度に映し出されるものだ。
そして、愛が深まるにつれ、モノクロスチルは粉々に砕かれ…
ノーマルエンドですら、スチルの演出は見事なものだったのに…。見事だったのに…。
「お嬢様、お顔が…お顔が真っ青です…!!」
マリーに支えられ、やっとと云うような出で立ちで、一目で上等だと分かるソファーへ身体を預ける。
「もう…見れなくなったのね…。」
私は、絶望と共に意識を手放した…。
だって、私はスチルの為だけに廃課金を繰り返し、血の滲むような(比喩ではなく)努力を続けているのに…。
ありえない…