3.初体験
物語が動き始めます。
うららかな日差しに恵まれた、第一王子主催のお茶会。
生命の限り咲き誇る花々に、小腹に訴えかけてくる芳しい焼き菓子の芳香。
我先に第一王子に挨拶をしようと奮闘する、駒鳥の様な令息令嬢達。
正に、貴族社会の縮小図。愚かしい事この上ない…(この感じ悪役令嬢っぽいわよね?)
私は、公爵家という事もあり、最後の方に会場入りしてから入口付近に陣取り、お茶会会場に集まる人達を観察していた。
人間観察は、今後の為にもなるが、何より面白い。これだけ同世代が一同に集められているにも関わらず、聞こえてくる会話はやれ王子がどうとか、やれこのドレスがどうとか、自慢話と如何に王子に近付くかしか考えてない空っぽの会話なのだから。
ただ、同世代という事は、みな5歳〜6歳位の子供達が集まっているんですけどね…。子供達が話す内容としては、自尊心が高い貴族という事もあり、普通なのかもしれない。
だけれども、私は私として、公爵家に恥じない人間になり、尚且つ悪役令嬢にならなければならない。
中身の無い会話より、この先この国をどう良くするか、貴族として今後どの様に国に、国民に、領民に認められる人物になるか、そのような事を熱く語り合える人と会話をしたいのよ。
一口に悪役令嬢と言っても、プレイヤーにとっての【悪役令嬢】であり、貴族としての矜持は忘れてはならないし、ましてや、自身の領民にすら捨てられるような、そんな令嬢にはなってはならない。何せ、元々は日本国民であり、法治国家の一国民だったのよ?犯罪に手を染める事も、自身に与えられた役割は果たさなければ不安になってしまうのよ。
ただ、この場に集まっている令息令嬢は、貴族としての誇りだけしかなく、責任も義務も分からなそうな人達しか居ない…と、言う事だけは分かったわ…。
◇
しかし、気になるのよね…何故か此処に来てからずっと横に居る人物…。
砂金の様にキラキラと輝く御髪に、アイスブルーの瞳、自信に満ちた態度。なんの偽装なのか分からないが、安い生地の古びたデザインで仕立てられた服を着た人物…。
たとえ、どんなボロを着ていても、その堂々たる態度に気付かない訳がない。
この国【ルワード王国】の第一王子、エデル・ハワード本人に間違いないわ。けど、本当に何故私の横に居るのよ…。
確か、エデル王子との婚約は公爵家からのゴリ押し…私が王子に一目惚れをして、娘に激甘なお父様を通じて結ばれたものだった筈。
だからこそ、王子側の思い出スチルには、白黒の物悲しい婚約シーンしか出て来なかった筈なのよね…。
ボロを着た王子が横に居て、どんな展開になるのかも、そもそもゲームと同じ様に進むのかも分からない。そして、私は推しが居なかっただけあって、エデル王子の幼さが全面に出ているが、端正な顔にもキャーだとか、ワーだとか云う気持ちは生まれなかった。
私、廃課金の為だけにやり込んでる気はしたけども…、展開的に一目惚れしとかないと駄目かしら…?モノクロスチルの為に、お茶会後、お父様に打診するつもりはあったけど…、ボロを着た王子が隣に居た、と、云う展開はなかったのよね。どうしたらベストなのか分からないわ。
考える事にも疲れ、なるようにしか成らない精神で、適当に人間観察を続けていると、突然隣から話しかけられた。
「君は、酷く冷めた目で周りを観察しているね?あの輪に加わらないのかい?」
エデル・ハワード第一王子に話しかけられたが、王子だとは名乗っては居ない…。ならば、ただ私に話しかけて来た無礼な何処かの令息として扱わせていただきます。
「あら?貴方には分からないのかしら?この場には、私と話すに相応しい人物は一人足りともいらっしゃらないわ。」
私の言葉に、目を見開き驚いた表情を隠しもしない第一王子。
「どうして、そう思うんだい?」
恐る恐るといった感じで聞いてくる。失礼な
「私は、アイスフェルト公爵家のリリアーナですのよ?下らない話ではなく、この国と領民の為になる話が聞きたいんですの。ですけど、この場にはその様な志がある人はいらっしゃらないわ。」
私は、ひと呼吸置いて更に続ける。
「下らない自慢話と、如何に王族に気に入られるかしか頭にないケーキ頭の子供たちに付き合える程、私は愚かではないわ。私と話したければ、私の土俵迄上がってきて欲しいものね。本当に下らない集まりですこと。」
正に悪役令嬢!っと云うようなセリフが決まり、私は大満足。
エデル王子は、土俵…?と変な顔をしながら呟いたが、暫くすると笑い始めた。
「ふふ、面白い!実に面白い!リリアーナ!!リリアーナ・アイスフェルト嬢よ、この様な格好で、この様な事を言う私を許して欲しい。」
エデル王子の、まだあどけないアイスブルーの瞳がキラキラと輝いている。口元には笑みすら浮かんで、私を見つめている。
「何ですの?」
高飛車にも感じられる返答を返す。私は、悪役令嬢にならなければならない。そして、愚か者にもなれないのだ。
「君は気付いて居たが、改めて名乗ろう。私はこの茶会の主催者であり、この国の第一王子エデル・ハワードだ。」
「えぇ、存じていますわ。その力強き瞳を見て気が付かない訳がありませんわ。」
「気が付かない訳がないと言うが、私が王子本人だと気が付いていたのは、君一人だった。そして、君はこの茶会を下らないと言った。正にその通りだ。私は、君の色彩に相応しい冷静な慧眼に心惹かれてしまった様だ。」
「それは光栄ですわ。」
大凡一般的な5歳児とは思えない会話をし、お互い探り合いながら笑顔を交わす。
そして、なんの脈絡もなく、満面の笑みで最大級の爆弾を投下された…。
「リリアーナ!私の妃となれ!」
ゲームのストーリーには一切ない展開に、私の時は止まり、素でポカンとしてしまった…。
いや、こんな展開知らないもの…。
エデル王子の、輝かんばかりの笑顔が眩しい…。