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19.影から


  とんでもないドタバタ劇を繰り広げた入学式から早一月。

 学園も落ち着きを取り戻し、新入生も学園に慣れ始めた頃、私ことリリアーナ・アイスフェルト公爵令嬢は学園長室へ呼ばれていた。


 何故って?私と学園長が仲良しこよしだから?

 いいえ、利害の一致から協力関係だからです。


「あっ、リリアーナちゃん来たの〜?なら、この書類は後で!」


 学園長は、机に広げていた大量の書類を脇に寄せ、ソファー席へ私を誘う。


「リリアーナちゃん、最近どう?ワシ、エデル王子を焚き付けて、結構動かしてるんだけど。」


 そう、あの日、管理棟で学園長とお会いし、直談判してから、何故か学園長がかなり協力してくれている。

 学園長が言うには、美少女?の真顔と笑顔のギャップって年寄り的にはかなり良い!との事らしい。

 そして、何より私がエデル王子の矯正を、婚約者という立場を利用し行なっていると伝えた所、協力を申出てくれたのだ。


「いや〜、けどワシ、本当リリアーナちゃんに出会えて最高よ?今まで、歴代の王族なんかね…本当にね…」


 涙目だよ…見た目だけならイケオジな学園長…喋り方はジジ臭いしオカマ口調になったりとキャラが濃いけど、見た目だけなら…いや、止めましょう、開けなくてもいい扉を開いては駄目絶対。思わず前世の私がこんにちはしてしまうくらいには、学園長はかなり濃いですけどね…。


「私も、学園長が協力してくださるおかげで、学園の貴賎なしを浸透させる事が出来そうです。」

「ううん良いの!本当、リリアーナちゃんの婚約破棄カード強力で、ワシ今凄い楽よ?王族が率先して雑用とかしてくれるから、他の貴族連中も動いてくれるからね?本当、この学園始まって以来かも。」


 …学園始まって以来なの…?貴賎なしって、ただの標語になっていただけなの…?まぁ、この国の貴族は、基本選民意識が高く家柄でランク付けしてる節がある…。

 ヴィオラ寮長しかりね…。それを考慮してみれば、雑用を貴族が多少なりとでも、行う様になっただけでもかなりの進歩だろう。


「若い世代から、身分を越えて助け合い精神を育くめば、きっとリリアーナちゃんが大人になる頃には、凄くいい学園になると思うよ。ワシ、本当感激。」


 私もそう思います。既に染まってしまってる人達も多いですが、少しづつでも貴族と庶民の垣根が低くなる事を私も望んでますわ。


「私は、王族だからと自身で考えもせず、周りに流されるだけの空っぽな王子様はいりませんの。是非とも、エデル王子が上に立つに相応しい人になれる様、引き続きのご協力お願い致しますわ。」


 私は、学園長に微笑む。私は最高の協力者を得たのだ。そして、学園長もまた最高のカードを手にしている。私という悪役令嬢カードだ。

 私が、裏で王族を変えようとする為に動いているなんて…エデル王子や王族関係者からしてみれば、私はなんて悪女何でしょうね。


 そして、王子が変われば、貴族も変わらなければ排除されるだけ…ふふ…私は歴史に名を残すかも知れないわね。稀代の悪女として。


 最高最悪な悪役令嬢で悪女なリリアーナ・アイスフェルト公爵令嬢…悪くないわね。


「では学園長、引き続き頑張りましょう。私も若輩ながら精一杯頑張りますわ。」


 私は、清々しい気持ちで学園長室を後にする。

 エデル王子の手綱は、この分であれば引き続き学園長が上手く捌いてくれるでしょう。

 私は、私でやれる事をやりましょう。





「なぁ、カリム…」


 エデルは、リリアーナの婚約破棄通知を手にした学園長から販促ポスターを貼るよう言われ、黙々と全教室に『学園の掲げる貴賎なしをもっと意識した学園へ!』ポスターを貼り終わった所だった。


「なんすっか?」


 カリムは、学園長よりお手伝い禁止。荷物持ちまで!を遂行し、ポスターを貼る道具や脚立を持ってエデルの後ろに控えていた。

 カリム自身、今回の婚約破棄一歩手前は、エデルを諭し止めようとしていた手前、やっぱりな。と、いう気持ちと、リリアーナと学園長が協力してエデルのまだ抜け切らない歯車気質や、育った環境による王族気質を矯正する為の事とはいえ、学園の雑用をほぼエデルに投げるのは…と、いう従事者からすると、ヤキモキする1ヶ月を過ごしていた。


「こんな事ばかりして、リリアーナからの信頼は取り戻せるのか…?あの日から目すら合わせてくれないんだぞ…。」


「だぁから言ったじゃ無いっすか。もうこの話はお終いっすよ。そんなに辛いなら、学園長の言うとおり国王にでも破棄の手続きして貰えば良いんすよ。」


 カリムは、エデルが絶対に嫌がる事を言う。そもそも、この婚約自体エデルのゴリ押しから始まったのだ。

 リリアーナが、エデルを好きで受け入れた訳では無い事は、関係者は知っている。だからこそ、エデルはリリアーナに好かれる努力をしなければ捨てられるのは明白だな。と、云うのが周りの意見だ。


 だからこそ、カリムも極力リリアーナの逆鱗に触れる様な事は止めていたのだが、入学というイベントにエデルが舞い上がってしまった結果…婚約破棄一歩手前まで来てしまったのだ。


「いや、婚約破棄はしない。けど、リリアーナに目すら合わせて貰えないのは辛い。と、言うより…私のなにが悪かったのだ…。リリアーナは婚約者なんだぞ…。」

「そこが理解出来なきゃ、リリアーナちゃんとは一生目は合いませんわ。」


 カリムの辛辣な一言に、エデルは項垂れる。


 だが、カリムは知っている。エデルが一心不乱に雑用をこなしている時、リリアーナが影から微笑んで見ていることを。


「エデル王子が、自分本位で無くなれば道は拓けると思うっすよ。」


 カリムは、学園長室から出て来たリリアーナと軽くアイコンタクトを取ると、エデルを叱咤して作業の後片付けを促し、少しでもリリアーナの信頼を主君が取り戻せるよう、サポートに務めるのだった。





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