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16.5前向き


 優しい優しいリリアーナ様。笑顔はまるで大輪の百合のよう。


 私の様な庶民を、素敵と言ってくれた。私を可愛いと言ってくれた。私に仲良くしてと言ってくれた。

 自身は公爵家令嬢で、貴族のトップにいらっしゃる方だ。それどころか、この国の第一王子婚約者であり、実質次期女王陛下…なのにも関わらず、平民である私と肩を並べ、優しい言葉をかけてくださる。


 しかも、リリアーナ様はそのお美しい内面に違わず、とっても美しいのだ。まるで氷の彫刻の様な色彩で、ニコリともしないと思っていたのに、とても誇らしげに微笑むのだ。


 もう、その笑顔といったら、私の長年の悲しみを包み込むような聖母の如く…!


 しかもしかも、私の様な庶民にすら、嫌悪せず触れてくれるのだ。プラス、笑顔のおまけ付き…!!!

 これが、慕わずしてです!!!



「リリアーナ様?雑用をされるのですか?」


 私は、先程までヴィオラ寮長とバチバチ火花を飛ばしていたリリアーナ様へお声をかける。リリアーナ様は雑用でも何でもすると仰ったからだ。


「あら、サクラさん。勿論ですわ。何事も経験無くして上に立つべからず…ですわよ?」


 とても美しい笑顔で私に回答してくださる。だが、この真珠の様な手で雑用を?この美しい人にさせるのか…?

 そ、そんなの駄目です…!駄目!



「駄目です!リリアーナ様の美しい真珠の様な手が荒れてしまいます!!!雑用は慣れてる私に任せてください!!!こう見えても、家では家事全般私がしてたんですよ!」


 そう、家族の居なくなった家で、私はずっと一人で生活をしていたのだ。だから、学園の雑用位お手の物だ。

 私の事を素敵と言ってくださったリリアーナ様の為なら、雑用だって苦にならない。


「あら?なら、掃除とか色々、私がわからない事はサクラさんにご教授願いますわ。そうね…取り急ぎ…ではないけれど、サクラさんのお時間がある時にでも、私とお茶でも如何?私、学友とお茶を嗜むのが楽しみでしたのよ?その際、色々ご教授くださいませ?」


 キョトンとしたあと、コロコロと楽しそうに微笑むリリアーナ様…。こんなにも身分の違う、石ころの様な私を学友と言ってくださるのですか?


「お茶ですか?」


 私は、リリアーナ様のリップサービスだと思い、思わず繰り返してしまった。


「えぇ、私、勝手ながらサクラさんとは既に友達だと思ってますの。ですから、更に交友を深める…的な?」


 クスクスと楽しそうに、歌うようにリリアーナ様は私が嬉しくなる様な言葉ばかりくださる。


 先程まで、寮長とバチバチしてたリリアーナ様は、影も形もない。今日一日でリリアーナ様はご自分を悪く見せて、私達の様な力ない庶民を貴族から守る様に行動してみたり、かと思えば、年相応に家柄等関係ないとばかりに距離を縮めてきたり…リリアーナ様のなさる事は、ビックリ箱みたいだな…と、いうのが私の中の印象だ。


「私で良ければ喜んでお茶します!リリアーナ様と、お茶出来るの楽しみです!」

「それは勿論、私達も参加していいんだよな…?」


 後ろから恨めしそうに、羨ましそうにエデル王子が話しかけてきた。エデル王子は、見目は美しいし、性格も良いのだろうけど、リリアーナ様以外眼中にないのだ。まぁ、その気持ちも分からないでもないけど…。


「勿論、駄目です。サクラさんとは女子会をするんですから。エデル王子はカリムとでもお茶してくださいな。」


 リリアーナ様は、エデル王子をサラッと躱す。見事に玉砕したエデル王子が泣きそうな表情をする。

 あ〜ぁ、リリアーナ様…王子泣かしました…ん…?んん?


 泣きそうなエデル王子を、まるで至福だとでもいう様な…蕩けそうな笑みでリリアーナ様が…眺めてる…?


「ふふ、さぁサクラさんお部屋に私達も戻りましょう。寮では部屋が離れてしまいますが、気軽に訪ねて来てくださいね。お待ちしてますわ。」


「あ、はい。」


 リリアーナ様は、素敵な笑みを浮かべながら、部屋へと戻って行った。うん、私も戻ろう。戻って日記に今日あった事を書かなければ…!!









 リリアーナ様は、花だ。

 一流の芸術家が創り出した氷の女神の様な見目にも関わらず、よく微笑まれる。

 その笑みは、花が咲き誇る春の様だ。

 そして、とてもお優しく、とても残酷だ。


 リリアーナ様は、花に群がる虫を気にしない。虫がいくら飛び回ろうとも何も堪えない。一輪で凛と咲き誇る百合は、他の生き物等歯牙にもかけないのだろう。


「同い年なのに、リリアーナ様はお強いわ…。」


 背筋を伸ばし、先を見据えるリリアーナ様と同じ目線で世界を見たい。そのためには、リリアーナ様が今置かれている立場を理解し学ばなければ、リリアーナ様に頼ってはもらえない。


「私は勉強しか出来ないけど…いつかリリアーナ様と対等に話せるよう、もっと、努力をしよう。リリアーナ様に頼ってもらえるようになろう!!!頑張る!」


 私は、お父さんお母さんが亡くなってから、初めて前向きになれてる気がする。

 世界がキラキラしてる。


 誰かの為に努力をするのは楽しいんだって気が付いたの。


「リリアーナ様とのお茶の時にはお菓子でも焼いて行こう!ふふ、リリアーナ様喜んでくれるかしら?」


 私は、日記を閉じる。胸が一杯でご飯が入るか分からないけど…、食堂へ向かう。

 食堂で、リリアーナ様のお隣をゲットする!絶対する!競争率が高いだろうリリアーナ様の隣を目指し、私は急ぐ。



 食堂へ着いた時、そこには赤ブドウのジュースを頭から被り、不敵に笑うリリアーナ様と、憎々しそうにリリアーナ様を睨むヴィオラ寮長がいた。


 私は、何でヴィオラ寮長がこんなにリリアーナ様を憎むのかが分からない。けど…、コレは無い!


「リリアーナ様!!大丈夫ですか!?」


 私は、2人の間に割って入っていったーーー…。


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