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16.努力と憎悪


「にゅ、入学したばかりの子供に何が出来ますの!?私は寮長で副生徒会長ですのよ!?今まで通り、雑用は庶民が行います!寮長補佐は不要です!!」


 ヴィオラ・クローズ伯爵令嬢の底を見たわね。所詮は子供…いえ、小物ね。私の敵で無くてよ。

 貴族らしい貴族の場合、格上の家から自分の言い分に反論されるのは言い返せない分とても不愉快で腹立たしいのだろう。しかも、ヴィオラはわたしに比べ家柄は格下だが、学園では新入生と副会長という明確な違いがある。

 故に、学園内では格上なのだ。だからこそ、より不愉快で腹立たしくそして、私が目障りになっただろう。



「庶民が雑用…?その考え方は頂けませんわね。繰り返しますわね?この学園では貴賤なし。貴族も庶民もありませんわ。」


 私は、このままヴィオラをコテンパンにして、私がより悪役度高い事を知らしめてやりますわ!

 では…っ!?と、一歩踏み出そうとした所、軽く押し戻される。


「うん!その通りだね。ヴィオラは落ち着きなよ。リリアーナさんの言うとおりこの学園は貴賤なしだ。それに、折角寮で生活をするんだ、庶民の知恵とか教えてもらいながら学ぶのも楽しくないかい?」


 突然のケインの乱入。先程までヴィオラを眺めながらニヤニヤしてたのに…、食えない男ねケイン・ハイム侯爵子息。


「それに、可愛いヴィオラの怒ってる顔は見たくないかな?ニコニコして下の学年の子達を導くお姉さんなヴィオラが見たいかな〜?」


 お?


「なっ!何を言ってますの!?馬鹿馬鹿しい!!!と、兎に角私は認めませんからね!!!公爵令嬢なら公爵令嬢らしく黙って上に立っていればいいのよ!!この寮の事には口出し無用!良いですわね!!」


 早口で捲し立て、早足で去るヴィオラ。それを、ポカーンと眺める新入生達。


「ヴィオラはあぁ言ってたけど、俺は賛成だよ?誰にも文句言われず王子に命令出来るチャンスだ(笑)」

「あ〜、それはそうっすね!エデル王子、俺腹減ったんで食堂の席取り宜しくっすよ!」


 フォローを入れるケインと、悪ノリするカリム。うん、想像出来てたし、やると思ってましたけど…本当にやるのね…25歳よ…


「カリム、悪ふざけは辞めにして…。さぁ、同級生の皆様!ケイン生徒会長からお許しは出ましたわ。本日より私リリアーナとエデル王子が雑用から悩み相談まで受け持ちますわ!それに、私達は同級生ですし、先輩方に言えない事も気軽にお話下さいませ。私、精一杯頑張りますわ。そうね…」


 私はニヤリと悪役令嬢の微笑みを浮かべる。


「アイスフェルト公爵家の令嬢としても、ルワード王国第一王子の婚約者としても、恥じない結果をお約束致しますわ。ふふ」


 同級生一同、ついでにケイン生徒会長が、目を見開いて私を見たと思えば、下を向いてしまう。


 うんうん。ヴィオラ・クローズ伯爵令嬢に貴賤なしと喧嘩売った口で家名を掲げる…、何と汚いやり口なのかしらね。私、自分で自分にドン引きよ?


「さぁ、寮長が居なくなってしまいましたが、各自自室へ移動しましょう。18時には食堂へ集まって下さいませ。はい!行動!」


 私は、ケイン寮長が残っているにも関わらず、指示を出す。だって、ケイン寮長とカリムが何か2人でコソコソしてるんですもの。足元にはエデル王子が体育座りしてますし…。


 何なのかしらね?









 新入生が集められたホールから離れ、自室へと向かうヴィオラ。その表情は険しく、怒りに震えていた。


「何なんですの!!!あの小娘!!!私から、家柄の優劣だけでなく、肩書まで奪うというの!?第一、第一王子の婚約者はあんな小娘より私の方が…!!!」


 カッカッと、静かな廊下に激しく足音が響く。エデルがリリアーナを見初めたあのお茶会では、同世代だけでなく、学園で関わるであろう年代も呼ばれていた。

 だが、リリアーナもエデルもお茶会自体に対して興味がなく、同世代だけが集められているものだと思っていた。


 そのお茶会で、ヴィオラは王子の婚約者になりたいと意気込んでいた。だが、茶会には王子の姿はなく、汚らしい庶民の様な者までおり、ヴィオラは王家主催にも関わらず、何と品位の低い茶会なのかしらと憤慨していたのだ。挙句、茶会は早々に終わり、後日アイスフェルト公爵令嬢とエデル王子の婚約が正式に発表となった。


「あのアイスフェルト公爵令嬢が居なければ…絶対、あの小娘が家名を盾に王家に婚約をゴリ押ししたに違いないわ…!」


 ヴィオラは、激しい怒りと憎しみをリリアーナに抱いていた。そう、それはリリアーナとエデルが婚約をした時から…早2年程になる。婚約をゴリ押ししたのはリリアーナではなくエデルなのだが、その事は一部の王家関係者、公爵家関係者と、当事者しか知らない。

 故に、この婚約はアイスフェルト公爵家が、広大な領地と確固たる地位を盾に王家にゴリ押ししたと云う説を信じている貴族も少なくない。

 ヴィオラも、アイスフェルト公爵家ゴリ押し説を信じきっている貴族である。…と、云うより、王家に嫁ぐに価する家柄で、エデル王子と歳が近しい娘を持つ貴族は、揃いも揃ってゴリ押し説を推していた。


 何より、リリアーナが婚約を発表してから、王城と公爵家の往復でひたすら努力をしていた為、他家主催のお茶会に一度も参加しなかった事がお高く纏まってる。もしくは、馬鹿にしていると各々判断したためだ。


 挙句、たまに女王陛下主催の茶会に参加したとしても、ニコリともしないリリアーナは、血の通わない氷の令嬢として注目され、ゴリ押し説を後押ししていた。


 リリアーナから言わせれば、週7で王城との往復、勉強、特訓、鍛錬と繰り返してた為、疲れきって笑顔すら作れなかった…と、いう所らしい。



「エデル王子は騙されてますのよ!!!私が学園に在籍中に本性を暴いてあげますわ!!!」



 こうして、ヴィオラ・クローズ伯爵令嬢を中心とした貴族令嬢達によるリリアーナ・アイスフェルト公爵令嬢とエデル王子の婚約破棄を目的とした一派が誕生する事となる。


 それと同時期に、男性陣を中心としたリリアーナ・アイスフェルト公爵令嬢非公式ファンクラブと、庶民の子女や家柄がパっとしない貴族令嬢を中心としたリリアーナ・アイスフェルト公爵令嬢を慕う一派が誕生する。


「ケインすら籠絡したのかもしれませんが、私は負けませんから!!!」


 自室前に着いたヴィオラは、仄暗く光る嫉妬の炎を滾らせ、決意を口にする。


「必ずや、エデル王子との婚約破棄を…。」


 


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