14.5清廉潔白な花
5歳の時、百合の花の様に美しく、とても努力家で聡明な婚約者が出来た。それは私の初恋だった。
父親である国王の権力を利用してでも、どうしても手に入れたくなった一輪の花だった。
そんなこんなで、ようやく手に入れた婚約者は、見た目に違わず凛とした清廉潔白で自分の甘えを許さず、時間があれば勉強・鍛錬・特訓と、休む事を良しとしないそんな少女だった。
そんなリリアーナに好かれたくて、リリアーナと同じ視線に立ちたくて、リリアーナに聞いた事がある。
「何でリリアーナは、そんなに頑張るんだ?」
リリアーナは、大きなラベンダー色の瞳を更に大きくして少し驚いた後、花が綻ぶように微笑んだ。
「エデル王子はおかしな事をおっしゃいますのね?私は私の責務を果たす為ですわ。私は公爵家に生まれ、そして未来の王妃となります。ならば、国民一人一人の未来が、生活が私に掛かっているという事ですわ。私は私の所為で誰かが不幸せになる事も、悲しむ事も是と致しません。それは逃げです。なので、私に出来る事はやろうと決めているのですわ。だから頑張ってる?…ですかね?」
とても愛おしげに、そしてとても誇らしげに眼下に広がる王都を眺める。その姿に私は2度目の恋をした。
まだ、少女と呼べる年だ、いや私もだが…。もっと他の令嬢の様に遊びたいだろうに。彼女の家柄が、私の婚約者という立場がそれを許さないのだと笑う。
ただ、その笑顔には悲壮感等なく、誇らしげに愛おしげに微笑むのだ。
「リリアーナ、私はどうしたら君の様に頑張れるのだろうか?」
「あら?エデル王子は国民の為には頑張れませんの?なら、私の為に頑張って下さいな。私が貴方を格好いいと、誇れると胸を張って紹介出来る様な、そんな素敵な男性になって下さいまし?」
コロコロと微笑むと、リリアーナは次の勉強の為移動していった。私の胸は、リリアーナへの尊敬の念や愛おしさや認められたいと云った承認欲求が生まれた。
この清廉潔白な白百合に恥じない、そんな王に私はなりたい…いや、なる。そして、心からリリアーナに愛されたいと渇望するようになった。
「あ〜ぁ、恋とはこんなに焦がれるものなのか。」
「おっと!大人びた成長発言!お兄ちゃんは嬉しいっすよ〜!!!」
カリムが茶々をいれる。
この気心知れた護衛兼従者のカリムは、私が赤子の頃から一緒にいる正に、兄の様な存在だ。
「カリム、私はリリアーナの誇りとなれるような、そんな王になるよ。国民の為…と言えないのが、まだまだかもしれないが…。」
「良いんじゃないっすか?惚れた女に良く見られたいって男っすよ。それで良い国王になれるなら、国民も万々歳ってなもんっすよ。」
私は、この日からリリアーナに負けじと勉学や剣術、果ては政務に関して学んでいく。
ただ、惚れた女に愛されたいという俗物の様な汚い感情ではあったが。
「はぁ…これから学園生活で毎日リリアーナに会えるんだろ?どうしたらいい?嬉しい反面、他の男達にリリアーナ見られたくない…穢れる…。」
「嫉妬に呑まれた男はみっともないっすね。男はバーンっとすよ。」
「カリムは良いよな〜…バカだから。」
私は、こうして入寮前の最後の日を悶々として過ごした。そして、リリアーナを周りに取られたくないと云う利己的で自己中な考え方で、カリムに止められたにも関わらず、私はある事を強行した。
「これで、誰にもリリアーナは取られない!」
「絶対辞めた方が良いっすよ。リリアーナ嬢の怒る姿が脳裏に浮かぶっすよ。」
「いや、リリアーナなら笑って許してくれるさ!」
この強行した行動の所為で、私は後々あり得ないほど絶望する事となる。
◇
「カリムは、馬鹿に見えて相当周りを見てますわよね…。それは、護衛としてですの?それとも、何か他に理由があるのかしら?」
凛として聡明な俺の主の婚約者。
リリアーナちゃんは、エデル王子が居ない隙を見計らって俺に聞いてきた。
「何がっすか?」
「それよそれ。そもそも、近衛兵をしていたなら、上下関係や言葉遣いも相当初期に叩き込まれてますわよね?それなのに、私達の前ではおちゃらけてばかりでは無いですか。私達を馬鹿にしている訳では無いのは分かりますのよ?でも、何故かしら…たまに不安になりますのよ?」
この聡明なお嬢様は、俺の言葉一つ、態度一つとっても気になると考えて居たらしい。
そこには、敵意等を感じない故に怪しいと…。
「ははっ!良いですね。なら、お答え致しますよ、小さなお姫様。」
「そういうのは結構、ですが、貴方の本心は知りたいと思ってましたわ。」
エデル王子の選らんだ少女は、年の割に大人びた考え方や、表情をする事がある。この日もそうだ。
ただ悔しいと泣いたりする子供が多い中、地に足をつけ己で考え探究し、更には行動力もありふれている。
「そうですね、私が近衛兵になったのは貴族位が欲しかったからです。そこから、赤子のエデル王子と出会い、護衛兵となりました。それからは毎日が楽しくて、この小さな王子の為なら何でもしてあげよう…その為なら、貴族位なんか諦めようと思える程でした。…そして、私の仕える王子は恋をした。それが貴女です。」
そう、俺は貴族位が欲しかった。だから、血の滲むような努力もしたし、実際に貴族位が手に入る地位にまで上り詰めていた。
けど、そんなモノより俺の手を握ったエデル王子の為に生きたいと思ったんだ…。
「エデル王子は、貴女に出会ってから、国の歯車としてではなく、一人の男として人間として生き始めた。それが、どれ程嬉しかったか…。ただの護衛兵ではありますが、エデル王子の御身の為ならば…と、思っていた私にとって、貴女は光だ。だからこそ、私は貴方達2人を何者からも護る事に決めたのですよ。」
「…それで?」
「私が道化を演じる事で、貴方達2人の憂いを取り除けるならば…と。」
「違うわね。いえ、多少それもあるのでしょう。けど、根底からして…そうね、貴方はエデル王子の本当の兄…の様な者になりたい、いえ…兄として接していたい…が近いかしら。」
ドキリとした。このラベンダー色の瞳は、何も情報を逃さぬ様、俺の瞳から目を離さない。あぁ、エデル王子の選んだ女性はかくも聡明か…。
「勘弁して下さい…。これ以上は駄目です。」
「ふふ、今回は私の勝ちね。いいわ、カリムいつか貴方からエデル王子の兄として私達の結婚でも祝って頂きましょう。ふふ、楽しみだわ。」
エデル王子は、リリアーナ嬢を清廉潔白というが、アレは違う。もっと棘のある毒花…
一度囚われたら戻れない…そんな花だ。
「まだ年端のいかない少女に…しかも、主の許婚…。勝ち目はないな。」
俺の独り言は誰の耳にも入らず、風に流される。
「…?さぁ、カリム、私は女王陛下とのお茶会に行きますわ。途中まで?」
「えぇ、勿論ご一緒させて頂きます。未来の麗しき女王陛下。」
嗚呼、本当にままならないものだ。




