13.無理難題
あら、ついつい…地が…
私は、微笑みながら、サクラの赤くなった頬に触れる。
「ふふ、真っ赤ね。サクラさん、騒がしくしてすみませんわ。申し訳ないのだけれど、私の席を教えて下さる?」
私は、更に真っ赤になったサクラを面白いなぁ、可愛いなぁ、主人公って本当に可愛く出来てるのねぇ…等と聞いた事に全く関係ない事を考えていた。
故に、無意識に言葉が出てるとはつゆにも思わず。
「真っ赤になって愛らしいわね…熟れた林檎みたい、食べてしまいたいわ。」
私は無意識だった。この言葉が、あんな騒動になるなんて思ってもみなかった。
「あ…、リリアーナ様…、お手が…」
サクラが意を決して私に訴えかけて来た。
あ、無意識に唇もプルプル〜とか考えてたから、指が唇にのってたのね。
「失礼、あまりにも美味しそうに見えてしまいましたの、許してくださいね。」
私は、微笑みながら謝罪した。
「はぅぅ…リリアーナ様になら食べられてもいいですぅ…。」
「はいはい、で、席は何処ですの。」
こういう事は切替えていかないとね。
カリム達の漫才に長い事付き合ってたから、流すのは得意よ!転生してからの特技と言ってもいいかもしれないわね。
「リリアーナちゃん、無意識無自覚無神経って呼んで良いっすか?」
「え?失礼ですわね?」
突然、いや、先程からか…、カリムから失礼な事を言われる。なんか、無神経が追加になってません事?
「あの、リリアーナ様の席は私の隣の右側です。エデル王子の席は私の左側です。カリム様の席は一番後ろですぅ…」
おずおずと席を教えてくれるサクラ。
主人公補正だろうか?本当に小動物の様で愛らしい。私の見た目が見るからに気が強そうで、冷たそうな印象とは真逆の愛らしさだ。
うん、こんな可愛い子イジメられる程、私根性婆色じゃないわ。無理ね。
悪役令嬢は、態度だけにしましょう。ゲームみたいな陰湿な事向いてないわ。悪役令嬢って、何気難しいのね…。
「サクラさんは、私の隣ですのね。仲良くして下さいね。」
私は、早々に陰湿系悪役令嬢は諦め、サクラと仲良くする事にした。もう、財力とかでしか悪役令嬢自慢は無理ね!こう、生徒会会長とかになって権力を振り回す系で頑張ろうかしら。
ただ、ゲームでは…いえいえ、もう此処はゲーム風味な別の世界と納得したじゃない。ゲームみたいな陰湿系悪役令嬢が出来ないなら、権力振りかざし系悪役令嬢になるしかないのよ!!
第一…私、元々庶民なのよ?挙句、自分の世界にこもる系だから陰湿な虐めなんか分からないのよね…真顔になるくらいしか悪役っぽい事出来ないわ。陰湿系は元々無理なのよ。諦めましょう。
はぁ…お部屋に帰ったらマリーに相談してみましょう。権力系悪役令嬢になりたいから、どうしたら、悪役っぽく見えるかしら?って、変な相談ですけどね。
「…エデル王子?リリアーナちゃん遠く見て微笑んでるあの顔…本当に7歳っすかね?なんか、色っぽ…さぐへっ!!!!」
カリムは、相変わらずバカな事を言ってますこと。
エデル王子に鳩尾に拳をプレゼントされたわね。
「カリム、本当に黙れ…わ、私も危惧して…う…涙が出てきそうだ…私のリリアーナが…学園一の美女だと…きっと…うぅ…」
あら、やっぱりエデル王子の悲しんでる顔、堪りませんわね!
「はぅぅ…リリアーナ様の憂い帯びたお姿もお美しいですわ…はぅぅ…」
あら、サクラ何を悶てますの!?何で!?
しかし、席を知るだけでこれだけの騒動…、本当にこのクラスは騒がしいわね。
◇
〜入学式直前、職員室で〜
「いや〜、しかし、今年度は凄いのぅ。」
白髪混じりの、見た目は正にロマンスグレーな、イケオジな学園長。喋り方は、気のしれた部下達の前という事もあり砕けきっていた。
「学園長、僕もそう思ったんですよ!しかも、僕のクラスに王族と、公爵家のご令嬢ですよ?クラス編成やっぱりおかしいですよ!」
ひょろりとした、丸眼鏡で髪がボサッと長い冴えない見た目をした男性教員。
だがその実、髪をセットし、野暮ったい眼鏡を外せば、整った顔をした中々のイケメンである。しかし、本人はピシッとした肩苦しい正装などが苦手で、逃げるかの如く、貴族から研究も出来る教員になった変わり者である。
「いやいや、若手ホープ!生徒の信頼も厚く、何より自身も侯爵家じゃないですか!ワシみたいな老いぼれ爺さんには出来ない事も出来ると信頼しているよ!」
ロマンスグレーの学園長は、若き教員に丸投げを決め込んでいた。なぜなら…
「えぇ〜…学園長、完全に丸投げですよね?」
「だって、ワシ、王城で一目見たときから、あのリリアーナ嬢怖いんじゃもん。絶対笑わない!あの子絶対笑わない!ワシ美人の冷ややかな視線トラウマ!」
「そんな理由ですか!」
「しかも、王子はあの冷酷無比な令嬢に夢中なんじゃぞ?クラス分けたら何されるか分かったもんじゃないじゃないか!後は適当に優秀そうな、子達を詰め込んで決めたから!」
パチンッとウインクをすると、教員の肩に手を置く。
「ワシ、決めたの。王子卒業するまで、あの冷酷無比公爵令嬢と離さないようにクラス替えしないから!特別クラスにしたから!後は宜しく頼んだぞ!」
ハハハ!と、笑いながら入学式会場となる講堂へ向かう。
リリアーナが、何故クラスが同じなのよ!と、絶望するのはまだ暫く先だ。だが、その前に絶望する声が響く。
「それって、王子が卒業する迄の8年間僕が担任なんですか!?そうなんですか!?ねぇ学園長〜!こうちょーうー!!!」
学園長に丸投げされ、ある意味隔離クラスとなったリリアーナのクラスの担任は、入学式に向かう学園長の後を追って小走りでついていく。
「だって、若い方が王子の我儘とか聞くの楽じゃろうしな。」
学園長は決め込んでいた。王族は王位を意識するまで傍若無人で暴虐非道な手に負えない子供だと。それ故、体力のある若い教員を担任に充てようと最初から考えていたのだ。
自身が若き頃、現国王の担任を勤めたからこその采配であった。
「これ乗り越えたら、君も未来の学園長になれるからな。」
その瞳は、確信に満ちていた。そう、かつての自身をその教員に重ねて見ていた。
「まぁ、これも経験よな。」
生徒達が集まる講堂へ足を踏み入れる。これから、学園長の挨拶を皮切りに入学式が始まる。
「さぁ、私の可愛い生徒達へ挨拶をしようかー…。」




