9.5 侍女は夢を見る
私はマリアンヌ。元々ただの平民だ。そんな私が、リリアーナ様の側に仕え始め、4年経つ。
百合の様に優雅で気高い我が主は、明日から学園の寮へ入られる。
もちろん、私はリリアーナ様の居る所に控える所存なので、何処に居られようと問題はない。
リリアーナ様は、婚約者であらせられるエデル王子と、仲睦まじく入寮する…と思われる。
学園側もこの国の第一王子と婚約者であるリリアーナ様との部屋割りはかなり頭を悩ませた事だろう。
なにせ、エデル王子がリリアーナ様に一目惚れし、婚約をゴリ押ししたのは、平民の中でも有名な話だ。
エデル王子が、リリアーナ様に王名としての婚約をゴリ押しして来た翌日には、王都の各社新聞社にリークされ…リリアーナ様が婚約を受入れ、王城にて婚約式を行った際には新聞社どころか、王都民だけでなく、国内の民達が注目する事になったのだ。
まぁ、リークしたのは、カリム様なんですけどね…。
その事を知ってるのは、私とカリム様だけ。カリム様がリークをしている場面に丁度出くわしてしまったのよね…、しかしながら、カリム様は何を考えてリークなんてしたのでしょう?
しかし、ここ最近…本当に、リリアーナ様の周りは賑やかになりました。
あの頃は、私しか居ませんでしたのに。
◇
私とリリアーナ様との出会いは…
私が8歳の時、両親はたちの悪い風邪で亡くなった。家族がいなくなり、心配してくれた近所の人のおかげで、翌日には教会に併設された養護施設へ入ることとなっていた。
まだまだこの国には少ない養護施設ではあるが、アイスフェルト公爵領では、昔から養護施設が複数あり、親を亡くした子達はストリートチルドレンになる事もなく、至極平穏な日々を過ごせる。
それを知ったのは、領主様であられるアイスフェルト公爵様が視察に訪れた際、一緒について来ていたリリアーナ様に拾われてからだった。
私と、リリアーナ様が出会ったのは、本当に奇跡とも呼べる程ほんの偶然だった。
私が、教会に向かう途中、連日の引越し作業等で疲れ果て、木陰で座り込んでいる時だった。
アイスフェルト公爵領の中でも片田舎のこの村では、見た事もないような見事な馬車から、昔お母さんに寝物語で聞かせてもらったお姫様が降りてきたのだ。
私は、疲れ果て夢を見ているのだと思っていた。
だがそれは夢ではなく、お姫様の様なリリアーナ様は、鞄一つ持っただけの薄汚い私の手を、真珠の様な御手で包み込むと、私に素敵な笑顔を下さった。
「わたしのために、そばに、いてくれませんか?」
それは、正に夢物語の様だった。
お姫様の様な…いえ、私にとっては今も昔も、リリアーナ様だけがお姫様だ。そんなお姫様が、私如きの為に膝をつき、上等なドレスが汚れる事も、真珠の様なお手が汚れる事も厭わず、微笑んで下さったのだ。
私は、悩むことなく二つ返事で、リリアーナ様のお側にお仕えする事を選びました。
それからは、怒涛の毎日だった様に思います。リリアーナ様が、公爵令嬢として勉強をなさっている時は、私は侍女としての勉強を、リリアーナ様が剣やダンスの特訓をなさる時は一緒に鍛錬に励んだりしました。
来る日も来る日も、お互いに高め合い、気付けば私はリリアーナ様の影としての技術も習得出来た。
全てはご協力して下さった旦那様と、カリム様のおかげだ。
体術や剣だけでは勿体無いと、カリム様が影として現役引退をされた後の師匠を紹介して下さったのだ。
リリアーナ様が王妃としての勉強をしている時間、私はひたすら影として師匠の元、鍛錬を積んでいた。
全てはリリアーナ様の為に。
ここ最近、師匠からは、ようやく御墨付を頂き、リリアーナ様の長期休みの際には、都度報告する事を約束した。
私は、この学園でリリアーナ様に憂い無く過ごして頂きたい。リリアーナ様の素晴らしさを周りが知るきっかけになれば良いと思っている。
リリアーナ様は、身分性別分け隔てなく、皆に幸せを届けて下さるから。それを、皆に実感していただきたい。
◇
「おはようございます、エデル王子、カリム様……?」
「おはよう、マリアンヌ。リリアーナの準備が終わってれば一緒に学園に行こうと思って迎えに来てしまったよ。」
入学式当日、朝も早くからエデル王子とカリム様が、アイスフェルト公爵家まで迎えに来られた。
こうなる事は、リリアーナ様も私も想定していたので、リリアーナ様の荷物はアイスフェルト家の馬車には積んで居なかった。
「えぇ、リリアーナ様は既に準備も整い、旦那様方へ挨拶しております。」
「なら、私も公爵へ挨拶をしよう。カリムはリリアーナの荷物を積んでおいてくれ。」
「あいよ〜、了解っす。」
軽快な…と云うよりは、軽すぎる返事をして、制服姿のカリム様が荷物を…って!?
「何故制服姿なのですか!?」
「ほら、俺学生になりたかったんで。ただの護衛は学生にはなれないっすけど、勉学を学びたい人には年齢問わず門を開いてくれるみたいっすね。」
荷物を軽快に積み込みながら、多分適当に作った理由を話してくる。
結局の所、カリム様はエデル王子から離れたくないだけなのだろう。
「でもまぁ、これからも一緒って事すよ。学園の寮でも宜しくな。」
「はい。」
きっと、これからも賑やかなのだろう。そして、まだまだリリアーナ様のお側で夢を見させて頂けるのだろう。
私は、ほんの少しだけワクワクしながら、馬車へ荷物を運ぶ作業を手伝った。
「ふふ、本当に楽しみです!」




